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抗がん剤治療と同時にウクレレを開始した

タイトルのとおり,私は抗がん剤治療開始と同時にウクレレレッスンを開始した。

2023年8月23日に初めての抗がん剤治療を受けた。私の身体に多大な影響をあたえるおそろしい薬が入る(表現は私の主観です)。頭では「少しでも長く,少しでも高い生存率を得るために,避けては通れない薬物投与だ」と認識してはいるものの,腹が,心が納得していない。それでもやらなくてはならない。そんなとき,人はどんな気持ちになるか。
ひらがな5文字で。

ち く し ょ う

て や ん で い

(博士課程では江戸っ子に弟子入りしたので,こういう語彙が増えた,というか,こういう語彙を手に入れるために弟子入りした気もする,ともかく狙い通り,口が悪くなった)

なんせ,こういう気持ちで私は個室のベッドに座り込んでいた。
ちくしょうとかてやんでいとかこのやろうとか,そういう言葉ってある種のエネルギーを内包しているのがわかりますよね,そうなんです,こういう言葉が心に浮かぶときというのは,理不尽への?あるいは自分が当然保証されてしかるべき何かを奪われるときの?怒りというか,抗議というか,そういう方向のエネルギーが湧いているサインです。

このエネルギーはどこかへ向けて放出しなければならない。
放出しなければ私の身体の中に溜まって毒物となってまたがん化する,とまでは考えていないけど,とにかく何か新しいルートを見つけて外に出す必要があるような気はしていた。

ああ,何かやろう。新しいことやろう。
何か,自分のやりたいことをやろう。でも私,何がやりたいんだったっけ。
そうだ,音楽だ。子どもの頃,自分は歌を歌うのが好きだった。子どもの頃だけじゃなく,5年前までは,ずっと大きな声で歌を歌っていた。すっかり歌わなくなってたけど,やっぱり歌をうたわなくちゃ。でも歌だけっていうのもつまらないというか,自分の歌というのがうまく捉えられない。なにか,型のようなものがほしい。自分の歌の型。そうだ,私ウクレレの弾き歌いがけっこう好きなんだった。コード調べて弾くだけならできるけど,何かもう少し曲として完成させたいみたいな,でもどうしたらいいか分からないんだよなという心残りというか心細さみたいなのを感じて,いまひとつ演奏が「自分のもの」になってない。おばあさんになるまでにはこれをなんとかしたい,そんな気持ちが自分にはあったのではなかったか?そうだ,このチャンスに,その方向にエネルギーを注いでみよう。

何かあたらしく始めるには,とくに楽器をやるには師匠探しが必要だ。そう考えて私はリサーチを開始した。PCとやる気さえあれば病院のベッドの上でも,抗がん剤治療後すぐでも,思いついたことを即座にリサーチできる。なんて便利な時代なんだ。ともかく私は素早く「○○(私が住んでる都市の名前) ウクレレ レッスン」で検索し,数分後に自分の好きそうな先生をみつけた。

名前は少し突拍子もない,その先生。たたずまい,文章ともに(何か好きだな)と思い,さらに自宅からのアクセスもよく,価格も手ごろでレッスン内容が自由そうだったので,早速,私のウクレレ師匠となるその先生にメールを送った。

その日は初めての抗がん剤治療を受け,レッド・デビルと呼ばれる薬の色が尿に出ていた。顔が赤くなった。昨夜から吐き気止めを入れていたにもかかわらず,投与後は強い吐き気でどうにも耐えられず,追加の吐き気止めを点滴してもらった。自分の身体にモンスターの細菌が侵入して身体が予想も付かない形に変形するような気分(主観です,治療だってことはわかってるんだけど)で眠った。ちくしょう。てやんでい。

翌朝,2023年8月24日,ウクレレの先生からメールがきていた。
一度レッスンにきてください。いつ来ますか。

すぐ行かなきゃ。と私は思った(ADHD気質なのだ,行くとなったらできるだけすぐ行きたい)。
8月26日に行っていいですか。とメールした。

初めての抗がん剤治療の3日後,ウクレレレッスンに行った。
その後のレッスンの様子はまたいつか書こうと思うが,あれから約半年が過ぎ,月に1〜2回の頻度で私は現在もレッスンに通っている。

ウクレレを弾くときはマインドフルになれる。ウクレレを弾き始めてしばらくすると,色んな心配ごとはいったん横か棚の上かどこか知らないが,いったん頭の中から消え去る。とくに先生が新しい技術を教えてくれて,それを「いますぐやれ」「もう一度やれ」とその場で追い込んでくれるときは強制マインドフルネスである。抗がん剤からくる身体のしんどさも,脱毛のやるせなさも,仕事,生活,お金,人間関係等々の心配ごとも,いったん消え去る。ウクレレの音は鳴っているはずだが,無音空間にいるかのように,心がしんとする。

その無音空間で楽器を演奏したり,演奏しながら歌ったりしていると,それに伴い,チョロチョロと流れ出る小さい湧き水を発見したようなすがすがしい希望を感じる瞬間がくる。

抗がん剤治療という決定的につらいことを開始した時期に,ウクレレも開始したことは我ながら素晴らしい選択の一つだった。今後,仕事も治療も続けるが,ともかくウクレレを弾いてできるだけ元気で歌っていこうと思っている。

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