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[本・レビュー] 21世紀の資本
資本(不動産や、株、債券など)の平均年間収益率>経済の成長率=所得や産出の年間増加率
資産家にどんどん富が集中していくから、資本に対する累進課税を行いましょう。おしまい。
だけではもったいない!。個人レベル、国家レベルで様々なことを考えさせられる一冊。
本書の訳者である山形浩生さんは、著書の『断言 読むべき本・ダメな本』で
本書のあらすじについて
"なんかみんな天地鳴動大地震撼の革命的な本だと思ってすっごい期待しているようだけれど、本書に書かれていることはとても簡単だ。各国で、富の格差は拡大してます、ということ。そしてそれが今後大きく改善しそうにないということで、なぜかというと経済成長より資本の収益率のほうが高いから、資本を持っている人が経済成長以上に金持ちになっていくから。その対策としては、世界的に資本の累進課税をしましょう、ということね。たとえば固定資産税は資産額が大きいほど税率高いようにしようぜ。おしまい。"
と記載されていました。本書の最も重要なポイントは上記の通りです。
しかしながら、掘り下げると色々考えさせられるところがあり、上記で「おしまい」にしてはもったいないと感じました。
まず、個人レベルの観点からみてみます。
本書では
〇株式の平均長期収益率は、多くの国だと7―8%。
〇不動産や債券投資は3-4%くらいの収益率が多く、公債の実質収益率はときにずっと低い。
〇世界の技術的な最前線にいる国で、1人当たり産出成長率が長期にわたり年率1.5%を上回った国の歴史的事例はひとつもない
といったデータが紹介されています。
これらの数字および、チャールズ・エリス『敗者のゲーム』、バートン・マルキール『ウォール街のランダムウォーカー』、グラント・サバティエ『FIRE』を考慮すると
長期・分散・積立のパッシブなインデックス型の投資は、まさに「富裕層の投資」そのものだと言えます。
また、インデックス型の投資では何に投資するかにおいて、S&P 500やTOPIX, 日経225などが挙げられてるのをよくみかけます。上記にあるように、長期にわたって経済成長率が年率1.5%を上回った国は見当たらないことが指摘されており、過去の日本やヨーロッパが見せた高い高度経済成長率は欧米への「キャッチアップ」だったと説明されています。
そうであれば、アメリカや日本だけに投資するのではなく、全世界型に長期にわたって投資をすることで、アジアやアフリカの高い経済成長を期待できる可能性があります。
また、現在のように中国やアメリカ間での政治的問題が出ることも考えられるため、長期では全世界型がよいかなと考えるようになりました。人口増加率の観点からもアジアやアフリカには可能性があると考えます。
分散という観点から、全世界の株式を選択肢にいれるのはジェレミー・シーゲル氏の『株式投資の未来』でも触れられていました。
ここに『FIRE』の概念を付け加えると
〇一年に要する金額×25倍の資産を作る(貯金および投資)
〇上記の資産を、全世界型のインデックス型投資信託もしくはETFを使って長期・分散・積立投資を行う。
〇株価が低下する年のことを考慮し、投資資本を生活のために切り崩す必要がないように、副業や本業から可処分所得を得るようにしておく
という戦略が浮かび上がってきます。
過去のデータが再現される場合には、これを続ければ、たとえ1代で大富豪になれなくても、数世代も続けられれば確実に富豪の仲間入りができるはずです。
次に国家的レベルです。
ピケティさんも何度もおっしゃってますが、「資産に累進課税を」というのは、非常に理に適った選択肢ですが、その実行は非常に困難です。
まず、資産を正確に把握するのが困難(合法、違法を問わず、正確に申告されることは非常に少ないようです)な上に、適正な税率の設定というのも難しいものがあります。
例えば、今年の株価に基づいた資産が3億円だったとして、翌年は株価が暴落して、1億円をきることもあるかもしれません。
また、3億円の不動産を持っているとして、特に誰かに貸して家賃などを得ていなければ、不動産に対して莫大な税金がかかることになってしまいます。
結局、こういった難しさから、資産に対する課税は困難で、課税しやすい所得に課税がかかることになりりやすいようです。
そもそも今日のような所得や相続への累進課税が世界で一般的になったのも、国民の合意というよりも、二度の大戦を中心とした戦後の混乱がきっかけだったと説明されています。
よっぽどの混乱がなければ、資本への累進課税など可能となるはずはありません。
もし仮に、富裕層の資本へ累進課税をするのであれば、富裕層にもなんらかのメリットがあってしかるべきだと思われます。脱税した時だけとんでもない悪者として報道されるのに、高額納税をしても褒められることはあまりないのではないでしょうか。
トップ1割が、50%以上の富を保有する国も少なくないようです。
多数の国民分に相当する税金を払うような人には、チャージ不要で交通機関やETCがフリーパス、医療費もタダの『プラチナムブラックカード』のようなものを配布してもよいのではないでしょうか。
自分や家族が使いきれる分以上の資産があるからといって、「どうせ使い切れないんだから、国のためによこして当然」とはいいきれない気もします。
国民・国家の安定のため、「徴税させていただきます、ありがとうございます。ささやかですがちょっとしたお礼を」ぐらいの気持ちはあってしかるべきな気がします。
ピケティさんは、資産運用も当然しっかりされていると思われますが、本来富裕層の向こう側にいてふんぞり返っていてもおかしくない人だと思われます。
本書を通して、一貫して「相続であろうが、一代で築いた者であろうが、富めるものは社会に還元してしかるべき」。「格差はなくしてしかるべき」という熱意がひしひしと伝わってきます。
こういう方に経済担当大臣のような役職についていただきたいものです。
まだお読みではなく、太い本でも挑戦してみたいという方には一読の価値はあると思います。
投資をされる場合には、自己責任でお願い致します。