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一時間くらいで書いた短編小説「物言わぬ協力者」

「やっぱりノルルの書く歌詞はいいね。情景が浮かんできそう」

 送られてきた歌詞を上から下までじっくりと眺め、私はうっとりとした声音で言う。

「ノルルに頼んでよかったなあ、やっぱり。持つべきものは作詞のできる友達だね!」

 画面の向こうにいるノルルは何も答えない。が、私は気分を害することもなく発言を続ける。

「じゃあこれ、いつも通り栗坊んとこ持ってって曲付けてもらう感じでいいよね?」

 ノルルからの返答はないが、これもいつも通りなので気にしない。無言ということは否定の意志はないのだろう。私はノルルが映っているパソコン画面を切り替えた。

―――
――

「やっぱり栗坊の作る曲はすごいね。音がイキイキしてる」

 送られてきた曲を一音一音じっくり聞いて、私は恍惚とした声音で言う。

「栗坊に頼んで大正解! 持つべきものは作曲のできる友人だね」

 画面の向こうにいる栗坊は何も答えない。が、それによって私が不安になることはない。

「じゃあこれ、いつも通りダルにお願いして、ぴったりなイラスト描いてもらう感じでOK?」

 栗坊からの返答はないが、これもいつも通りなので気にしない。無言ということは否定の意志はないのだろう。私は栗坊の映っているパソコン画面を切り替えた。

―――
――

「やっぱりダルの描くイラストは素敵だね。絵の中に吸い込まれちゃいそう」

 送られてきたイラストを端から端までじっくり見て、私は蕩けるような声音で言う。

「ダルに頼んだ私天才! 持つべきものはイラストの描ける仲間だね」

 画面の向こうにいるダルは何も答えない。が、そんなことを気にする私ではない。

「じゃあこれ、いつも通り私が歌って投稿する流れで問題ないよね?」

 ダルからの返答はないが、これもいつも通りなので気にしない。無言ということは否定の意志はないのだろう。私はダルの映っているパソコン画面を切り替えた。

―――
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「はあー……」

 私はパソコンの画面から目を離し、椅子の背もたれに体を預ける。そのはずみでキャスター付きの椅子がきぃと鳴き、少し後ろに滑る。

「寂しいとか、思うべきじゃないんだろうけどな……」

 分かっていても、思わずにはいられない。私の歌い手活動に協力してくれているのだから、それ以上を望むべきではない。けれど、一言も言葉を交わしてくれないというのは、精神的に堪えるものがある。いや、言葉だけではない。彼らは顔も見せてくれない。私の歌い手活動を、頼んだものを作る以外の方法で気にかけてくれることもない。

 ……それも当然だ。彼らは、AIなのだから。

 小説生成AI、作曲AI、画像生成AI。それが、ノルル、栗坊、ダルそれぞれの正体だった。私がオリジナル曲としてYouTubeに投稿する曲は、歌唱とミックス、動画編集以外のすべての部分がAI製である。

「現実では、ただの一般人の夢を叶えるためにノーギャラで手を貸してくれる人なんていないからね……。本当、世知辛い世の中」

 作詞や作曲を担当してくれる人が向こうからやってきて、めでたく仲間入り。夜はそんな仲間たちと作業通話を繋いで、それぞれ進捗を報告し合う。そんな日々に憧れているからこそ、返答のないパソコン画面に呼びかけを続けてしまう。だって私の現実は、あまりにも違っているから。

「……ま、結局一人でやるしかないってことよね、何事も」

 けれども、悲観してはいなかった。一人でも夢に挑戦できるというのは、きっととても恵まれた環境だと思うから。……でも。

「知名度がついてきたら、似た境遇の人を集めて作業通話したいぃ……。ニーゴみたいに……。ニーゴみたいに深夜に作業通話繋ぎたいぃ……」

 私の欲望まみれの呟きを、テキストの並ぶ無機質なパソコン画面が受け止めていた。

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