見出し画像

書評:加藤文元『ガロア - 天才数学者の生涯』

数学史に偉大な功績を遺した天才数学者の数奇な人生

今回ご紹介するのは、加藤文元『ガロア - 天才数学者の生涯』という著作。

天才の名を欲しいままにする人物というのは、歴史上そういるものではありません。数学者ガロアは、その中に間違いなく数えられる人物だと言えるのではないだろうか。

しかしながら、そんな才能溢れた彼の生涯は、順風満帆どころかおよそ不幸の連続であり、その死すら悲劇的なものであった。数学界に今なお色褪せぬ金字塔を打ち立てながら、若干20歳にして決闘による謎の死を遂げた孤高の天才数学者。果たしてその生涯はどのようなものだったのか。

本著は、ガロアの生涯を問い直し、史実としてのガロアの人生を正当に描くことを目的としている。ガロアの人生はこれまで、数多の悲劇的伝説が脚色されたかのように語り継がれてきた嫌いがあったからだ。

◯二度にわたるエコール・ポリテクニークの不合格
(ガロアにとっては全ての証明問題があまりにも簡単で当たり前の内容であったため、全ての問題に「明らかである(証明する必要がない)」と答えたため不合格となったという伝説が残っている)

※数学の証明においては確かに、一般的に見て証明の必要がないほど自明な論理の部分を「このことは明らかであるから」と、証明を端折ることが認められる。しかし、ガロアのように設問そのものを「明らか・自明」とすることは、残念ながら「一般的に見て」そう言えるものとは認められないものだろう。

◯フランス科学アカデミーによる不当な論文評価
(中には論文紛失疑惑まであったとも語れている)

◯エコール・ノルマルの放校処分

◯過激な政治信条による投獄経験

◯当局による陰謀疑惑までもが囁かれる決闘による死

◯群論のコアな概念は決闘の2時間前に涙に滲んだ文字で走り書きされ、友人に託されたという逸話

こうした一般的なガロアの生涯像について、当時のフランス政治情勢や、ガロアの政治信条に少なからぬ影響を与えた父の事件も視野に入れながら検証したのが本著である。ガロアの数奇な人生を丁寧に紹介しながら、一つ一つの事件について客観的な評価を示す、バランスの取れた内容であると言えるだろう。

ガロアの人生はこうしたバランス感覚のある視座から検証されても、なお悲劇的だ。それでもやはり、どの事件もそれなりに理由のある悲劇だったのかもしれない。

ガロアについては、彼が残した偉大な業績である「群論」があまりにも有名であるが、数学に明るくないとその業績はあまり知られるところではないのではないだろうか。かく言う私も、「群論」という名前だけは知っているものの、所詮はパンピー(「一般ピープル」を意味するKING王語)なので深遠過ぎて内容には触れることすら能わずだ。

一般にはむしろ、五次以上の高次方程式に解法(解の公式)がないことを証明したという業績で有名かもしれない。

※余談だが、一般に証明においては、「ある」ことよりも「ない」ことを証明することのほうが遥かに難しい傾向がある。「ない」ことの証明が「悪魔の証明」と言われる所以だ。しかし「悪魔の証明」という言葉のイメージがもたらす誤解なのかもしれないが、本来この言葉は「ない」ことの証明が「極めて難しい」ことを意味するのであって、「不可能」であることを意味するものでは決してない。例えば、かの有名な「フェルマーの最終定理」も「ない」ことの証明を求めた問題だ。証明までに350年かかった難問であったが、見事に証明された偉業だ。

歴史に「IF」はないが、「IF」を想像する魅力は尽きないロマンであるのもまた事実ではないだろうか。もしガロアが、天才ガウスと出会っていたなら、彼の人生は、そしてその後の数学界の進歩はどうなっていたのだろうかと想像せずにはいられないのだ。

読了難易度:★★☆☆☆
ガロアの人生わかる度:★★★★☆
ガロアの功績わかる度:★★★☆☆
トータルオススメ度:★★★★☆(←私の主観で高評価)

#KING王 #読書#読書感想#読書記録#レビュー#書評#人物#伝記#歴史人物#数学者#ガロア#群論

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?