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書評:平野啓一郎『日蝕』

思わず意識させられた当時最年少の芥川賞作家

今回ご紹介するのは、平野啓一郎『日蝕』。

戦後の日本文学をほぼ読んでこなかった私としては、我ながら珍しい作品のご紹介になるかと思う。

平野氏が芥川賞を受賞されたのは私が大学生の頃で、年齢は私の2つ上とお若く、そして京大卒ということもあり、東の現役大学生は皆結構意識し、話題となった。

私も是非読んでみたいと当時手に取ったのが本作でしたが、その力量に驚嘆するばかりであった。

舞台は15世紀後半のフランス。
イタリアではルネサンスの産声が鳴り響くも、アルプス以北は未だ中世的文化が根強い時代。

ドミニコ会に属する主人公ニコラは、異端の教学との対峙を求めて「ヘルメス選書」の完全版を手に入れるべく、パリからリヨンを経由して、イタリア・フィレンツェへと赴く旅へと出発する。

表向きの動機は、既に軽んじられつづあったトマス・アクィナスによる「スコラ哲学」の体系が、如何なる異端教学をも組み込むことが出来ることを示したいとの思い。

根底に潜めたる動機は、雨後の筍の如く出来する数多の異端教学に対し、これらを包摂し得る教学体系をトマスの如く自らの手で打ち立てたいとの野心。

しかしその旅の途中、リヨンから程ない小さな村に、錬金術に心血を注ぐ不思議な人物がいることを知り、その村に立ち寄ることとなる。

錬金術師と対峙し、次第にその理論を伺うことができるようになったニコラだったが、その理論の大半は自然学に則った何ら異端性を備えぬものであると感じながらも、その本質の一点が孕む極めて非自然学的な要素を受け入れることができなかった。

それのみならず、錬金術師も他の説明においては合理的でありながら、その本質の一点については狂信的な主張であり、ニコラは何故これ程合理的な人間がその錬金術の本質においてこれ程までに合理を欠くのか、理解することができなかった。

しかしやがて、錬金術師の本質的確信の裏には、その確信を支える現存在があることを、ニコラは突き止める。
それは、目にしても信じ難い、両性具有の生物であった。

しかしこの両性具有の生物は、この街に来ていた異端審問官の手にかかり、火刑となってしまう。

その際、ニコラが味わった不可思議な体験とは・・。
聖なる現象との合一とは・・。

中世ヨーロッパの、異端を含めたキリスト教の知識。
それを大地とした村社会の文化。
15世紀末におけるアルプス以北という絶妙な時空間設定。

こんな教養人が同世代とは。
色んな夢や希望が打ち砕かれた作品だ。
戦うなら、封建制とか政治社会分野の知識であろうか。

三島由紀夫の再来と称されたそうですが、三島を一作も読んだことがないため、その点はよくわからない。

読了難易度:★★☆☆☆
ストーリーの独創性度:★★★★☆
人文的教養度:★★★★★
トータルオススメ度:★★★★☆

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