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[本・レビュー] 乳腺腫瘍学 第3版
これまでのデータでは一生涯で、日本人の女性の11人に1人が乳癌に罹患するといわれていましたが、2017年のデータに基づき、9人に1人へと罹患率がアップしてしまいました(国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計参照)。
本書は2020年4月2日に第1刷が発行された第3版で、2016年4月に発行された第2版に比べページ数が50ページ程ふえ、治療薬などの情報もアップデートされています。
本書は、乳腺専門医セミナーのテキストとして利用されるため、専門性はもちろん高いのですが、医学書のなかでも抜群に読み易いです。
通常、外科系の学会は、外科医を中心に構成されるため、内容も構成も非常に硬くなりがちです。
ところが乳癌の場合、検査の大きなウエートを占める、マンモグラフィや超音波検査は、放射線技師や検査技師の方々が検査を担当されるため、医師以外のスタッフの診断能力も非常に高度となります。
また、乳癌の場合は、外科的手術はもちろんですが、薬物療法も非常に大切かつ効果的ですし、部分切除術後の放射線療法や、領域外リンパ節への放射線療法の必要性から、乳腺外科のみならず腫瘍内科、放射線科などの様々な領域の医師が関与することになります。
結果として、日本乳癌学会は、様々な分野の医師が所属し、放射線技師、臨床検査技師、看護師、リハビリスタッフ(作業・理学療法士)、ソーシャルワーカーなど様々な職種の人達で構成されます。
そのような背景も影響していると考えますが、本書は医学書の中ではずば抜けて読み易くなっています。このレベルの医学専門書で、ここまで読み易いテキストを私は他には知りません。
海外では『Diseases of the breast』や『Breast』といった1000ページを超える乳腺疾患の専門書が存在しますが、日本語では、まとまったテキストはあまり見つかりません。
またガイドラインも最新のものはQ&A形式である上に
「弱く行うことを推奨する」
や
「弱く行わないことを推奨する」
など
読み終えると、「!?結局どうなんだっけ?」とまとめなおしが必要となります。
そんな中で、本書は現時点での乳癌についての知見をまとめる上で非常に優れた一冊だと思います。
医療職に限らず、乳癌についてそれなりに詳しく勉強してみようと思われる方にも、本書はおススメできると思います。
本書では記載がありませんが、『THE BREAST 第5版』などを見ると非浸潤性乳管癌(原則としてリンパ節や他の臓器に転移を起こさない乳癌)と浸潤性乳管癌(リンパ節や他の臓器に転移を起こし得る乳癌)の中には、その境界が非常に評価困難なものが存在するようです。
また乳管癌と小葉癌は、必ずしも発生場所で区別できるものではなく、やはりその境界は曖昧なようです。
非浸潤癌も、再発を来した場合には浸潤癌がみられることも多いことが報告されています。
やはり悪性腫瘍は早期に見つけるにこしたことはないと考えます(腫瘍の増殖速度が遅く、放置していてもなかなか変化しない腫瘍の存在も一部示唆はされていますが、そうでなかった時のリスクを考慮すると、やはり早期発見が望ましいと考えられます)。
是非40歳を過ぎたら、定期的な検診受診をおススメします。