目指すべきお店たち その3 | 小布施でカフェを始めるまでの話
長野の小布施でカフェを始めるまでの話を書いていきます。前回は、目指すべきお店たちを紹介しました。以前の記事はこちら→その1・その2。今回は、その3(最後)です。
今回はカフェではないのですが、Pave(イタリア ミラノ)、セシルビー(中目黒)を取り上げたいと思います。今回は、お客さんとお店が作る関係性について考える機会になりました。
1 Pave (イタリア ミラノ)
新婚旅行のイタリア ミラノで出会ったのがPave。イタリア語で「パビー」(舗装された道路の意味)と読むそうです。
AirBNBの宿主のおすすめとして、ここのラズベリークロワッサンが紹介されており、「朝カフェにいいね」と妻となんの気なしに入りました。
朝の時間のPaveは活気がありました。高い天井、注文の順番を待つ人の列、整頓されたコーヒーアイテム、店内カウンターに所狭しと陳列されたクロワッサン。さっと持ち帰るお客さんもいれば、席に座ってゆったりと朝を過ごす人もいます。注文の仕方から、常連さんも多そうです。
店員さんはキビキビと動き、笑顔でどんどんとお客さんを迎えては、送り出していきます。これからのエネルギーあふれる一日の始まりを感じました。
一見の私達はいろいろと悩んで時間をかけて注文したと思いますが、素敵な店員さんは嫌な顔せずに受け入れてくれ、ゆっくりと店内で過ごすことができました。
今もいい思い出として、妻と Pave の話をしますし、またミラノに行った際は、かならず行きたいお店です。後で、ミラノ出身の友人に聞くと、Paveはミラノでは有名店で老若男女問わず人気のお店だったようです。
Pave。コーヒーもクロワッサンも、お店づくりも店員さんも素敵でした。でも、なんでこんなにいい思い出になったのだろうと、ときどき思い返します。イタリアなのに、クロワッサンだし。コーヒーもエスプレッソではなかったし。
それは、「Pave が私達を自然に受け入れてくれた」ということに尽きるのではないかと思うのです。
知らない土地に旅行に出かけると、新鮮な反面、ルールやマナーもわからず居心地が悪いものです。イタリア旅行もそんなことの連続で、少し疲れていたのかもしれません。
あの日訪れた Pave はこれまで一度も会ったこともなく、イタリア語もしゃべれない私達を受け入れてくれました。他の常連さんが待っている中、ゆっくりと注文する私達を飛ばして次の人に話しかけることもありませんでした。しかも、「あなた方のために特別」というようなそぶりもなく、ごく自然に私達に合わせて給仕をしてくれたのだと思います。
それは私たちにミラノで「安心できる居場所」ができた瞬間でもあり、きっと知らないカフェに初めて訪れる多くの人が求めるものではないでしょうか。
2 セシルビー (東京 中目黒)
このCMを見ていただきたいです。
ウイスキーになれていなくて「最初に飲むのは、どれがおすすめですか?」と聞く東出さんに、マスターが一言「ピンときたのでいいんですよ」と返す。めちゃくちゃクールなトリスウイスキーのCM。
基本はお客さん自身が飲みたいドリンク、食べたいフードは決めるもの。だけど、たまにはマスターや店員のおすすめに委ねてみたいときもあります。
そんなとき「俺のおすすめはA」と教えるのも親切ですが、さりげなく目を見て「ピンときたのでいいんですよ」とか「どんなものが飲みたい、食べたい気分ですか?」と相手が自分で選びやすくするのもマスターの役割だと思うのです。だって、バーやカフェの主役は、やっぱり訪れたお客さんなのだから。
では、主役がたくさんの店内で、1人だけ1グループだけ目立ち始めてしまったらどうすればいいでしょうか。やはり、マスターが黒子として、全員が主役に戻れるように場所を調整していかなくてはいけません。目線、声かけ、ほほえみ。時には言いにくい厳しい一言も。
それらができるセシルビーのマスターは、すべてのお客さんを主役にできるマスターだと思っています。いつまで経ってもお酒が飲めない私にも、私の気分にあわせてたくさんの種類からノンアルコールカクテルを作ってくれて適度に話しかけてくれ、「バーにお酒が飲めない私がいてもいいんだ」と安心させてくれます。
CMの最後の榎本明さんのように「初恋ですか?」というかっこいいセリフ一生言えないかもしれませんが、私もカフェの給仕をするマスターとして20年・30年と経験を積み重ねる中で、セシルビーのマスターの域にたどり着く事ができたらと、密かに思っています。
書くのに時間がかかりましたが、カフェとはなにか、目指すべきお店たち(その1・その2・その3)を書き終えました。次は、私が「カフェを始めようと思ったきっかけ」について、書いていこうと思います。
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