経済的リスクのはなし②-成年後見制度
認知症による経済的リスクには色々ありますが、「資産凍結」もそのひとつです。認知症と診断されて判断能力がないとみなされると、意思決定を伴う様々な法律行為が制限されてしまいますが、預貯金の引き出しや不動産売買、有価証券の取引なども含まれています。
せっかく充実したセカンドライフのために資産形成をしていても、思い描いたとおりにお金を使えなかったり、不動産を納得いくかたちで処分ができないとすると、なんのための資産形成だったのでしょう。
認知症の当事者だけでなく、そのご家族も大変です。認知症になった家族の暮らし、そのお世話や、様々な手続きなど苦労も増える中、お金にまつわるトラブルや争いにも、見舞われる可能性が出てくるのです。
では「資産凍結」をさけるためには、どのような方法があるのでしょうか。
法定後見制度
法定後見制度は、認知症の悪化、つまり意思能力なしとみなされた後に利用できる唯一の制度で、家庭裁判所に選ばれた成年後見人が、認知症の方に代わり財産管理や身辺保護を請け負い、本人の権利を法律的に支援、保護するためのものです。
具体的には、他人の借金の保証人になってしまった場合に契約を取消したり、住宅の売却を保佐するなど、重要な手続き・契約の中で、一人で決めることに心配がある方を、認知症の程度に応じて、助けます。
認知症発症後にも資産凍結や法的契約に対応できる点や、家庭裁判所の管理下にある為、財産の不正利用を防ぐことができる点はメリットですが、成年後見人を自由にきめられず、親族が成年後見人になれない可能性があることや、財産は本人の生活費のみに活用されるので、株などへの運用や家族との旅行や食事につかうこともできないなど、柔軟さにかける点はデメリットです。
また後見人に専門家が指定された場合は、成年後見人への報酬が発生するため、毎月ランニングコストが発生し、これは、一度利用をきめると、基本的にはご本人が亡くなるまで続き、費用が発生し続けます。そしてご本人の死亡と同時に終了するため、相続対策はできません。
任意後見制度
同じ成年後見制度でも、任意後見制度のほうがやや柔軟性があります。本人に十分判断能力があるうちに、認知症や障害の場合に備えて、あらかじめ自分で選んだ任意後見人に、代わりにしてもらいたいこと(生活、療養や介護、財産管理についてなど)を契約で決めておく制度です。
法定後見制度が家庭裁判所で申し立てを行うのに対して、任意後見制度では、本人と後見を委任される人が公証役場で、任意後見契約公正証書を作成します。
「誰に」「どんな」委任をするのかを本人が自由に決めることが出来ますし、親族・友人含め、成人であれば原則、だれでも成年後見人になれる制度なのです。
判断力が低下してきたタイミングで、家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだあと、契約が開始されます。
認知症になる前に自分で後見人を選べる点や、契約内容を自由にきめられるため、柔軟な資産管理も可能である点、また、後見人への報酬も自由に決められる(親族にすれば無報酬でも可)点はメリットですが、やはり、死後の財産管理はできません。
また法定相続人には認められていた「取消権」は認められていません。本人が悪徳商法にひっかかり不要な商品をかわされるような場合でも、任意後見人は契約を反故にすることはできません。
このように任意後見制度は、法定後見制度にくらべるとやや柔軟と言えます。しかしながら、どちらにしても、成年後見制度は、本人が亡くなると終了し、死後の財産管理が出来ない点や、ランニングコストがかかり続けるなど、万全の対策とはいえません。
次回の記事では、いま少しづつ知名度が上がってきている「家族信託」について紹介したいと思います。