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24年、読んで良かった「この10冊」

   あけましておめでとうございます。
   一年前、2023年は26冊しか読めなかったのでもっと増やしたい、という記事を書いたのですがなんと24年に読んだ本も全く同じ26冊でした。本当は50冊は読みたいのですが、もうこれくらいが限度なのかもしれません。

  さて、24年に読んで良かった本ベスト10は以下のようになりました。

① 三浦哲郎『おろおろ草紙』
② アチェべ『崩れゆく絆』
③ 鴨長明『方丈記』
④ ジョー・ネッター『ブッカケ・ゾンビ』
⑤ 坂口安吾『オモチャ箱/狂人遺書』
⑥ 伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』
⑦ 宇佐美りん『かか』
⑧ ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』
⑨ 原田宗典『おきざりにした悲しみは』
⑩ 辻原登『遊動亭円木』

  一作ずつ、簡単に感想を書いていこうと思います。

■1位は『おろおろ草紙』

 第1位は、三浦哲郎『おろおろ草紙』です。

   4作品を収録した短篇集で、白眉はなんといっても表題作の「おろおろ草紙」でしょう。時は天明の大飢饉。食料がなく人が共食いをする、人肉食を描いた事実ベースと思われる小説です。人を殺して食う。墓を漁って遺体を食う。地獄絵図だが目を逸らせない。物語の強い力を味わいました。

   事実を元にした話ではないという説もありますが、私は一定の史実を反映したものだと考えています。歴史に詳しいわけではありませんが、「そのように読みたい」という思いが強い。残酷趣味なつもりはありません。ただ、人間の生きる力のようなものを、この凄惨な物語から感じ取ったからです。

   なお、他の収録作、「暁闇の海」「北の砦」「海村異聞」も全部面白いです。ぜひお手に取ってほしいですね。

■初めてのアチェべと鴨長明

   2位に入れたのは、アチェべ『崩れゆく絆』です。「なんて骨太な小説なんだ」という感想を抱きました。作者は「アフリカ文学の父」と称されるほどの人ですが、私は初読です。

   植民地支配以前のナイジェリアの、ある部族の暮らしを詳細に綴りつつ、その社会や文化が白人とキリスト教の力で瞬く間に転覆させられていく様を描いています。古き共同体と共に滅ぶ野心家の主人公が悲劇的です。読み終えて、ふーっ、と大きく息を吐く読み応えでした。お勧めです。

   3番手は鴨長明『方丈記』。鴨長明も初めて読みました。ま、教科書なんかでぱらぱら読んできたのかもしれませんが、きちんと自分の意思で、作品を通して読んだのはお初です。

   驚きました。方丈記ってこんなに良い物だったのかと。読んでて落ち着くし、生きるのが少し楽になった気がします。蜂飼耳氏の現代語訳も良かったのかな。鴨長明が傍で語っているかのようでした。

   この読書体験によって、古典はやっぱり読むべきだと痛感しました。「枕草子」や「徒然草」も、ちゃんと読んでないから手に取ってみようと思います。

■衝撃の『ブッカケ・ゾンビ』

   4位に入ったのは、24年に読んだ一番の衝撃作、ジョー・ネッターの『ブッカケ・ゾンビ』です。いや、タイトル。外で読みづらかった。

  内容は、タイトルから想像した以上の超エログロホラーでした。AV撮影現場にゾンビが出ちゃってさあ大変というゾンビパンデミック物の、悪趣味、ゲテ物、節操なし小説です。

  いやー、ゾンビもアレをブッカケるとは知らなかったな(しかも蛆虫入りの…)。そしてなんとなんと、最後だけ、やたら切ないのがまた良い。読むべき一冊ですよ。

■鉄板の安吾と伊坂

   5位は坂口安吾の『オモチャ箱/狂人遺書』。6位には伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』を入れます。どちらも大好きな作家です。

  安吾の方は、10作を収録した短篇集。▽豊臣秀吉の書いた遺書の体裁を取った、迫力溢れる「狂人遺書」▽戦時中、落ちぶれた男の小さな逆転劇のような「水鳥亭由来」▽芥川龍之介の自殺した部屋を舞台にした安吾の青春の一節「青い絨毯」―などなど。どれもこれも面白い。とにかく心を刺してくるのが安吾。私は坂口安吾が大好きです。

   伊坂の作は、未読だった初期作品です。今更読んだのかって感じですが、今更読みました。伊坂幸太郎の作品は8割くらいは読んでると思いますが、このヒット作を未読だったのは、むしろ幸運ですね。

   現在と過去の出来事がリンクして物語が進み、ラストに一気に伏線を回収するお得意の構成なんですが、いやー面白い。「現実を忘れて物語の世界に没頭する」という意味では伊坂がナンバーワンかもしれない。私も神様を閉じ込めに行こうかな。


■才能爆発デビュー作『かか』

  次の7位は、宇佐美りん『かか』です。これも衝撃を受けました。

  かか=母親。大阪弁ならぬ「かか弁」という独特な言葉遣いで綴られた語り文学です。心情描写も情景描写も上手い、というか強い。

  心が壊れてしまうかかと主人公を描く、見事な筆力。素晴らしく良かったです。これがなんと作者のデビュー作。若手作家の才能爆発でしょう。この人の書く物を継続して読んでいこうと思います。まずは芥川賞を取った『推し、燃ゆ』を読まねば。ファンからすれば今更でしょうけど。

   8番目に位置づけたのは、ワレリイ・ブリューソフの『南十字星共和国』です。作者はロシアの詩人。初めて読みました。

  短篇11作を収録。いわゆる「幻想と怪奇」的な作品が多い中、南極大陸に作られた国が繁栄し、疫病で滅ぶまでを描いた表題作が好きです。迫力ある傑作短篇ですね。首都が「星の都」と呼ばれ極地点にあるとか、子午線方向に街路が広がるとか、街並みの描写も好みでした。

■9位に原田宗典の新作

   続いて9位は、昔から好きな原田宗典の新作長編『おきざりにした悲しみは』です。

   大学生の頃から好きな作者で、メンタルの病やドラッグによる逮捕など、いろいろありましたけど、こうして新作を書いてくれて嬉しい。何より面白い。一気読みです。

   芸事の才能を生かしきれず、地を這うように暮らす65歳の主人公。作者の「これは俺だ」という思いが伝わってきます。都合の良すぎる展開もあり、やや御伽噺の風情もあるんですが、この物語には希望があります。生きていかなきゃいかんと思わされる。読んで良かったです。

   ラスト10位に入ったのは、 辻原登『遊動亭円木』。古本屋で何気なく手に取った一冊ですが、とても良い読書体験でした。

   盲の落語家を主人公にした連作短篇で、人情話というよりも幻想譚。落語から出てきたような登場人物たちと円木が織りなす日々、繋がり、別れ。滑稽だったり悲しかったり妖しかったり。文章も秀逸で、作者の罠に嵌められた気もします。いつか再読したいと思いました。落語が好きな方が読めば、私の何倍も楽しめることでしょう。

   24年の読書、こんな感じでございました。毎年思いますが、今年はどんな一冊に会えるか、楽しみです!(了)

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