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「クリーンミート」というマーケティング

クリーンミートはあまり馴染みがない

クリーンミートという名前を現在の日本でどのくらいの人が聞いたことがあるだろうか。クリーンミートとは、人工的に細胞を培養することによって生み出される肉である。植物性由来のものから肉の味や食感に似せて作った代替肉とは異なり、あくまで本物の肉である。
自分はこの本の紹介記事か何かでクリーンミートという名前を知った。大多数の人はそもそもそのような類のものは聞いたこともない、もしくは(代替肉として)肉ではないが肉っぽいものがあるらしいくらいの認識ではないだろうか。

畜産業界の現状

クリーンミートは試験管ミートや培養肉などと呼ばれることもあるが、その名の通りクリーンであることを推している。逆に言えば、従来の畜産業によって生み出される肉はクリーンでないと主張している。
倫理的な問題や環境問題、感染症のリスクなどから、今の仕組みではこのまま世界で肉を食べる人が増え続けることに対する持続可能性が低いのだ。

アメリカ人の口に入るだけでも、飼育され、殺される動物の数はなんと、年間90億以上にのぼる。

鶏卵1個を市場に出すまでに約190リットルの水、つまり浴槽をゆうに満杯にできるほどの水が使われている(後略)

食肉処理場には糞便汚染という大きなリスクがある。(中略)食品が媒介する最も危険な病原体である大腸菌やサルモネラ菌などの腸菌は、この糞便汚染が原因で肉に付着する。

家畜を飼育せずに肉を培養することで、伝染病が世界的に大流行するリスクも劇的に減らせる。

「世界の食肉需要の増加にともなう大豆畑の面積拡大によって、中南米の森林が破壊され、貴重な生態系が失われている」

「畜産業による温室効果ガスの排出は、車、バス、トラック、電車、船、飛行機、宇宙船を全部合計したよりも大きいのですから」

ちなみにNetflixの「世界の"今"をダイジェスト」でもみかけたが、ハンバーガーのパティ一つを作るのに約1650リットルが使用している計算になるらしい。
これら世界中で起きている結果を畜産業だけに押し付けることはできないが、負荷が減ることに越したことはないだろう。

クリーンミートのメリット

クリーンミートは、これら倫理・環境・感染症の全てに配慮して肉を享受できるイノベーションである。

(前略)培養牛肉の生産と従来の牛肉生産方法とを比較すると、必要な資源の量は培養のほうがエネルギーにして最大45%、土地の面積で99%、水量で96%少なくてすむという。

また、培養肉だけでなく培養レザーの研究・開発も進められており、本書では1章を割いて書かれている。

普及までの壁

良いこと尽くめに見えるクリーンミートであるが、一般に普及するには大きく4つの壁がある。

テクノロジーの壁
クリーンミートは今のところハンバーグに使えるようなひき肉や薄いスライスされたような肉しか作るとこができない。(2018年に書かれた本なので現在はもっと進んでいるかも。)つまりブロック状のステーキなどはまだ生み出せない。
また、解決の見込みはあるようだが、培養に必要な血清を牛の胎児から抽出しており、その過程で牛は殺されている。

経済の壁
2013年にロンドンで行われた公開試食会で作られたビーフパティは1枚33万ドルである。2016年には世界初の培養ミートボールが1200ドルで作られている。2020年現在では更に安価にできているはずだが、従来の肉と肩を並べられるほどの価格ではない。

規制の壁
クリーンミートに遺伝子組換え生物(GMO)技術は使われていないが、同じ議論に巻き込まれる可能性がある。また、既存の畜産業界は巨大な産業であり、そこからの反発もある。

社会の壁
人工的に作られた肉を受け入れられない人も多い。味や見た目が何ら変わらないとしても、天然に育てられた(ように見える)肉でないとわかると途端に嫌悪感を示す。

もちろんこの4つはお互いに絡み合っているのだが、いずれも越えなければならない壁である。

筆者の立場

本書の筆者は動物愛護団体の立場からクリーンミートを支持しており、主に社会の壁を取り払おうとしている。他の3つに関しては時間の問題だろうと匂わせている。

天然でない肉に対して嫌悪感を示す人がいる一方で、安全であればどのように作られたのは気にしないという人が大多数ではないだろうか。
本書に登場するアンケートでは、クリーンミートのメリットを説明されなかった人に対して、倫理的、健康的、環境的なメリットの一部を説明したあとでは支持する人の割合が増加している。

本書自体も筆者がクリーンミートという存在でありメリットをもっと世の中に知ってもらおうとマーケティングする本だと言える。実際に僕も食肉の未来について多少考えさせられることになった。そのような読者を増やすべく、2018年1月に英語版が出版されており、2年後の2020年1月に日本語に翻訳されている。調べきれていないが、おそらくヨーロッパ地域の主な言語にも翻訳されているのではないだろうか。

代替肉でいいのでは

そもそも代替肉でもいいのではないか。これは僕も同意見である。すでに代替肉はクリーンミートよりもはるか安価で市場にも出回っている。筆者自身もたくさんの動物が殺されている現状が解決されるなら、結果として代替肉が培養肉まで席巻してしまっても構わないようだ。
しかし、代替肉では肉に対して付けられる固有名詞(チキンなど)を使えないらしく、いつまでも本物の肉と見なされない可能性がある。様々な意見があるようだが、畜産業界を終わらせるためにはやはり本物の肉であるクリーンミートも手段の一つとして進めるべきだという話がなされている。

自分の考え

長くなった(息切れしてきた)ので詳細は控えるが、クリーンミートが特に日本で流行るためのジャストアイデアを考えた。

健康推し
WHOでは牛肉のような赤い肉やハムなどの加工肉を「おそらく発がん性がある」もしくは「発がん性がある」と分類している。培養においてこの問題を解決できるなら多少値が張っても需要はありそうだ。

鶏の刺し身
鶏の刺し身などは鮮度が命である。クリーンミートでは通常の鶏肉と比べて細菌が繁殖しづらく痛むのが遅いらしい。技術的に可能なのかわからないが、鶏の刺し身なら使い勝手がよく現場よりも安全に提供できるのではないか。

クリーンミート
英語圏ではいいかもしれないが、日本語では「ミート」という言葉はそこまで市民権を得ていないように思える。やはり○○肉といういい名前が見つかればいいが、思いつかない。
清潔肉、潔白肉、純粋肉、清肉、純肉、、、

今後
クリーンミートや代替肉が一般に普及するまで、ビーガンやベジタリアンになれとは到底言えない。僕自身、本書を読んでいる日もこのブログを書いている日も肉を食べた。もちろんクリーンミートでもなければ代替肉でもない。明日もおそらく食べる。
しかし、僕としては将来的に従来の肉とクリーンミートの二つを並べられたとき、少しばかり値段が高くても後者を選んでみようかな思う人が少しでも増えれば願ったり叶ったりである。
そこで「クリーンミート」の感想・書評のブログを書くことで、筆者のマーケティング活動に些細ではあるが手助けすることにした。

参考

本書のダイジェストのような動画。(正直これ観るだけでも、、、)
Netflix「世界の"今"をダイジェスト」シーンズン2 食肉の未来
https://www.netflix.com/browse?jbv=80216752&jbp=2&jbr=2

現状の鶏肉産業の闇にスポットライトを充てた動画。
Netflix「食品産業に潜む腐敗」シーンズン1 真っ黒なチキン
https://www.netflix.com/browse?jbv=80146284&jbp=0&jbr=1


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