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【SS】やっぱりひとりは最高だ。(1003文字)
「ひとり鳥貴族」というのが流行っていると聞き、さっそくやってきた。
一人で居酒屋に行ける女ってかっこいいでしょ、という格好良さの欠片もない思惑もあるにはあったけど、それは内緒。
席について早々にハイボールを注文。
さて、何を食べようか。
まずは鉄板の「キャベツ盛」。
これを最初に食べることで、その後の飲み食いの罪悪感が薄れる。
しかもお替り自由。
私のおすすめは飽きてきたらごま油と塩をもらって味変する食べ方かな。
そして名物「貴族焼」。
今日はヘルシーにムネにしようかな。
やっぱりこのボリューム感、ふつうの焼き鳥と全然違う。
これが298円だなんて信じられない。
外せないのがこれ。「ふんわり山芋の鉄板焼」。
小さな鉄板にお出汁の効いたとろとろの山芋。
あっつあつで出てくる。
フチについたおこげも剝ぎ取って、鶉卵と山芋を一気に混ぜる。
これ、シェアしたくないのよ。独り占めしたいのよ。
こう思っちゃうのって私がおかしいのかなあ。
***
お酒もご飯も美味しい。幸せ。
お腹は思ったより早く膨れちゃって、なのになんだか物足りない。
ふう、と満足感と不満感がごっちゃになったため息をついたとき、メニューのロゴが目に入った。
「鳥貴族 TORIKIZOKU∞」
少し前、一緒にここにきたあいつのことを思い出す。
「このTORIKIZOKUの後ろに∞ついとるやん?これなんでか知っとるか?
トリキの社長の息子が関ジャニ∞の大倉くんやから、息子を応援するためにつけたんやで。
父親からの愛、泣けるよなあ。」
なんて、嘘か本当かも定かではない蘊蓄を楽しそうに話すあいつ。
「陽菜乃、山芋鉄板焼き好きやったよな。
ひとり一個ずつ頼もや!」
私の思いをくみ取ってくれるくせに、おこげを残して食べようとした私に、
「おい、陽菜乃、分かってない!
ここが一番おいしいんやんか!」
と半ギレで説教してくるあいつ。
どうでもいい思い出ばかりなのに、なんでか全部覚えている。
こんなところで一人で飲んでやっと、自分の気持ちに気がついたみたいだ。
「よし、電話しよ。今から徴集や。」
もし断られたら、メガ金麦でやけ酒してやる。
その一時間後、あいつは「よっしゃー、今日は飲むデー!」とやってきた。
あたしの気持ちも知らずにのんきなやつ。
でも、やっぱりふたりも最高だ。
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