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書評:三田一郎『科学者はなぜ神を信じるのか』

神への漸近としての物理学通史

今回ご紹介するのは、三田一郎『科学者はなぜ神を信じるのか』という著作。

本著は自然科学、特に我々のこの世界を普く貫く法則の解明に心血を注ぐ古今の物理学者達の多くが、神(多分にキリスト教的な一神(絶対者))の存在を信じてきたという事実に注目し、その所以を主要な科学者にフォーカスしながら探っていく、という内容となっている。

何故科学者が神?宗教?
そんな素朴な疑問に答えてみようというのが本著の目指すところだ。

何よりもまず、本著では古今の主要な物理学者を歴史的な順序を追いながらその研究成果を紹介する、という側面を持っている。

かつて人間にとって多くが謎につつまれ神秘的であったこの世界が、徐々に科学によって解明されていく歴史を振り返る、という筆の運び。
これはあたかも、一般読者が物理学の成果を歴史的に知ることができるかのようで、物理学史としての側面を持っているという点が本著の魅力の1つとなっている。

  • ピタゴラスの地動説

  • アリストテレスの天動説

  • コペルニクス、ガリレオ、ケプラーによる観測的に証明された地動説

  • ニュートンの運動方程式、万有引力

  • ラプラスの悪魔

  • ファラデーの電磁場論とそれを数理化したマクスウェル

  • アインシュタインの相対性理論、ブラウン運動、光量子仮説

  • ルメートルの膨張宇宙論、ビッグバン理論

  • ボーアの原子モデル

  • ハイゼンベルクの不確定性原理

  • ディラックの反粒子論

  • ホーキングの特異点定理、虚時間宇宙論

  • 佐藤勝彦およびグースのインフレーション理論

このように物理学が世界の「メカニズム」を徐々に解明していく歴史を追いながら、彼らが「神」なる概念をどのようなものと捉え、如何に向き合ったかが紹介されていく。

一般に科学は結果とその原因・理由を解明する目的を持っており、殊に物理学は原因と結果のつながりにおいて常に成り立つ法則の定式化を目指す、という側面がある。

そして原因と結果は、原因が結果を生み、その結果がまた何かの原因となり結果をもたらし、その結果がまた原因となり結果をもたらし・・・、と、連綿と続く原因と結果の連鎖という性質を持っている。

しかしながら、このことは2種類の根本的な疑問をもたらす。

1つは、原因と結果の連鎖の最初の最初、つまり始まりの原因「第一原因」は何なのか?という疑問だ。
逆に言えば、「何故?」の追求の終着点という見方もできるだろう。

もう1つは、原因と結果をつなげる「メカニズム」はわかっても、「何故」そうしたメカニズムが存在するのか、という、原因と結果の連鎖の「存在理由」を巡る疑問だ。
別の言い方をすれば、科学は「この世界は如何に?」には答え得ても、「何故このような世界か?」に答えることはできるのだろうか?という疑問だろうか。

この2点は、物理学者が積み上げてきた叡智をもってしても、未だに答えられていないのだ。

だからこそ、ある人は存在理由に「神がそのように世界を作ったのだろう」と考えたり、ある人は「世界の原初こそが神であろう」と考えたりと、著名な科学者の多くは神の存在を「要請」してきた、と言えるのではないだろうか。

これは、単純に神(の存在)を信じる、というのとは少々異なる。
「神のような超越者がいなければ「第一原因」も「存在理由」も説明がつかない。だからきっと神はいるのだろう」という、信仰というよりは「世界説明への欲求の結果としての神(超越者)の要請」という思考プロセスを見て取ることができる。

そして著者の三田氏はこう締め括る(要約)。

「世界の説明に神を持ち出すことは思考停止のように思えるかもしれない。
直ちに神を理由に持ち出すならばそうかもしれないが、本来世界の説明とは終わりのない営みだ。
だとするならば、「世界の説明に神は必要ない」と断言し決定付けてしまうことこそが思考停止ではないだろうか。
この世界の「神秘性」を認めながら、その解明に向かって論理と実証の力で近づき続ける営みこそが、科学的態度というものだろう」

ともあれ我々の世界の説明は、神的な存在を信じながらその説明を目指した科学者達によって連綿となされてきたという事実がある。

科学と神との絶妙な距離感。
ここに科学のロマンがあるのではないだろうか。

読了難易度:★★☆☆☆←難解な箇所もあるが読み飛ばし可能
物理学史俯瞰度:★★★★★
科学のロマン度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆


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