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要約 『コスパで考える学歴攻略法』 著者 藤沢数希
●ベストフレーズ
子供の教育には多大な費用、そして、親の時間を割かねばならない。それならば、限られたリソースを使って、いかに効果的に果実を得るか、というガイドラインが必要ではないか。大げさに言えば家庭の教育の戦略論である。 3ページより
●はじめに
本日の一冊は、物理学研究者で元外資系銀行マンの藤沢かずきさんの『コスパで考える学歴攻略法』です。
本書は、「コスパ」という観点から子どもに受けさせるべき教育を考えるきっかけを与えてくれる本です。あるべき教育のすがたや日本の教育の問題点にのみ焦点を当てるよりも、いったん現状を肯定した上で、どのような選択肢をとるのが時間的・経済的費用の面で効率が良いのかを教えてくれます。
●本文要約
1.中学受験と高校受験はどちらがコスパが良いのか?
子育てをしていると、人生には無数の選択があることに気づきます。保育園と幼稚園はどちらがいいのか、中学受験はさせるべきか、高校は大学付属校にすべきか、などです。親たちはどのような視点からこの問題に向き合うべきでしょうか。
本書は、大学に進学して就職することを目的地として、これらの問題を「コスパ」という観点から分析します。つまり、掛けたお金や時間に対してどのくらいのリターンが得られるのかという視座です。このような判断基準をもうけることで、中学受験と高校受験を、「見返り」という点で比較することができるようになります。
とはいえ、進路の選択とは費用や見返りの多寡だけで決まるわけではないため、本書は中学受験や高校受験のどちらを選ぶべきかに最終的な回答を出すものではありません。しかし、中学受験はどのくらいの学費が掛かり、ちゅうこう一貫校に進学することでどのような効果が得られるのか、それは高校受験と比べたときにどのような利点や不利益があるのかを明らかになることで、家庭の状況に応じた選択は容易になるでしょう。
また、本書では英語に対する考察を行っています。海外大学への進学はどの時点が良いのか、受験英語の「コスパ」を上げ、より経済的成功の度合いが大きい外資系企業に就職するにはどの進路をとるのが良いのかが検討されている点は、類書にはない本書の独自の視点だといえるでしょう。
2.日本はいまだ「学歴」社会
「もはや学歴の時代ではない」と言われて久しいですが、それは本当でしょうか。実際のところ、一般に成功者と位置づけられる企業経営者をみてみると、中堅の私立大の出身者や高卒、中卒の人が沢山おり、一見正しいように思えます。しかし、統計的には、高卒よりも大卒のほうが、大卒よりも大学院卒のほうが平均年収が高い傾向があり、現実的にも高学歴なほど仕事の選択肢が多いと言えるでしょう。また、転職サービスによる調査によれば、高偏差値の学部を出ているほど、平均年収が高いという傾向が指摘されており、社会全体の方向性としては、いまだに「学歴」が重視されていることが分かります。さらに、日本に特殊な考え方として、「学歴」が、単に修士号や博士号といった専門性・研究遂行能力の高さではなく、どの大学を出たかという「大学間の序列」を反映しているという点も重要です。出身大学は一度入学してしまえば生涯利用できる「ブランド」となるので、この点において「学歴」は「身分」としても機能していると言えます。つまり、現実の社会では、新卒は入社時に横並びとなり、高学歴でなくとも成功する事例があるにもかかわらず、「学歴」を追い求めることは親たちにとって有効な戦略なのです。親たちは、早期教育などに「投資」し過ぎることなく、わが子が効率よく学歴獲得競争で優位に立てる方法を考えていかなければなりません。
3.日本の教育の「実力」
大学進学はあくまで「スタート」であるにもかかわらず、また、いい大学に行ったからといって成功を約束されている訳ではないにもかかわらず、学校や教育産業の受験熱は冷めることを知りません。著者はある時期このことを悲観的に捉えていましたが、いざ自分が教育に関わってみるとその利点が分かってきたと言います。まず、入試問題が「与えられた問題を解く」という受動的なものではなく「面白かった」こと、次いで、日本の中高生の学力は国際的にみても高いこと、以上から、著者は日本の受験が「知的な競技」であり、そのおかげで日本の教育水準が保たれているのではないかと考えます。それでは「最終目的地」たる大学に入ってしまえばそれで終わりかといえば、必ずしもそうではありません。大学入学とともに勉強をしなくなる学生がいることは事実ですし、近年アジア諸国の教育水準の高度化により国内大学の地位は相対的に低下しているものの、そのことは日本の大学のレベルが低いことを意味しません。実際、著者は日本の大学でしっかりと基礎固めをし、海外大学院に進学していますし、日本の大学の教育環境や「ブランド」を利用し尽くすことで、海外大学よりも効率的に「成功」を手に入れることが可能だと主張しています。
4.カリキュラムは何のためにあるのか
受験を成功させるためには、何を基準に試験問題が作られるのかを知る必要があります。それは、文部科学省が定めるカリキュラム(学習指導要領)であり、中学入試であっても、大学入試であっても、それは変わりません。カリキュラムの策定は、
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5.中学受験の「コスパ」は手間や時間も重視する
6.高校受験を選ぶ家庭が知っておくべきこと
7.海外で戦える日本人を増やすには
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