要約 『勇者たちの中学受験――わが子が本気になったとき、私の目が覚めたとき』 著者 おおたとしまさ
●ベストフレーズ
ハヤトの中学受験を経験して、「私、見えるようになった」と思えている。親として子どもを「見る」ことの意味がようやくわかった気がする。ハヤトが久々に見せてくれたあの目の輝きを守ってやることだけを、親は考えていればいい。 154ページより
●はじめに
本書は、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、実際に中学受験をした家族を取材し、実話を元にした「中学受験物語」である、『勇者たちの中学受験』です。
フィクションですが、受験校やその対策・結果などはすべて実話なので、「物語」という形式を通して、中学受験の過程を追体験させてくれます。
物語である本書からは、単純なテクニックや道筋よりも、長年にわたり、中学受験を取材してきた著者が、実際に目の当たりにした「家族のリスク」、「子どもの人生に与える影響」、「親として学ぶこと」など、合格・不合格以外の「中学受験の功罪」がギュっと詰まっています。
「中学受験をさせたい」と思っている親も、させようかどうか迷っている親にもおススメの内容です。
本書を読めば、事前に中学受験で起こる出来事を学べるので、勉強以外の心の準備や、後悔の無い選択ができるようになるでしょう。
●本文要約
1.「中学受験で人生が決める」と思っていませんか?
本書には、中学受験に挑戦する三つの家族の物語が収められています。「実話をもとにした創作」ではありますが、登場人物名や心情・光景描写を除き、学校名や塾名などはすべて実名です。
そして、結果をみてしまえば、それぞれの家庭の子どもは難関とされる中学に進学しており、成功物語として読めます。しかし、受験の過程では、合格圏内だった学校に落ちたり、家族の心がバラバラになったり、心に傷を負ってしまったり、そこには中学受験を結果のみで評価することの危険性が示唆されています。
長年、中学受験を取材し、複数の中学受験本を出版している著者は、昨今、ネットやSNSで親同士の情報戦が激化し、さらに教育事業者が親の不安を煽ることで、親が中学受験に熱狂的になり過ぎるという、中学受験の「カルト化」に以前から疑問を抱いてきたそうです。
この本で紡がれたのは三つの家族の事例を元にした物語に過ぎませんが、長年の取材経験から、これら3つの家族は決して特異な事例ではないと主張します。その上で、中学受験の最悪シナリオを「子どもや親が壊れてしまうこと」と位置づけ、最大の原因が志望校に対する過剰なこだわりにあると指摘します。それは、論理的には理解できても、中々実感はしづらいものです。読者は、これら三つの物語を通して、最悪の結末がどのような過程で起こり、また、それを回避し中学受験を「いい経験」とするためにいかなる心構えをすべきかを考えることができます。
本書は、「合格」にいたる道筋やテクニックを提供する目的で書かれていません。わが子をどうしても志望校に合格させたいと思う親、あるいは、受験のためのテクニックや精神論などを期待する人には、満足のいく内容ではないかもしれません。ですが、そもそも中学受験は、受験者当人だけでなく家族に対しても大きな影響を及ぼす一大行事であり、それは合否という結果にのみ収斂させることのできない性質のものです。
本書は、「中学受験」を人生の経験として捉え直し、受験させるべきかどうかを含め、わが子や家族にとって中学受験がどのような意味を持つのかを考えるための一助となる一冊です。
2.アユタ――父親主導の受験から選んだ進路とは
茨城県出身の水崎大希は、子どもに目標に向かって頑張る経験をさせたいという思いから、息子のアユタに中学受験をさせてみようと考えます。しかし、両親ともに中学受験経験がなく、右も左もわからない状態です。また、アユタと並走するのは、性格的にも父である自分のほうが向いていると考え、大希は書籍やセミナーで受験の知識を深め、周囲よりも早めにスタートを切ることに決めます。
アユタは、小学校3年生から早稲田アカデミーに通い、勉強に自信をつけます。4年生の冬からはサピックスに転塾します。サピックスは進度が早くて苦戦するものの、何とか食らいつきます。しかし、6年夏の組分けテストで成績が落ち、その後の成績も伸び悩み、志望校も元々の栄光学園からサレジオ学院に下げることにします。お試し受験はうまくいったものの、国語で少し苦戦するなど、不安を残したまま受験本番を迎えます。
アユタの受験校は大希が中心になって選定し、第6志望まで受けることにしました。第6志望もアユタの「持ち偏差値」と同じ46で、かなり強めの目標設定でしたが、結果は、第3志望、第5志望、第6志望に合格と、金星の連続です。4日間で6回も受験をしたアユタは、ようやく普通の子どもと同じように公園に遊びに行きます。一方、大希はといえば、息子の底力に感心しつつも、第一・第二志望に合格できなかったことがどこか残念そうです。
進学先を決める段階となり、大希はアユタの選択に驚かされます。大希は当然アユタが第3志望の男子校を選ぶものと考えていましたが、結果的に彼が選んだのは、第5志望の共学校だったのです。今、アユタは学校生活を満喫しています。大希は、自分が中学受験のために蓄えた知識は、本当に受験に有効なものだったのかと自問しています。また、結果ではないと意識しつつもそればかりを意識してしまっていたことを反省し、これからは子どもの成長を支えていきたいと考えています。
3.ハヤト――確実だった未来、綱渡りの家庭
風間悟妃(さとき)は、会社員の夫と長男、次男、長女の5人家族で暮らしています。長男は、勉強は得意ではないものの、中学受験に挑戦し苦労の末に志望校に合格。次男のハヤトは、大人しいですが勉強はでき、塾ではトップ、今度の受験でも灘・開成・筑波大学附属駒場のすべてに合格する「三冠」を期待されています。父親はハヤトを誇りに思っているものの、成績が下がると怒鳴り散らす人物。悟妃もまた、ほかの家庭を見下していましたが、他方で授業料を免除し、特別扱いしてくれる塾に対して恩義を感じています。
ハヤトは、お試し受験で早速実力を発揮し、特待生での合格を勝ち取ります。また、塾でも一握りの猛者だけが招待される灘の受験遠征に参加します。灘受験は、一見順調にみえ、悟妃も「一勝」を疑いませんでしたが、ハヤトは友人との会話からうまくいかなかったことを感じ取ります。父親はそれを知って怒り、その日以来自室に閉じこもります。それまで学習計画等は父親が立てていましたがそれもなくなり、家庭環境が悪化したハヤトは結果的に「三冠」はすべて不合格、本番期間中合格したのはすべり止めの1校のみで、ハヤトはそこに進学します。
入学後、ハヤトはすっかり無気力になり、家に帰ってゲームばかりしています。悟妃は自室に閉じこもったままの父親と離婚を決意、受験後、挨拶できていなかった塾に連絡を取り、お礼を伝えます。そこでハヤトの状況を話したところ、「自信を取り戻す」ために高校受験を勧められます。このアドバイスに違和感を覚えた悟妃ですが、ハヤトと話してみることに。ハヤトはもう受験は嫌だと言い、さらに、灘受験後に塾の先生に罵倒されたことを明らかにします。悟妃は、ハヤトに申し訳なく思うとともに、彼に必要なのは自信を取り戻すことではないことを悟ります。ハヤトはその後、野外教育プログラムを行う私塾に入り、すこしずつ生きる力を取り戻しています。
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4.コズエ――中学受験における挑戦の意味とは
5.中学受験を成功させるコツ
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