西加奈子『ふる』
花しす、28歳は、誰も傷つけないでひっそりと生きていくことを望んでいた。
誰かの黒い感情を、かわすことで、常にクリーンでいたかった。
でも、そんな逃げ腰の人生が、新田人生をキーに変化する。
「忘れてね、生きてきてるんですよ。そしてそれが、生きるってことなのかもしれないですよ。」(p.228)
「私たちは、祝福されている」(p.262)
誰かに嫌われるとか、誰かを嫌うとか、そんな些末なことではない
もっと大きなドカンとした確固たる存在が
そもそもの根っこにあることを、忘れないでいこうと
背中を押されるというより、肩を組まれるような印象の本だった。
西加奈子さんの作品を読んでいると
ラストに近づくにつれていてもたってもいられなくて
ゴロゴロと床を転がって、わああああっと言いたくなる。言ってる。
こんなにも、エネルギーがあふれていて
でも、なのに、押し付けてこなくて
キラキラした大事なものがぎゅっと詰まっていて
こんなに宝物みたいなメッセージの塊、息が苦しくなる。
情けない!情けない!奮い立つ。
ぼんやりと先の大きな大きな大きなゴールを見ても
なかなか今この時を踏ん張ろうという気が起きなかったけど
もっと明確に、「祝福されている」というのは
土台が感じられる、素敵な言葉だと思った。
分からないことだらけ、うまくいかないことだらけ
誰かを邪険に扱い傷つけ、あしらわれ傷つけられ
面倒だ、厄介だ、思い通りにならない、そんな繰り返しだけど
今、この瞬間が積み重ねの一番先っぽ。今、今はずっと更新される。
しんどいことも、忘れたりしながら、
ぐいぐいとドアを開けていきたくなる、
楽しい読書だった。
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