詩「馬鈴薯を触る」(「ユリイカ」2019年11月号「今月の作品」入選作品)
馬鈴薯を触る
/白水 ま衣
刺青とは、
死神のウィンクである
と書いたのは 誰だったか
恋人が
ナポレオン、と言おうとして
ナポリタン
って言ったものだから
お待たせしました
今だけ! セキュリティキー発行手数料ゼロ円で
熱々の スパゲッティ ・ ナポリタンを、どうぞ
猫舌な恋人はここにいるけれど
ここに猫はいない
そのことが、今日はなぜだかさびしい
でも、
ネイティブなイングリッシュで
Japan
と発音されると、ここは
日本ではなくJapanなのだという気がするから
恐らく、大した問題ではないのでしょう
如何様と逆さま
初めて触れた恋人の手は
わが家の台所に大体いつも転がっている
馬鈴薯の手触りに似ていて
それ以来
馬鈴薯を触るのが、少しだけ 怖くなった
太陽を、翻訳しては ならない
ヴェニスから
アッシェンバッハが
死なずに帰ってきたとしても
心臓に被せる帽子は もう、汚れている
※「ユリイカ」2019年11月号 今月の作品 入選作品
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