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書評:中上健次『鳳仙花』

中上文学に人間の営みの不易を伺う

今回ご紹介するのは、日本文学より中上健次『鳳仙花』。

本作は、『枯木灘』や『地の果て 至上の時』の主人公秋幸の母フサの物語である。

舞台は和歌山県の新宮(余談だが新宮は私の父の故郷でもあり、私にとっても馴染みのある土地だ)。

秋幸を中心とした作品がいわば剛の作品であるとするならば、対してこの作品は薄いガラスのような繊細さ・か弱さを備えた作品だと言えるだろうか。他の作品との対比で読むと、中上の表現力の幅広さに思わず驚嘆せずにはいられなくなる。

前半は処女の女性の抱く不安・怖れが精緻に描きあげられ、後半はめくるめく生と死の協奏曲が命の儚さを彷彿させる。

人と人との結びつきが人を生み、人を作る。
そして人の生と死が、人を変化させていく。

戦前、戦中、戦後と移ろいゆく時代背景の中にあっても、詰まるところ人間は生まれ死にゆく存在、結びつき離れゆくことで変化を繰り返す存在であることに変わりはないのだ。

そんな生と死の原点に中上流の美的・詩的センスが織り込まれ、物語は生まれ、終わりゆき、そして次の物語を想起させる。

物語自身がそのテーマそのものを体現するかのような構成は見事であった。

読了難易度:★★☆☆☆
色調の繊細度:★★★★☆
人間の営みの不易表現度:★★★☆☆
トータルオススメ度:★★★☆☆

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