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【読書感想】パスワードはひ・み・つ new版<パスワードシリーズ>/松原秀行
実は、小学生の頃みんなが通るであろう「青い鳥文庫」を読んだことが、まるでない。
昔から逆張りの人間で、図書館にずらりと目立つ場所に並ぶ人気シリーズを避け、その奥にある本棚から書影で気になる本を選び読んだり、定期的にある本の販促のチラシから選び買ってもらった本を読むなど蛇の道読書(勝手な命名)をしていたのだ。
いや、「怪談レストラン」は読んでいた記憶がある。「なんだかんだ名探偵」とか。でも人気シリーズでもニッチな方だと思う。あとは「シートン動物記」のアライグマの話が好きだった。
以下、蛇の道を進んできた悲しき人間の遍歴である。
・バッテリーを読んだことがない
・ダレン・シャンを読んだことがない(先日1巻読んだ)
・マチトムを読んだことがない
・かいけつゾロリを読破していない
・ハリポタは映画で全部観た
・怪人二十面相は1冊しか読んだことがない
・夢水清志郎シリーズは漫画で読んだ
・黒魔女さんも読んだことがない
・若おかみも読んだことがない
・だがコラボ本だけ持っている
悲しい。
だが、当時は「ちゃお」の漫画に夢中になっていたので、そこでちゃんと時代のサブカルを歩んでいた。許されたい。
そう、漫画の方がみんな、読んでいるのである。
当時、クラスメイトに青い鳥文庫の話をする子はいなかった。まあ、考えてみればそうなのである。小説など、字ばかりの本を話をするのは「読書感想文」など、みんなイヤイヤやらされているものだというイメージがあったからだろう。
私は今にして思う。
もったいね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
もッッッたいね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
有名児童文学読んでないのもったいね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
そう感じた理由は今回表題の本、「パスワードはひ・み・つ」を読んだからである。
率直に言う、めっちゃ面白かった。
もともとコナンが好きなので、少年探偵団のような存在、嫌いなわけがないのである。
「パスワードシリーズ」の存在を知ったのは、言わずもがな「ほんタメ」である。
あらすじ
ミステリ好きの小学生、マコトは週に二回、「電子探偵団」の活動を行なっている。秀才の飛鳥、将棋が得意なダイ、陸上少女のみずき。住む場所も異なる探偵団はネット上でやりとりをしている。電子探偵団の発足者である「ネロ」の元、少年少女たちはチャットのやり取りで日常の謎を解決していく。
私が読んだのはnew版、1995年に刊行された本書が現代のネット技術と違和感がないよう改訂されたものだ。「電子塾」「電子探偵団」「やりとりはチャット」というかなり現代的なコミュニケーションだ。刊行当時であったとしても、かなり先進的というか、小学生にとっては未知の世界だったかもしれない。
シリーズが進むごとにキャラクターは成長し、Wikipediaを見るともうみんな中学生らしい。なんたる。
Kindle Unlimitedで、「パスワードはひ・み・つ」が読み放題に入っていたので今まで全くといっていいほど触れてこなかった青い鳥文庫のシリーズものに手をつけたのである。
「パスワードはひ・み・つ」の読みやすさ、面白さの理由は、1冊で複数話を楽しむことができるところだ。
1冊の中で短いミステリーが収められていて、1話1話が短くて読みやすい。このテンポの良さは、連載漫画とも近い。まさしくエンタメであるが、それでいて、読者を舐めていない。
主人公はミステリ好きで、普通の小学生の並以上にミステリを読んでいる。そのため名作のミステリ小説や作者の名前が作中にも出てくることがあり、この本がそれらの作品に触れる
きっかけになるかもしれないし、あるいは、マコトと同じようにコアなミステリファンの読者が共感をするかもしれない。少し難しいものが奥に潜んでいることで、どんな年代でも楽しむことができる。
それにメンツが固定されていて、さまざまな謎を解決する連作、というのは、なんとも探偵らしくていい。それに短く、いくつも話があることで、まるで自分も電子探偵団の一員になった気になる。1冊でその登場人物が親しく感じられ、好きになっていく。そのためさらに先を読み、一緒に謎を解きたくなる。
そして(名作なので当たり前なのだが)本当に伏線と展開の運びが上手い。
単発でも読める話でありながら、しっかり最後の話にいかされ、つながっていくのだ。この伏線が生かされる感じが堪らない。
児童文学はキャラクター性、ストーリー性、構成力。漫画に負けず、エンタメとしてかなり強いものだと感じた。なんで本当に読んでこなかったんだろう……でも、今読めて良かったと思う。
何故ならこれまで本をそれなりに読んできたため、読書スピードがかなり上がっているからだ。本だけでなく目が滑りそうな資料などにも目を通したりもしてきたため、児童書のなんたる読みやすく、かつ面白く書かれているかがかなりわかる。そういった意味でも、今児童書の素晴らしさに気づけて良かった。
さらに「パスワードはひ・み・つ」のように、キャラ固定連作小説の場合、次回からも登場するキャラクターがわかる。つまり、名前を見ただけでどういうキャラかもわかるので、このキャラはこうで、と覚える手間も減るのだ。これは本当に大事だと思う……。
書く側に回ると、「このキャラクターはこうである」と印象付けるのは本当に難しい。それが難なくされていることがすごいと思うと同時に、この技術、私も欲しいと願ってやまない。
現在はチャットというより、SNSでの交流が盛んだ。だがその分、話題は次から次へと変わる。本書を読んだ結果、読書の話題で盛り上がれるクローズドのチャットルームなんかが欲しいな、と思った。読書サークル、作りたいなあ。
以上。