読書感想文3・老人喰い
コロナ禍が過ぎて、そして再びやってきた。今後の先行き、特に自分の暮らしについて、少し不安になってくる。しかし、このコロナ禍で大きく影響を受けるのは経済的、社会的な弱者とされる。そのような現状に対して、もやもやと思うところがあった。
その思うところを言葉で表す前に、今の現状ついて知りたいと思った。そのため、鈴木大介著の老人喰いを手に取った。この本は、オレオレ詐欺などの振り込め詐欺を行う集団の手口や実態、詐欺に従事する若者たちの行動原理や生い立ちを取材したものである。簡潔であるが、この本の内容を次項に記し、その後に感想を記述する。
振り込め詐欺集団は会社事業のようにそれを行う。その経営理念は、最大限上層部や“社員”が逮捕されずに、金持ちの年寄りから効率的よく現金を騙し取ることである。この理念のために組織の合理化を徹底的に行い、詐欺プレーヤー、いわゆる”社員”にはみっちりと研修・教育を行う。
研修において上層部は詐欺プレーヤー(またはその候補)に老人から金を騙し取ることは正しい、と叩き込む。例えば、金のない人間に怪しげな健康食品などの商品を売りつけて200万のローンを組ませるのと、貯金が2000万の人間から200万を騙し取ること、どちらが最悪の犯罪か、と問うてくる。そして、振り込め詐欺は犯罪に違いないが、最悪の犯罪ではないと正当化する。
著者の取材によると、振り込め詐欺をする若者は経済的に困窮した者や、社会から爪弾きになったものが、生きていくために仕方がなく、そして成り上がることに望みをかけてその世界に身を投じるという。彼らは先述の研修で詐欺行為を正当化され、老人は日本のガンと信じ込み、もの凄い熱意をもって詐欺に投じていく。
ここからは、私の感想である。もやもやとした感情の一因に、振り込め詐欺に投じる若者はもしかしたら私だったかもしれない、という疑念があるからだ。私は、たまたま教育に理解がある両親の下に生まれ、(そしてそれなりの幸運もあって)学業を無事に修めた先に、今の私がある。その一方で、もしもその生い立ちや幸運がなければどうなったのか、きっと経済的に困窮したであろう。
彼らと私の間の境界は、紙一重である。あまりに近い境遇に、ある種の罪悪感を感じてしかたがない。もしかしたら、私は振り込め詐欺に投じる立場だったかもしれない、と思考を突き詰めてしまう。
そして、これからの私はどのように振る舞えば良いのか分からなくなってくる。このまま適当にやり過ごすのか、それとも違う選択をするべきかと。
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