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なぜ私の友人A君は、ジョブ型人事の評価制度を見限るようになったのか

人事評価のシーズンがやってきた

上半期も終わりが近づき、サラリーマンであれば避けて通れない、あの季節がやってきました。そうです、人事評価査定シーズンです。

人事評価制度については、等級制度・報酬制度と並び、人材マネジメントの根幹を成す手法の一つです。

少し前にジョブ型人事制度についての記事を書きましたが、近年は職能的な評価よりも職務的に報酬を設定していくジョブ型人事制度の高まりにより、そもそも評価分類が5段階→3段階に大ぐくり化されていく等、評価がAだったのか、Bだったのかといった絶対値の価値がこれまでと比べて相対的に低くなってきていることは間違いありません。

評価の大ぐくり化の狙いは、細かい評価調整に労力をかけるのではなく、本質的に部下の成長や課題について考えることに時間をかけて欲しいという制度設計の意図があります。

ただ、評価の大ぐくり化にあたっては「評価が中心化傾向により偏り、ほとんどの人が中間評価になるため本当にトップ層のボーダーラインにいると自分自身で認識している人しか高い評価を得ようとする日々の行動に対するインセンティブにならないのではないか?」という懸念が挙げられていました。

※以前書いたジョブ型人事制度についてのnote


懸念は的中、友人A君は評価をあまり意識しない行動を取るようになっていた

この記事を書こうと思ったのも、友人A君と会話している際

「評価面談憂鬱だなぁ。もはや評価なんてなんも気にしてないわ」

といった彼の一言が、最近改めて人事の基礎について学び直し、”評価制度は人材マネジメントの格である”と認識していた私に問いを投げかけたからです。

人の評価を気にしないで自分の信念に沿った行動をとる。もちろん、人の目を気にせず行動することは素晴らしいことです。

ただ、人事評価制度を策定する意味としては、企業が目指すビジョンの達成に向け最善な行動を取るように従業員を方向づけるために「どの様な行動を取り、どのようなアウトプットを出した従業員に報いるか」を明確化し、目標管理ともに従業員をモチベートし、チームに文化を形作っていくものであるはずです。

「どれだけ人事評価制度に思いを込めて素晴らしいものを作ったとしても、従業員がそれを無視するようになってしまったら運用としてはもはや形骸化している」そう思った瞬間でした。


なぜA君は評価を気にしないのか?

なぜ従業員は評価を気にしなくなるといったことがおきるのでしょうか?それにはいくつか理由があると思いますが、私なりに友人と会話した上での解釈としては、

  1. 評価の大ぐくり化により、周囲との差が見えづらくなった

  2. 結局大事なのは”ジョブ”でしょ?という感覚

  3. 結局は日々のフィードバックでほとんど評価は予想がついている

といったものがあげられます。

評価の大ぐくりによる課題

評価の大ぐくり化により大半のメンバーが3段階評価で言う2に集中している状況では競争意識が薄くなるため、高い評価をとりにいこうとする従業員は減っているように感じます。

5段階評価中の3→4を目指すより、3段階評価で2→3を目指すことの難易度は高く、MAX評価をとる従業員というのはおよそ10%程度あることを考慮すると、かなり中間レベルだった従業員が最高評価を取ろうとすると業務レベルをかなり引き上げていくことが必用になります


ジョブの意識が高まったことによる課題

また、2つ目の結局は”ジョブ”でしょ?という感覚が、短期的な半期ごとの評価から視線を少し長期的なものに移している感覚もあります。

従来の職能型評価制度の世界では、毎期事の評価がポイントの様な形で累積され、一定ポイントに到達した従業員は能力が次のレベルに達したとの評価を受け、”毎期の評価の積み上げ”が将来的な昇格に直結している感覚がありました。

しかし、ジョブ型人事制度の世界においては、毎期の評価がいくらよかろうがポジションが空いてそのジョブに就任しなければ次の等級に上がることは出来ません。逆に、ポジションに空きが出て一定程度の適正が認められれば、そのジョブを担うことになり新しいジョブとして等級が引き上げられるケースがあります。

同一等級内の昇格よりも、次の等級に昇格する時の方が昇給幅が大きいことも多く、最高評価者と中間評価者の月給の昇給幅が数千円程度であればあまり意識されないといった場合もあり得るかと思います。

もちろん、日々の積み重ねでより良いポジションへのアサインメントに繋がることは間違いありませんが、無意識レベルでそこが影響している感じがします。

日々のフィードバックで「今回の評価はそんなよくないだろうな」とだいたい想像つく、でもいい。

日々のフィードバックで評価が想像つく。

これ、人事評価制度について一度は学んだことがある方からすると、「めっちゃいい状態じゃん」と感じると思います。

人事制度運用においては、被評価者の認識と実際の評価に乖離があればあるほど被評価者の受け止めが難しく、乖離が少ない場合は日々のコミュニケーションがうまくとれているとされています。

では、この同僚のケースでは何が課題なのかかというと、「評価が高くないと感じながらも、特にその改善に向けた行動はとらなくていい」と考えていることです。

この状態が続いてしまうと、取るべき行動や文化に統一感がなくなり、チームとして目指している方向にずれが生じてしまう可能性があります。

もはや部下は評価結果を気にしないと割り切った方がいい

じゃあ私たち人事やマネージャーはこの状況にどう対処すればいいのでしょうか?

一つ目の課題である評価の大ぐくり、ジョブへの意識の高まり、これらについてはもちろん課題もありますがメリットもあり、ここに対して手をうつことがここで取るべきアクションではないと考えます。

少し評価制度そのものに対して逆説的な考え方になりますが、「もはや評価の絶対値によって従業員の行動は変わらない。そもそも評価を大ぐくり化し、ジョブによる報酬決定要素を大きくしている時点で、評価結果自体の重みは下がっている」と考えることが理にかなっています。

そのため、人事やマネージャーは、人事評価結果ではなく、これまで以上に日々のフィードバックやコミュニケーションを通じてチームに文化を作っていかなければなりません

これは言うは易く行うは難しです。マネージャー自身が日々のコミュニケーションの中で、どんな行動を評価し、どんな行動を評価しないのか?といったことを、評価”項目”に沿った形で自分のチームにおける行動に落とし込んでフィードバックしていかなければなりません

さらに、フィードバックを受ける側のコーチャビリティも醸成した上で、マネージャー自身も部下から逆フィードバックを受ける勇気を持ち、納得感を高めていく必要があります。


※フィードバックや非金銭的報酬に関しては、ひでまるさんのこちらのnote記事がとても参考になったのでこちらも是非。



最後に

今回、友人A君と2時間くらい語り合ったことで、人事評価制度を作ることと同等かそれ以上にその運用主体となるマネージャー層の成長支援をしていくことが重要なのか?ということを強く実感することが出来ました。

最後はありきたりな”コミュニケーション”という結論になってしまいましたが、人事の基礎を学び直して人と組織の専門性を身に着けたいという意識のもと、日々の問題を見ることで様々な問題点が浮かび上がってくると実感した経験でした。

また、僕自身のキャリア相談にも色々と乗ってくれたA君ありがとう!

※ついでに、弊社に一度講演に来てくれて社内のフィードバック文化醸成に心血を注いで会社を大成長させたConcurの三村社長の書籍リンクを張っておきます。フィードバック一つとってもここまで突き詰めれば会社を変えれるんだととても感銘を受けたので、是非気になる方はご一読を。


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