【WACK】選書ご依頼承りました
「おや、凛ちゃんからのお便りかい?」
青い鳥が運んできたその手紙に教会の紋を認めた白は、カシューナッツの欠片を渡すと、配達の礼を伝えて、それを受け取った。
白さん、私に本を選んでくれない?
そうね、小説が読みたいわ。
さっと一気読みできそうなものお願い!
「…ざっくりとした選書依頼だな笑」
陽光の差し込む窓際の一人席に座り、淡い桜色の手紙を眺めながら頬杖をつくと、白は空に浮かぶ春雲に目を遣った。春光に輝くそれは、少しずつ形を変えながら、ゆっくりと流れてゆく。
「…どうぞ、白さん。何か考えごとでも?」
目の前にそっと置かれたティーサーバーから、レモングラスの香りが立ち上り、白の鼻腔をくすぐった。声に顔を向けると茶寮の店主、如月桃子が優しげに微笑みかける。
今日は「個」展を見終えた帰りに茶寮に立ち寄ったのだ。
「ああ、ありがとう。良い香りだね。レモングラスに…カモミール?」
「はい、それにローズマリーも少々。」
言われると確かにローズマリーのすっきりとした香りが感じられる。
「これは、ありがとう。いいアイディアが浮かびそうだ。」
「ごゆっくり。」
ふわりともう一度笑みを浮かべ、軽く会釈をして離れていく姿を見送り、白はまた外に目を向けた。ティーサーバー横に置かれた砂時計はそろそろ落ち切ろうとしている。それを手に取り反対に返すと、小瓶の中でまた勢いよく砂を積み上げ始めた。
「ごちそうさま、また寄らせてもらうね。」
ハーブティーを飲み終えた白は、奥に声をかけ店を後にする。
小説。
一気読みできるもの。
それでは、こんな本はどうだろう。
一つ一つの話は独立して短くまとまり完結しているオムニバスに近い形態の小説。そして、人の心の機微を感じ、いつの間にかその世界に引き込まれてしまうような…
白は、自分の内側で3冊の本が浮かび上がってきたのを感じた。
※※※
はい、というわけで、凛ちゃんからの選書依頼!
一冊目はこれ!
ピン芸人であり、ドラマやバラエティなどでも活躍する劇団ひとりさんの作品。
彼の芸風を知っていれば話は早いんだけど、彼はその芸名のとおり、一人で何役もこなして劇団みたいなコントをする。この物語は、そのキャラクターたちが登場して、いろいろな出来事が起こるオムニバス形式の物語だ。
一度劇団ひとりさんのネタをYouTubeとかで見てから読んでみるのも楽しいし、読んでからネタを見てみるのもいい。
二作目はこちら。
有川浩さんのこの作品は、映画化もされているので読んだことあるかな。でも、改めて読んでみると前回読んだときにはわからなかった伏線を見つけられて楽しいという、二度も三度も美味しい作品になっているよ。
ネタバレはやめておくが、読後に人の愛おしさを感じる作品かな。
ちなみに彼女は多作の作家なんだけど、彼女の描く恋はくすぐったくなる甘さなのでおすすめ。
ラスト三作目!
伊坂幸太郎さんの「死神の精度」は、その後続編も出ているんだけど、これはその一作目。名前のとおり死神が出てくるんだけれど、ちょっとイメージ違うかもな。
俺らの死神イメージって、フードを被ったドクロ💀が大きな鎌を持ってるってのがテンプレだよね。その大きな鎌で、命を刈り取るという。
この作品の死神は全くそんなことはないし、いわゆるホラーでもないので、構える必要はないよ。
終わりに
初めて人のことを思いながら選書してみたけれど、これ、俺の引き出しが少ないからむずかしいね。でも選んでいると、またその作品を読みたくなってくる。
今回の作品は俺の中で共通性を見出した三作品だったけれど、凛ちゃんの目にはどう映るのだろう。
※※※
「やあ、戻ったよ。変わりはなかったかい?」
書院の扉から、慣れた足取りで書庫の方に向かいながら声をかける。
「お帰りなさーい。今企画展の準備でバタバタしているところ。そうだ、白さん読み聞かせとか興味ない?」
奥からきいすが顔を出す。
「かすみちゃんって子がこんな企画を始めているの。
もう、たくさんの人たちが参加しているのよ。
楽しそうでしょ。」
きいすはそういうと悪戯を仕掛ける少女のような笑みを浮かべた。
「これは素敵な企画だね。人はそれぞれ自分だけの物語を持っているものだからね。掌から魔法を生み出せる子なんだね、かすみちゃんって。」
「でしょ?」
その目は、言葉の先を促している。
この子はいつもこうなんだよな。
「…わかったよ。俺もちょっと探してみるから。」
「ほんと?さすが白さん!何も言わなくてもわかってくれるよね!」
やれやれ。人を巻き込む魅力を持つ子ってのは、ほんとうに厄介なもんだ。こうして、また俺に新しい世界を見せてくれる。
※※※
というわけで、かすみさん、勝手に登場させてごめんなさい。遅ればせながら参加しますね。
といっても、〆切とか間に合う気がしないので勝手にコラボしてるなと思って流していただけると幸いです笑
なお、ストーリーはフィクションであり、きいすちゃんにゴリ押しされた事実はありません😏