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ショート 4 ヴァンパイアの恋人みたいに


●最近、なんだかずっと悲しい。
別に身内が亡くなったとか、仕事で失敗したとか、何か理由があるわけじゃないけど、
ここ最近、ずっと悲しい。

せっかくの休みの日もなんだか気分が上がらなくて、好きな映画も本も観たいと思わなくて。
無理矢理にでも気分を上げようと、お笑い番組を観たけど、訳もわからず泣いてしまった。号泣してしまった。

それでも、同棲中の彼に迷惑がかからないように、なるべく笑顔でいつも通り接するようにしている。

休みのほとんどをベッドの上でゴロゴロして過ごす私を、「なまけものだな」なんて笑って茶化してくるから、多分彼は気づいていないはず。よかった。
ほんとに。よかった。


○最近、なんだかずっと彼女が悲しそうだ。

彼女の好きな映画監督の作品が動画配信サービスで配信が始まったから「一緒に映画見ない?」と誘ってみたけど、「うーん、今はいいかな。ごめんね。」と言っていた。笑っていた。でも表情が少し悲しそうだった。申し訳なさそうにしていたからかもしれない。だけど、最近笑っていてもなんだか寂しそうな悲しそうな目をしている。

昨日は、僕がお風呂に入っている間に、お笑い番組を観てたみたいだけど、なぜか泣いていた。泣いているのを僕に知られたくないのか、声を殺して泣いていた。


一体彼女の中で、なにが起きているんだろう。


それは、きっと彼女自身もわからないことで、それも相まって彼女は苦しんでいるんじゃないか。

だから、僕にできることは、多分さりげなくそばにいて、さりげなく寄り添って、さりげなく悲しみを終わらせることだと思う。


●金曜日。仕事が終わって、家に帰ってる間に彼から連絡が来た。
『今日さ、ハンバーガー食べない?』
「いいよ、あそこの?」
『そうそう、買って帰るね!いつものでいい?』
「うん!いつもの!ありがとう」

2人の行きつけのハンバーガー屋さんのチーズバーガーはこの世で1番美味しいハンバーガーで、こんな気分が続いてても食べたくなるから不思議。

先に家に着いた私は、テーブルを拭いてハンバーガーを食べる準備をした。

少ししたら彼が帰ってきた。
「おかえり」
『ただいま』
いつものハンバーガー屋さんの紙袋以外にもう一つ、白い箱を持って嬉しそうに帰ってきた彼。
『今日は、お祝いしよ!』
「なにを?」
『んー、、。明日休みってことに?笑』
「なにそれ笑」

久しぶりに心から笑えた気がした。

いつもはテレビをつけてご飯を食べるけど、今日はテレビもスマホもつけず、代わりにキャンドルをつけて、私たちなりのおしゃれな雰囲気でお気に入りのハンバーガーを食べた。

最近の仕事の話。友達の話。映画の話。なんでもない話。

ハンバーガーの後には、彼の買ってきてくれたケーキを食べた。

最近ちょっとなんだか悲しいことも話した。

彼は、何も言わず頷きながら聞いてくれて、それでまた安心して涙が出てきて。

でも話したらなんとなく気持ちが楽になった。

ケーキを食べた後は、2人で夜の近所を散歩して、帰ってきてお風呂に入って、久しぶりに映画を見た。

2人の好きな女優さんが出ている映画縛りの2人だけのオールナイト上映。

すごくすごく、楽しくて笑って、安心した。

彼がいてくれて本当によかったと、心からそう思う。

「ずっと」とか「永遠」ってなんだか叶わない表だけの言葉だと思っていたけど、彼とずっと居たいと思った。


○ハンバーガーとケーキ。
やっぱり少しでも、彼女に心から笑って欲しくて、彼女の好きなものを買って帰った。

そばにいて寄り添うのも大切だけど、きちんと向き合うことも大切で、彼女はたくさんいろんな話をしてくれた。僕もたくさん話をして、久しぶりに悲しそうじゃない彼女の笑顔を見た。

その夜、2人だけのオールナイト上映をしながら、
『明日どうする?』ってふんわり話しかけたら
「なにしようね〜」ってふんわり彼女からも返ってきて、2人で明日のことを考えて、映画観ながら話して、朝になって。

そんななんでもないこの日々が僕はものすごく好きだと思った。

恋の寿命は、3年らしい。僕らはもうすぐ3年目。

「永遠」とかいう言葉安っぽいと思ってたけれど、彼女とは「永遠」が本当にあると思える。

本当に恋の寿命があるなら、その寿命を先へと伸ばして、永遠に君といたいと僕は思う。

それじゃだめ?

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