書評:有島武郎『小さき者へ・生まれ出る悩み』
強き志を奮起してくれる高尚な文学
今回ご紹介するのは、日本文学より有島武郎『小さき者へ・生まれ出る悩み』。
有島武郎の短編二作。初読は学生時代だっただろうか。それぞれの作品について簡単に感想を綴ってみたい。
『小さき者へ』
『小さき者へ』は、母を失った子供達に対する父親の愛情を綴った作品。
書評なんて書く気になれないほど、ぐっとくる。自分の父を思い浮かべてしまう。
私の父は非常に謹厳実直な人である。酒もタバコもギャンブルも一切やらない。真面目の鏡のような人間である。自営業で花屋をやっているが、そう儲かる仕事ではない。国民年金も払うこともできないほど貧乏な中、まさに『小さき者へ』のように、「私を越えて行け」と背中で語るようにひたすら仕事に汗を流して私を育ててくれたそれを思うと目頭が熱くなるのである。
自己啓発的な意味で、何度も読み返している作品である。頑張らないとと思わせてくれる作品だ。
『生まれ出る悩み』
『生まれ出ずる悩み』は、芸術に生きることを切に希望しながらも生活苦と家族を守る責任感から漁業に生きざるを得ない若人を描いた作品。こちらもぐっとくる。
こちらは、いろいろ秀逸なポイントがある。
まず、自然描写。
海で人間の命をあざ笑うかのように襲い掛かる自然があれば、若人を包みこむような温かい自然もある。「生きた自然」の表現とでも言えようか。
それから、若人の葛藤。
夢と、それに対する現実の制約に苦しみ、時には自殺をも想起してしまうほどに思い悩む。しかし彼は決して環境を言い訳にするタイプではない。自らの絵の才能をも本気で疑う非常に強い自制心がある。『山月記』の李徴とは正反対である。
この姿が私を叱咤する。環境に甘えるな、環境のせいにするな、と。そのためには恐ろしいまでの強い心が必要となる。時には休みたくもなるし、逃げたくもなる。そんな時にこの作品を読むと、自分に鞭打つかのような気分になる。
どちらも読む者を奮起させてくれる、強き志の高尚な文学だと言えるだろう。
読了難易度:★☆☆☆☆
胸を打つ感動度:★★★★☆
高尚な意志奮起度:★★★★★
トータルオススメ度:★★★★☆
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