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メンタルが強い/弱いなんて考える必要はないんじゃないか、という話

病院に急いで行ってほしい、と母から急に連絡が来た。

妻さんとバスで帰宅中に、いきなり病院のURLが来た時点で察した。同じく京都に住む妹が病院に行くので、付き添って欲しい、とのこと。

妹だって立派なので、普通に病院くらいは行けるのだが、一昔前に割りとでかい病気を発症した&初期症状が似ていたので、本人も母も不安だったんだろう。妹は僕ら姉弟の前では明るいが、割りと不安を感じやすい。

ぴゅ〜っと病院に行ってみたら割りと元気だったし、結局無事だったのでホッとする。妹の診察が終わって母に連絡し、ひとまず大丈夫だと思うよ〜と伝えたあと、びっしり長文LINEが来た。

要約すると「母としてしっかりしなきゃなのに、メンタルお豆腐過ぎちゃってごめんね〜」とのこと。

それを見て、ふと思った。メンタルが強いって、何なんだろう。不安を感じにくく、ポジティブを保ち続けられれば、それが理想なのだろうか。

僕が尊敬するラッパー「SKY-HI」のインタビュー記事でも、「自分はわりと臆病」と本人が言っている。でも彼の活動を見れば、臆病に考えてさまざまな手を売ってきたからこそ、最高のアーティストだと思うし、会社も成功しているし、BE FIRSTも今の規模まで成長できたと感じる。

唐突に推しについて語ってしまったけれど、つまり……

「メンタルを強い/弱いだけで評価するのは雑すぎないか?」
「メンタルの強さってもっと複雑なんじゃない?」

ということである。

「苦境にめげない心」の正体

とはいえ、この場合の「メンタルが強い」には大きく2種類あると思う。

  1. ダメージを感じてから素早く&しっかり回復する力

  2. そもそも傷つかない状態

メンタルを強くしたいと考える際、ちょくちょく上記2つがごっちゃになっちゃう。でも上記2つは「大阪行き」と「金沢行き」ぐらいの違いはあると思うので、分けたほうが良さそう。

今回考えていくのは1の方。心理学用語でいうなら「レジリエンス」。傷つくしダメージは負うものの、完全には折れない。「困難をしなやかに乗り越えていき、傷ついても回復できる力」といった意味合いだ。

レジリエンスに関しては、人の気質、つまり考え方やメンタルの違いによるものだと一般的に考えられている。傷ついても回復できる「心」を持っていて、簡単にはめげない「メンタル」を持っている。だからレジリエンスが高い。みたいな。

でもそれだけではざっくりしすぎている気がする。この場合の「メンタル」とは何なのか?何によって形作られているのか?

ひとまず、最近のレジリエンスに関する研究を調べてみる。

起業家たちのレジリエンスに関する研究をまとめたレビュー論文(1)によると、レジリエンスを説明する要素のひとつとしてまず挙げられていたのは「内的要因」だった。つまり、人の感情や思考の部分である。

自己効力感: 困難な状況においても、目標を達成できると信じ、行動する能力
やり抜く力: 長期的な目標に向かって努力し続ける能力
興味を持ち続ける力: 長期的な目標に対して、興味や情熱を持ち続ける能力
内的統制の所在: 自分の人生や出来事をコントロールできるという信念
情熱: 起業活動や製品・サービスに対する強い情熱

また2020年にレジリエンスの要因を多方面から分析したレビュー論文(2)では、内的要因として以下が挙げられていた。

認知的再評価: 困難な状況を異なる視点から見て、その状況に対する考え方を変える能力
高い苦痛耐性: ストレスや困難な状況に耐える能力
感情の抑制の低さ: 感情を抑え込まずに表現する能力
攻撃性の低い表現: 攻撃的な感情を適切に管理し、表現する能力
愛着: 他者との安全で安定した愛着関係を築く能力

要素が多すぎて混乱してしまいそうだが、共通点としては……

・柔軟に物事を見れるか
・ポジティブ思考を保てるか
・問題から逃げずに取り組めるか

あたりが、レジリエンスを形作る気質的要因として挙げられるみたい。

正直、ここまではよく聞く話。でも「考え方を変えてみましょう♪」って言われると、途端にハードルが高くなる。

自分の性格や考え方がそう簡単に変えられるならば、メンタルが弱いとこんなに悩む必要もないのだ。


写真はこのあいだ広島に行ったときの夜ごはん

レジリエンスの高さは「特性」ではなく、状況によるのでは?

実際に、先ほど挙げたレジリエンスに関する論文(2)にも次のように書かれている。

レジリエンスを個人のメンタルの強さを原因だ、とするのは危ない。「レジリエンスが足りないからあなたはダメなんだ」という新自由主義的な自己責任論につながりやすく、社会構造や環境要因を軽視している。

つまり「メンタルが強いと感じる人は他者との関係や環境がうまくハマっている可能性が高い」「それを個人の心だけが原因だとするのはちょっと乱暴かも」とのこと。

具体的には、レジリエンスに関連する要因として次のようなものが挙げられる(5)。

社会的な要素
家族の結束力:
家族間の良好な関係性
親の関与: 子育てへの積極的な関与
肯定的な子育て: 子どもの自律性と自己肯定感を育む子育て
大家族のサポート: 親族からの支援
社会的支援: 友人、隣人、地域社会からの支援
文化的慣習: 集団主義的な文化や儀式など
社会的凝集: 社会の一体感、共通の価値観や目標
文化的規範: 文化的に価値のある行動規範
基本的なニーズの充足: 安全、安心、信頼感

環境的な要素
近隣地域: 近隣地域の質、公共スペースの利用可能性、高齢者向けサービスの充実度
自然環境: 緑地や公園へのアクセス
住居環境: 安全で快適な住環境
教育環境: 質の高い教育へのアクセス
雇用環境: 雇用機会の充実
コミュニティの安全性: 安全な地域環境

その他
経済的安定: 十分な収入
コミュニティ活動への参加: 地域活動への参加
社会政策: 貧困対策、社会的支援制度など

過去研究をまとめてみると、レジリエンスに影響を与える要因として挙げられるのはこんなにある。もはやレジリエンスは人の特性ではなく、もっと文脈によってコロコロ変わるものなんじゃないか?というのが今のところの結論っぽい。

言われてみれば、僕にも当てはまりそう。メンタルがお豆腐が故に就活が失敗したと思っていたが、特定の人からは「意外!!」と言われることもある。

なのでレジリエンスなんて文脈によって変わるものとして捉えておきつつ、いざ不安になったりしんどいなと感じたときは遠慮なく自分をケアすれば言いんじゃないかなと思う。周りの人や環境を頼りながら。

実際、レジリエンスが高い/低いではなく、環境や状況に対して敏感に反応してるだけなんじゃない?という研究もある(6)。敏感さが大変に感じることもあるけど、シチュエーションが変われば大いに力になってくれるみたい。

あんまり自分はメンタルが弱いから〜と思いすぎても、いざというときに不安を感じやすくなっちゃう。母なんかはその典型例で、「妹が大変だ!」と「また心配性が暴走しちゃう!大変だ!」という感じで不安がごっそりやってくるみたい。

不安やストレスを感じるのは生物学上どうしようもないので、あまりこだわりすぎないのがいいんだろうな。

引用文献

文献1:Hartmann, S., Backmann, J., Newman, A., Brykman, K. M., & Pidduck, R. J. (2022). Psychological resilience of entrepreneurs: A review and agenda for future research. Journal of Small Business Management, 60(5), 1041–1079.

文献2:Denckla, C. A., Cicchetti, D., Kubzansky, L. D., Seedat, S., Teicher, M. H., Williams, D. R., & Koenen, K. C. (2020). Psychological resilience: An update on definitions, a critical appraisal, and research recommendations. European Journal of Psychotraumatology, 11(1), 1822064.

文献3:Belsky, J., & Pluess, M. (2013). Beyond risk, resilience, and dysregulation: Phenotypic plasticity and human development. Development and Psychopathology, 25(4pt2), 1243–1261.

文献4:Cicchetti, D., & Curtis, W. J. (2006). The developing brain and neural plasticity: Implications for normality, psychopathology, and resilience. In D. Cicchetti & D. J. Cohen (Eds.), Developmental psychopathology: Vol. 2. Developmental neuroscience (2nd ed., pp. 1–64). New York: Wiley.

文献5:Ungar, M., & Theron, L. (2020). Resilience and mental health: How multisystemic processes contribute to positive outcomes. The Lancet Psychiatry, 7(5), 441-448.

文献6:Moore, D. A., & Healy, P. J. (2008). The trouble with overconfidence. Psychological Review, 115(2), 502–517.

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