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日記 5月27日、自分の創(きず)をみた日、夜更けにへこんだ気持ちになって

きのう、初めて自分の創(きず)をみた

朝、教授がきたけど
創は、あとで若い先生たちが見ますよ
っていうので、推しメン活動(マスク外してもらって顔見る)ののち教授は行ってしまった

そのあと、若い先生がきた
(この先生は、手術後に私の質問にこたえて
飛行機の運転?でいうと副機長くらいの役割をしたというようなことを言っていた、副機長がどんな役割なのかは知らないけど、つまり私は機長の話ばかり聞きたがるが、手術もチームでやるので重要人物は一人ではないと言いたかったのかもしれない、もしくは機長が指揮をとるが副機長がけっこう操縦してるぞと言いたかったのだろうか?なんせこの譬えでいうと教授が機長で僕は副機長ということだけはわかった)

とにかくその医師が別の女性医師と一緒に来て、

「xx先生はきましたか?」と質問してきたので
はい、と言ったら
「創はみられましたか?」というので
いいえ、
と言ったら
(じゃあ僕が見る係じゃん)
という感じの顔をした

それからにこやかに
「創をみて、よさそうだったら帯を外しましょう」
というのだった
帯といったかわすれたが
とにかく、その太いバンドの商品名は「アドール」である

アドールは、まあ、切り取った皮膚をひっぱりあわせてるから
それらをくっつけるためだと思うんだけど
手術を終えて出てきた時、わたしたちの胸に
きつくきつく巻かれているものだ
わたしのもうかたほうのおっぱいもぎゅっとさらしの下のようにつぶされて一緒くたに巻かれているのだった

着物きてるときみたいになかなか苦しいまま
ずっと寝ていたのだった

まあ、さておき
若先生が若女先生といっしょに創をみた
これが、わたしにとってはじめて
創を見るタイミングになるかもしれないタイミングだったのだが
今考えたら、これを教授がさ、
せっかく来たんだからやってくれてもよかったのにね?

でもまあ、若先生も一生懸命話してくれるので、
だんだん親しみがわいてきてる
そして、その横の女の先生も、けっこう目をみて
わかりやすい言葉で話してくれるので、親しみがわいてきてる

ともかく、そのとき、わたしにとっても
初めて創を見られるタイミングではあったのだが
わたしはまだ、あえて見なかった
そうだ、心の準備ができていなかったのだ

ともかく、「創はまあ、こんなもんだ」ということになって
若先生が、もうアドールをとってもいいときめた
アドールがとられて、それ以降、わたしの胸は
さらしを巻かないまま、前で合わせる作務衣みたいなかたちのパジャマをきてる、生身の胸になっちゃった

いつでも胸が見られる状況になったというわけ

それから、その日は
右のむねがぺっちゃんこっぽいなってのはなんとなくわかるけど
見ないようにしてた、とにかく

ごはんたべたり、看護師さんがチェックしにきたりしても
ちょっと上を向いたりして。

で、RくんにLINEした

あのね、今日、太い、胸にまいてるやつ、とれたんだ
でもわたし、自分の胸みてないの
あとで、面会来た時いっしょにみてくれる?

って

あとでRくんが面会にきてくれた
「水のいらないシャンプー」手伝ってもらったり、
わたしがあったかいお湯もらってきてコーヒーふたりで飲んだりしてから
ちょっとひといきついて
そうだ、胸みようか、といった

こわくない?いやじゃない?
ときいたら
大丈夫、一緒にみよう、って

で。ソファの前で
作務衣のひもをほどいてさ
見てもらったの

それから、自分もみたの
そしたら
ほんとに、片方しかおっぱいがなくて
もう片方は、なんだか、テープがはられて真っ平なんだった

わたしはきゅうにモードが変わって

へんなかたちになった。へんなかたちになったね
へんだね

といって泣いた。

へんじゃないよ、変わったけど、へんじゃない
大丈夫だ
と Rくんが言った

Rくんの胸におでこを押し付けて
数秒、泣いた

それから、またモードが変わって
大丈夫、しょうがないんだ
みたいな気持ちになった

Rくんが帰った
夜になって、痛み止めの点滴をしてもらって
眠ったけど、痛み止めが切れて、痛くなって
朝の3時ごろ目が覚めた

体が暑くて、なんだか苦しくて
傷が痛くて、ナースコールを押した
看護師さん、痛み止め入れてくださいって

もう点滴を抜いてたから
点滴と同じ成分の痛み止めを飲んで
それから、寝ようとしたけど眠れなくなった

わたしは変な体になった
こんな体で、以前と同じように仕事に行けそうにない
自分はみにくくなって
堂々としていられなくなった

って、まあ絶望的という感じの気分で
部屋のすみっこのソファに座った

これはダメだと思って
夜中だけどRくんに電話してみたら
Rくんは、すぐ出てくれた

どうしたん?ちょうど目が覚めたとこやってん、って
深夜の三時に、あかるくきいてくれたから
「あのね、わたし変な形になったと思って、かなしくなって、電話してん」って言って泣いた

そしたら、そっか。
と話をきいてくれた
否定もせず、さとしもせず
ただ、うん、うんときいてくれた、それだけ

でも少し泣いて、話きいてもらって
それで、なんだか落ち着いた
眠ってみる、ありがとうと言って
電話をきって、眠った

つぎに目が醒めると、朝だった
すこしだけ、あかるいというか
突き抜けた気持ちになってた

夜はこわいね、ああなることが、これからも多分ある
わたしはこの夜と、そのあとの朝のことを覚えていようと思う

もうだめだ、こんな体で生きるのはきつすぎる

あのとき そう思った自分が、朝には
生きてるんだからよかった
なんとかやっていこう

と思えるようになってる

同じ自分なのに、ただ時間が過ぎただけなのに。
覚えておこう、昨夜と同じように、
きつい瞬間がきたとき
一晩とか、どうにかやり過ごすことさえできれば
別の視点が取り戻せるものだっていうことを

はじめて自分の創をみた日は
そんな感じで、夜更けにへこんだ気持ちになった
けど朝がきたら、すこし気持ちがあかるくなっていた
そんなことを体験した夜だった

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