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100人の「家族」との出会い ― わたしの転機をふりかえる #10

「わたしの転機をふりかえる」というテーマで連載をしています。
今日は、夫の海外転勤をきっかけに母子3人で暮らすなかで、あらたな家族の形を模索していった日々を振り返ります。

前回はこちら:

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夫が中国に出発してから、母子3人の暮らしがはじまりました。当時、息子たちは3歳と0歳でした。

想像をはるかに超えて壮絶な日々のなか、体も心も早々に限界を感じるようになりました。家事の水準を下げたり「ヤメ家事」を実践したりして多少は良くなりましたが、根本的な解決にはなりませんでした。そこで、慣れないながらも少しずつまわりを頼ってみることにしました。

まずは幼稚園の先生方、保護者の皆さん、ご近所の皆さん。さらに、ベビーシッターさん、家事サポーターさん、旅先で出会った人々、友人、義母など―。そうしてある日ふと振り返ると、これまでお世話になった方の数が100人を超えていることに気づきました。そこまでの経緯を綴ったのが前回の記事です。

「100人での子育て」をしてみて、よかったことはたくさんあります。本当に挙げるとキリがないのですが、とくに大切なものを3つだけ挙げてみます。

親子にとって一生ものの出会いができた

まず、私たち親子にとって一生ものとなる出会いや思い出がたくさんできたことが、何より嬉しかったことです。

近所のクリーニング店のおじさんが、いつも子どもたちの手を握りながら話しかけてくれたこと。幼稚園のとなりの床屋さんが、笑顔で「子は宝だ」と言ってくれたこと。子育て支援団体のビジターさんが一緒に児童館へ遊びに行ってくださったこと。家事サポーターさんが、いつも5分早く仕事を切り上げて息子と遊んでくださったこと……。どの出会いも、あたたかい記憶として心に残っています。子どもたちにとってもそうだったらいいなと思います。

また、親子にとって「将来あんな風になりたい」と思えるような素敵なロールモデルとの出会いもありました。我が家にはじめて子育て支援団体のボランティアさんが遊びに来てくださった日の夜、長男が満面の笑みで「ぼくKさんみたいになりたい!」と言ったことをいまでも思い出します。

住んでいる街のことをもっと好きになった

またそれらの出会いを通して、住んでいる街のことがもっと好きになりました。

私たちの地元は東京のなかでも下町風情が色濃く残るところで、ご近所とも顔の見えるつきあいが残っています。地元で商売を営む方も多く、長男の幼稚園のママ友さんやパパ友さんのなかにも、地元で何代も商売を営まれている方がたくさんいました。

そんなわけで街を歩いていると、知り合いのお店があちこち目に入ってきます。あれはA君のパパの居酒屋さん、あそこはB君ママのお弁当屋さん、あそこはCちゃんのおじいちゃんの楽器屋さん……。知り合いに会って言葉を交わすこともしょっちゅうでした。知り合いが劇的に増えたことで、住んでいる街のことをいつしか自分のホームだと感じるようになりました。

なにより……子どもたちが楽しそう!

そしてさらに良かったのは、子どもたちに笑顔が戻ってきたことです。

じつは夫が出発した直後、しばらく長男が精神的に不安定になっていた時期がありました。毎晩のようにお父さんを思い出しては泣き、昼間も元気がなく、しまいにはチックのような症状も出てきてしまい、どうしたものかと思っていました。

でも家に人を招くようになってから、長男がずいぶん笑うようになりました。カレンダーを眺めながら、つぎは誰が来てくれるのかな~と待ち望んだり、「つぎに○○さんが来たらこんなことするんだ~」と楽しそうに思い描いたりするようになりました。そんな長男の様子を見て、助けを求めることにして本当によかったと思いました。

そんな日々のなか、あるひとつの素敵な言葉と出会いました。

「拡張家族」(chosen family)

という言葉です。

ここ数年、英語圏で “chosen family” という言葉が使われるようになってきています。Chosen familyとは、血縁や法的な関係の有無にかかわらず、絆をもとに支え合いながら暮らす人々を指す言葉だそうです。自ら選んだ人たち同士でつくる新しい「家族」のかたちと言えるかもしれません。この言葉に出会い、私がこれまでやってきたことはこういうことだったのかなと思うようになりました。

この一年間、きれい事で語れることばかりではありませんでした。30代も半ばを過ぎて、自分の弱さや未熟さとひたすら直面する日々でした。心の余裕がなくなると息子にあたってしまうこともありました。本当に理想からは程遠い毎日でした。

しかし、そんな日々のなかで何かいいことがあったとすれば、それはあたらしい家族の形を必死で模索できたことです。そしてそれにより、自分や子どもたちにとっての幸せの形を拡大できたことだと思っています。これまでに岸家の子育てを支えてくださった皆さまは、すべて私にとってのchosen familyです。この一年を通して、自分の行動ひとつで「家族」を増やしていけることを知りました。 

すばらしい出会いに恵まれた奇跡の一年を、生涯忘れることはないでしょう。そしてこれから先の人生、親子で時間をかけて少しずつでもお返しができるよう、ともに歩んでいきたいという思いを新たにしました。

そして2023年の春、chosen familyの皆さまへの感謝を胸に、夫が暮らす中国へと家族で引っ越しました。

つぎの投稿では、中国に到着してからの日々を綴りたいと思います。

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「チーム育児」や「脱・弧育て」などのテーマについて考えるウェブメディア「100人で子育てをすることにしました。」をゆっくりと更新しています。


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