栞のテーマ

本が読むのが好き、絵をみるのが好き。

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最近の記事

新海誠『秒速5センチメートル』

野外映画祭で鑑賞。何も事前知識がないまま見始めたけれど、 「君の名はがカルピスなら、秒速5センチメートルはその原液だ」という映画玄人の意見にうなずくしなかった。 でも、見終わった後の個人的な満足感の原因は、この映画が挫折や気持ちのすれ違いに満ちていることかも。 出てくる男女二人の想いの差を示すかのように画面を二分割する打ち上げロケットの軌跡や 新宿の高層タワー、横切る電車、煙草から立ち上る煙ばかりが目についた。 初めてのセックスの相手がありえないほど早漏だとか、 妻を全く愛

    • 西加奈子ー『ふくわらい』

      読みながら私の心には 「常識にとらわれず自分の判断軸で自由に生きることのすばらしさに 対して、常識によって動かされていることに気が付かされる。素直さの賛辞」みたいな話なのかも、という斜に構えた想いがむくむくと湧いてきていた。 「まく子」で感じたしこりが原因で、ちょっと手を伸ばすのをためらっていた こともあり、あまり素直な気持ちで読み始めることが出来なかった。 でも、改めて西さんの言葉の重みにやられてしまった。 小細工無しの直球な思いが、熱いエネルギーが、 単語で、文脈で

      • 西加奈子『ふる』

        花しす、28歳は、誰も傷つけないでひっそりと生きていくことを望んでいた。 誰かの黒い感情を、かわすことで、常にクリーンでいたかった。 でも、そんな逃げ腰の人生が、新田人生をキーに変化する。 「忘れてね、生きてきてるんですよ。そしてそれが、生きるってことなのかもしれないですよ。」(p.228) 「私たちは、祝福されている」(p.262) 誰かに嫌われるとか、誰かを嫌うとか、そんな些末なことではない もっと大きなドカンとした確固たる存在が そもそもの根っこにあること

        • 絲山秋子『海の仙人』

          宝くじにあたり、会社を辞めて敦賀で一人暮らしをする 主人公河野の目の前に突然現れたのは、ファンタジー。 役立たずの神様だった。 ファンタジーの不思議なところは、 始めて会ったはずなのに、一部の人は ファンタジーがファンタジーであることを知っていることだった。 過去のトラウマを抱え、女性と積極的に関わろうとしない河野が 心を開けた女性の「かりん」、そして会社の同僚で河野を一途に想い続ける片桐、 その片桐にこれまた一途に心を寄せる、澤田。 場所を転々と変えながら

          村田紗耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

          自分の尺度で世界に触れると波紋が起きる。 それに気が付いた主人公の谷沢が、 自分の世界を震わせるために 生身の自分で、周囲との接触を求める。 その立ち向かう姿は、激しくかっこいい。 そんな抜き身の刃物みたいな谷沢に接触されると 大抵の人は、「気持ち悪い」と振り払ってしまう。 でも、その「気持ち悪い」さえ、世界との正確な接触なのだ。 生身でぶちあたっていったからこそ、その反応が得られるのだから。 性の目覚め、処理できないこの心。 そして越えられないクラス内の

          村田紗耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』

          「永い言い訳」ー西川美和

          「愛するべき日々に愛することを怠ったことの、代償は小さくない」 絶頂に達する直前に、行為を拒否する昔の彼女との回想から始まるこの本を 読み始めてから読み終わるまで、 一瞬たりとも「止め時」(本を読み進めるのを止めるタイミング)が分からなかった。 それでありながら、止めずに読み進めれば読み終わってしまう「そのとき」が来る。 それが怖くて、半強制的に本を閉じようと努力もした。 でも無理だった。 せめてもの抵抗に、ゆっくり読もうと音読をしてみたら、余計に涙が出た。 翌日、つまり

          「永い言い訳」ー西川美和

          本谷有希子が中毒で

          本谷有希子の作品を読んでいると 自分の平和であり新鮮であり楽しいと思っていた 日常の生活が、ふっと遠くに遠退いていく気がする。 私にとっての日常の、平和な正常さと 本の中で繰り広げられる世界のギャップはとてつもなくて 私の正常な世界は、異常な世界に圧迫されて すごすごと引き下がっていく。 おかげで頭のなかは、本谷ワールドと化し 心地いい。入り込んで出たくない世界の出来上がり。 簡単に言えば、本谷有希子の世界は異常だと思う。 異常で混沌とした世界。 暴力とか嫉妬とかがむぎ

          本谷有希子が中毒で

          本谷有希子「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」

          「自分が何者でもない可能性など、ありえない」 その自負だけを原動力に女優を目指している澄伽が 両親の事故死をきっかけに、妹の清深、兄の宍道、その妻待子のいる田舎に帰ってくる。 暴力が日常化している夫婦関係、 過去のトラブルが原因で執拗に妹をいじめる姉... 両親の死を感じさせないほどの異常な環境下で、歪んだ兄弟関係が複雑に絡み合うこの小説は、 それぞれが抱える秘密の重さと深刻さとは裏腹に、テンポよく話が展開するお話だった。 決して明るく元気が出る話ではない。 どちらかと言

          本谷有希子「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」

          noteとスマートニュースが連携!とのことで、さっそく追加。 会社の規模は小さめに見えるのに、ピースオブケイクの皆さんすごい。 個人的にスマニューはそこまで好きではないけど、これを契機にnoteの固定客が増えたらいいな。 とにもかくにも、賑やかな場所になっていきそうで楽しみ!

          noteとスマートニュースが連携!とのことで、さっそく追加。 会社の規模は小さめに見えるのに、ピースオブケイクの皆さんすごい。 個人的にスマニューはそこまで好きではないけど、これを契機にnoteの固定客が増えたらいいな。 とにもかくにも、賑やかな場所になっていきそうで楽しみ!

          少年アヤ「少年アヤちゃん焦心日記」ー混沌、でも希望

          少年アヤちゃんの頃の少年アヤに出会ったのは ある女性向けのWebコラムで そこでアヤちゃんは消費税とともに生まれたオカマでニートというレッテルのもと、 オカマとして、自分を「私」と呼び、恋愛対象を「男性」において 恋愛のことや自意識について、 身を切るような言葉で色んなことを言っていた。 アヤちゃんが丸の内や池袋、原宿を巡る連載もあった。 それは果てしなく面白く、些細なものもでも語る人の目と文章により 面白いコンテンツに変わりえることを、私はそこから嫌という程学んだし 少年

          少年アヤ「少年アヤちゃん焦心日記」ー混沌、でも希望

          山崎ナオコーラ『ニキの屈辱』はここでは終わらない、はず。

          若いながらも注目を浴びている写真家ニキと、 そのアシスタントであり、恋人である青年の 吉祥寺を舞台にしたお話。 恋がしたくなる話でありながら、恋の恐ろしさを知る話でもある。 写真家として注目されている 特別な人のニキに距離感を感じていたはずが、 だんだんと彼女のバカみたいに高いプライドの裏側にある 臆病な一面や、普通の女の子として「甘えたい」という欲を見つけ 恥ずかしくなった。 恥ずかしくなると同時に、恋人にはまっていくニキが 羨ましく、 妬ましく、眩しかった。 信頼し

          山崎ナオコーラ『ニキの屈辱』はここでは終わらない、はず。

          映画『ジャージーボーイズ』を見てー結局頑張っている男の人が一番格好良い

          先日、「ジャージーボーイズ」を早稲田松竹でみて来た。 昔飛行機で見たことがあったから、ストーリーは分かってたけど 映画をみた帰り道、大きなスクリーンで見ることができた満足感から 上機嫌に「シェーエリー」とくちずさんでしまった。 なんて面白いんだろう。全人類にみてほしい。 目新しい演出に加え、メインの4人の性格はそれぞれ魅力的で人によって好みが別れそうなのも良いし、 なんといってもミュージカル仕込みの生の歌声はたまらなく鳥肌がたった。 で、映画の面白さをポロポロと書こうと

          映画『ジャージーボーイズ』を見てー結局頑張っている男の人が一番格好良い

          「なんでInstagramやるの?」と聞かれ「負の感情が湧きにくい」とか「写真は、わくわくするの」と、答えたものの相手の理解は得られず。 でも、古賀さんはさすがだ。腑に落ちる。 ディスプレイの「外」へ|fumiken|note(ノート)https://note.mu/fumiken/n/n607add228dc6

          「なんでInstagramやるの?」と聞かれ「負の感情が湧きにくい」とか「写真は、わくわくするの」と、答えたものの相手の理解は得られず。 でも、古賀さんはさすがだ。腑に落ちる。 ディスプレイの「外」へ|fumiken|note(ノート)https://note.mu/fumiken/n/n607add228dc6

          穂村弘さんへの畏怖

          穂村さんが関わる本、今のところ5冊を読み終わった。 ある書店の店長さんがおすすめしていた『ヘヴンアイズ』の帯に穂村さんの言葉がのっていて、私は穂村さんの名前を知った。 その後偶然『短歌の友人』を読み、圧倒的な短歌の解説力というか、鑑賞力というか、言葉への姿勢に驚いた。 短歌という短い文言のなかでここまで遊べるのかと驚嘆しながら、 この穂村さんという人への興味が湧いた。 この人はなんだかすごいんじゃなかろうか?と。 その後、『にょっ記』を読んだ。部分的に短歌の友人に通じる

          穂村弘さんへの畏怖

          町田康『告白』ー重さもテーマも重量級の一冊

          私は、詩や短歌、小説を書ける人が羨ましい。 書いている行為そのものがうらやましいのではなく 書いている中身を頭の中からひねり出せているという 表現力と感受性と構成力とかそのへんひっくるめて うらやましい。 同じだけ時間を与えられて きっと似たようなものを見たり聞いたりしてるはずなのに 私はなにも感じられずに通りすぎてしまう。 翻って作家さんたちは、たくさんのものを受け取って言葉にしている。 だから、本を読むたびに異世界を見せてもらい感動しつつ あぁこの世界を書けることがう

          町田康『告白』ー重さもテーマも重量級の一冊

          あと一日で、ゴールデンウィーク。備蓄は完璧。 通勤電車だとあまり入り込めないから...ゆっくり浸るチャンスです。

          あと一日で、ゴールデンウィーク。備蓄は完璧。 通勤電車だとあまり入り込めないから...ゆっくり浸るチャンスです。