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書評:広井良典『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』

ポスト資本主義のモデルとしての定常化社会論

今回ご紹介するのは、今やポスト資本主義論において定常型社会主張のオピニオン・リーダーとも目される広井良典氏の『ポスト資本主義 科学・人間・社会の未来』という著作。

一般に未来に関する言論には大きく分けて、「どうなっていくか」という予測型と、「どうしていくべきか」という提言型の2種類があると言える。

本著に限らず未来に係る言論に触れるにあたっては、当該言論がどちらの主張をより重視した内容であるかに注意する必要があるだろう。

何故なら、どちらに力点が置かれているかによって、読む際に注意すべきポイントも異なってくるからだ。

例えば、予測型であれば現在確認できる事実のうちどういう事実を用いて因果律をベースとした論理を構成しているか、そしてその論理展開を十分に検証しているかを見極める必要がある。

逆に提言型であれば、何を善しとするかという著者の価値観に基づく判断(=価値判断)が存在し、論旨の展開のどこかに当該価値判断に基づいた選択なり決断が含まれることになる(多くは論理的に飛躍せざるを得ない箇所において)。
この場合、著者の価値判断を的確に捉えているかが、主張の理解そのものに影響する。
また、見極めるべきは主張が著者の価値観に従ったものになっているか、という点となるであろう。

※世の中には「それってあなたの感想ですよね?」が的確な論破になると思っている人がいるようだが、提言型の言論においては感想に基づく選択や決断が含まれていたって良いのである。感想だったらダメなのではなく、その人の価値観に従った選択や決断になっていなかったら「主張が感想に従っていない」点を指摘することが初めて論破になり得るのだ。

さて、本著について。

本著は、ポスト資本主義として定常型社会へと向かう「べき」という価値判断を持つ著者による提言型が主体の著作となっている。

内容としては、

①これまでの資本主義システムの振り返り
②ポスト資本主義として考えられるモデルの紹介
③その中の1つである「定常型社会」の深掘り
④何故「定常型社会」が目指すべき姿なのかの論証
⑤如何にして「定常型社会」を実現していくかの提言

という流れで話が進められる。

①は非常にわかりやすくまとめられている。
②も空想的なものも含め可能性のあるものはしっかりと列挙されている。
③は本著の重要箇所の1つであり、丁寧に説明される。
④は著者の価値判断をより多くの人に共感してもらうための部分で、本著において最重要箇所のため、後述する。
⑤ここは仮説思考ベースで、私を含め多くの読者にとっては深い検証は困難な箇所のため、著者の知識を学ぶ読書ができれば良いと思う。

ということで、ここからは上記④について。

著者は、現行の資本主義システムは、地球規模での高齢化の進行やそれに伴う人口の成熟(ないし減少)等を背景に、やがて成熟化(低成長や非成長)すると予測する。

また合わせて、社会構造の面においては、田中明彦先生の「新しい中世」論を引き合いに、国家を中心とした集権的かつ一元的なベクトルによる拡大・成長が後退し、活動主体が多元化し、各地域等のより小さな単位で多様化していくと予測する(こちらは既に部分的に確認できる事象となっている)。

こうした経済システムと社会構造の変化の先においては、市場が今後も拡大していくことを前提としたスーパー資本主義的な舵取りは成立し得ないとの判断が下される。

こうした論旨の根底には、現行の資本主義システム(特に80年代以降の新自由主義的資本主義)には修正が加えられるべきとの価値判断が存在している。

私自身は最後に記した著者の基本的価値判断に共感する立場で社会を見ているため、著者の提唱する「定常型社会」のモデルは目指すべき姿の有力な候補の1つとして大いに学ばせていただいた。

読了難易度:★★☆☆☆
知識整理の洗練度:★★★★★
可能性予測の広がり度:★★★☆☆
定常型社会モデルの具体度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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