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書評:ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』

集合知は存在するのか?その成立条件とは?

今回ご紹介するのは、ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』という著作。

ビジネス書を芋づる式に読んでいくと、ごく稀に紹介したくなく本に出会うこともある。
今回のはそんな著作の1つであった。

本書の原題は、『The Wisdom of Crowds』。
言わば、集団知、集合知とでも言うべきもの、それらの持つ合理性を統計的に実証することを試みた著作である。

概して、主張の拠り所はかなり学説的。主張の射程は社会の広範囲に及んでいる。

なので、まず和訳のタイトルがあまりにも残念な気がした。

加えて、何故にビジネスのジャンルで有名なのかがいまいち腑に落ちない。日本語版はとてももったいない著作だと思われた。

一般に衆愚、愚民という言葉、概念があるが、それらに対し一考させられる著作である。

統計的検証に基づいた本著の主張によれば、集団知・集合知は、「一定の条件を満たす時」に、高確率で「良い」意見を生み出すと統計的に主張し得るとのこと。

そしてその「条件」として提示されるのが、以下の4つである。

①多様性…各人が独自の私的情報を多少なりとも持っていること
②独立性…他者の考えに左右されないこと
③分散性…身近な情報に特化し、それを利用できること
④集約性…個々人の判断を集計して一つの判断に集約するメカニズムが存在すること

一瞥すればわかるかと思うが、実はこれらはいずれも要件としてハードルが高く、且つデジタルに満たすことはおよそ考えられないものばかりである。
つまり、要件の充足性は定性的な程度論となる。

故に集団知・集合知が「良く」なるケースも自ずと確率論となり、「良さ」も程度論となるだろう。

ただ「統計的に見れば」というのは元来そういうものであり、実際に不思議なくらい「良い」意見が生まれるというのだ。

本著の主張を重んじれば、例えば愚民論などは上記の条件の充足の困難性から来るのではないかと仮定できそうだ。

結構なコペルニクス的転回となった著作であった。

読了難易度:★★☆☆☆
検証の科学度:★★★★☆
結果の新鮮度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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