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会社を辞めた⑭


友人に会うため14、15日にかけ盛岡と秋田を訪れた。友人は子育て真っ盛りのため昼間の逢瀬だ。夜に気軽に友人を酒飲みに誘えない年齢になってしまった。盛岡での約束の日は15日だったが、暇だったので前泊した。仕事をしながら次代を担う子どもを一生懸命に育てている友人に比べ、私はなんて自由なんだ。くだらない人生である。


今回の旅で訪問した場所は次の通り。



①南昌荘


盛岡に着いた頃にはすでに14時を回っていた。時間も時間なので大した観光はできず、いろいろ調べていたら、どうやら紅葉が盛りらしい。たまにインスタで見かけて行ってみたいなあと思っていた南昌荘に行ってみることにした。

岩手県の公式観光サイトなどによると、南昌荘は盛岡出身の実業家・頼川安五郎が明治18年(1885年)頃に邸宅として建てた建物。池泉回遊式の庭園を有し、原敬など数多くの著名人も訪れているという。盛岡市の保護庭園・景観重要建造物となっており、庭園は国の登録記念物に登録されている。

いいなと思ったのが、市民生協によってこの建物が維持管理されているということ。1987年、南昌荘が大手マンション業者により買収され、庭園が無くなるという話を聞いた生協が、組合員の共有財産・共同所有として購入することを決めたという。文化は金にならないと小ばかにされることもあるが、文化を軽んじる場所に人は集まらない気がする。




②光原社



盛岡は町並みがコンパクトで、かわいらしくかつ朴訥とした印象だ。おそらく実際の景観はどうあれ、私の中では宮沢賢治(1896~93年)の童話の世界観の印象が強いのだろう。

宮沢賢治は岩手県花巻市生まれ。盛岡高等農林学校卒業後は同学校に研究生としてとどまり、修了後は岩手県稗貫郡立稗貫農学校(花巻農業高校)の教職についた。10代のころから短歌を書き始め、多くの詩や童話の作品を残し、37年という短い人生の晩年には農民の生活向上を目指し、農業指導実践のための羅須地人協会を設立。農業や芸術の講義をしたり、農事公演や肥料相談で近くの村々を回ったりした。賢治の作品が急速に知名度を高めたのは賢治の没後、遺稿の出版が相次いでからだという。


賢治が生前に出版した唯一の童話集「注文の多い料理店」の出版社だった「光原社」の建物は、盛岡市の材木町というところに現存している。現在は民芸品店となっているようだ。敷地内には賢治の資料館や喫茶店などが併設されており、木漏れ日が差し込み異国情緒あふれる調度品がちりばめられた中庭はまるで童話の世界に迷い込んだような雰囲気だった。喫茶店の店内もとても素敵だったのだが、撮影はNGとのこと。



③盛岡神子田朝市


市内のゲストハウスに一泊4千円で泊まり、翌日は早起きして「盛岡神子田朝市」へ。年間300日営業の全国でも珍しい朝市だ。ホームページで由来を調べてみると、「盛岡市中央卸市場」の開設に伴い、それまで開設地の外郭で営業していた生産農家の直売所が立ち退きを迫られたのが始まり。1968年に各地域の生産農家ら有志でつくる「立売組合」が朝市を始めたところ大盛況を博し、広い駐車場や売り場が確保できる場所を求めて1977年に現在の神子田地区で開催するようになったのだという。

実際訪問してみると各区画に雨よけの屋根がついていて、想像以上の規模感に驚く。生鮮食品はもちろんのこと、総菜やラーメン、コーヒー、お菓子と売られているものは多彩で、回っているだけでも楽しめた。朝の肌寒い空気の中で店の生産農家や地元住民や業者とみられる人々が談笑しており、ノスタルジックな気分になった。

平日だったが、観光客の姿もちらほら。岩手県の郷土料理「ひっつみ」の店が人気を博していた。私も購入して食べようとフリースペースの机に座ると、近くのお茶屋さんが紙コップで温かい煎茶をサービスしてくれて、ご相伴に預かった。ひっつみは(たしか)1杯500円。ワンコインだがボリュームがあり、野菜もたくさん入っていて冷えた体を温めてくれた。




④大慈寺・千秋公園


朝市近くの通りは寺や町屋が点在し、街歩きの楽しい地区だった。この日は天気も良く、絶好の朝の散歩日和だった。紅葉が盛りで、朝市近くの通りを歩けば道路沿いの木々が鮮やかに染まっていた。大慈寺町の大慈寺の敷地内には岩手出身の平民宰相・原敬の墓所があった。

紅葉が美しい時期にこうして外に出られてよかった。宿のチェックアウト後は秋田市に移動し、駅近くの千秋公園を巡ったが、本当に色鮮やかで歩くのが楽しかった。仕事に全力投球していた時は早歩きしながら下ばかり見ていて、車ばかり運転して歩道を歩くことも少なくて、冷たい空気の感触もイチョウの鼻をつくようなにおいも、黄色や赤の葉っぱと青空のコントラストも見ようとしていなかったな。



芯から凍えるようになってきた。冬の足音が聞こえる。





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