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(4)それでも…私は…東京が好き

この前のお話は
こちらをご覧いただけたら幸いです

(続きです)

都会の電車は
駅によって
開くドアが
右だったり
左だったり…する

そのことを知らなかった私は
まだ都会の電車通勤に
慣れなかった頃
こんな
悲劇に襲われた

ある日
私は
ドアの一番そばで
ドアを背にして
バックを胸元に
両手で抱えて
立っていた
つり革をつかんでいなくても
立っていられるほどの
ギュウギュウ詰めの
満員電車

開くドアは
確認していたが
その方へ
向き直ろうとしても
まったく動けない
私の周りの人たちは
上手に向きを変えて
ドアの方を向いている
私だけが
そんな皆さんと
向き合っている状態だ
(実際は不安で下を向いている)

このままだと
結果どうなる!?っということは
想像できた
でも
どうにもこうにも
身動きが取れない

はたして
電車は
駅に到着し
ドアは
プシューッと
開いた

その時は
なんだか
映画かドラマの
スローモーションの一場面のように
感じたが

ことの起こりは一瞬だ

私は
バッグを抱えた不動の姿勢で
ラッシュの人波に
押され
後ろ向きのままで
バターンッとホームに
寝転んだ

さすがに
とにかく
恥ずかしくて
恥ずかしくて
サッと立ち上がったと思うし
私を見ないで…と願ったが

そんな願いをせずとも
誰も
私のことなど見ていなかった

朝の通勤の
忙(せわ)しい時だ
ホームで
転んでいるような人間を
気にかける人は
一人もいない

「大丈夫ですか?」なんて
声をかけられたり
体を抱き起こされたりしたら
お礼など言えずに
きっと
その場から
そそくさと立ち去っていただろう

しかし
私がホームに
寝転んでいても
まるで
物言わぬモノが
そこにあるように
人々は
無関心だった

そんな光景は
またもや
映画かドラマの中で
座り込んで動けなくなった主人公の
まわりだけは
早送りのようチラチラと進む
あのシーンのようだった

しばらくして立ち上がり
私もまた
人波に紛れながら
何事もなかったかのように
改札口に向かった

私の中には
「納得」という感情が
生まれていた