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幽刃の軌跡 #32

第32話「闇に潜む影」

平場国東部一番隊駐屯地
東部の朝は静かで、どこか張り詰めた空気が漂っていた。一番隊の駐屯地内では、整然とした統制が行き届いており、全員が規律正しく行動している。

影天部隊の琴太は、駐屯地内を歩きながら、心の中で考えていた。

「やはり、東部部隊に動きはなさそうだ。特にこの一番隊は統制が軍内でも随一だ。平家家系内でもエリート出身の朝光様のまじめで実直さが軍隊に統一されている感じだ...」

琴太が見上げる先に、一番隊長の朝光が、兵士たちを前にして厳かに立っていた。彼は穏やかだが、その目には冷静な決意が宿っている。

「自国の平和こそ、我々の勤めである。気を引き締めて頼むぞ。」

朝光の一言が、駐屯地内の緊張感を一層高める。兵士たちはその言葉に背筋を伸ばし、誇りを持って任務に従事していた。

琴太は静かにため息をつき、さらに状況を観察し続けるが、何も異変がないことを確認すると、次の行動を考え始めた。

平場国西部八番隊駐屯地
一方、西部では、影天部隊の尊が潜入していた八番隊駐屯地。そこは東部とは対照的に、少し緩んだ空気が漂っていた。夕暮れが迫り、隊員たちは食事の準備を始める。

「こちらも今日も動きはなさそうだな…」

尊は、八番隊の兵士たちの様子を観察しながら思った。どこか和やかささえ感じさせるこの部隊の雰囲気に、彼の内心は次第に焦りを感じ始める。

八番隊の隊員1が、周囲に声をかける。

「はー…皆!!日も暮れるので、飯にしよ飯に!!」

夕食が始まると、兵士たちはそれぞれ自分の思い思いの時間を過ごしていた。尊も食事を取り、彼なりに状況を探り続けるが、今のところ目立った動きは見えない。

一方、八番隊長の平 誠範は、隊長室で一人静かに物思いにふけっていた。

「この部隊の中に…本当に潜んでいるのか…この数日隊員1人1人を見て回ったが、疑わしきものはいなかった…」

誠範は疑心暗鬼に苛まれながらも、自らの部隊の忠誠心を信じたい気持ちと葛藤していた。

夜が更け、尊は見回りに出た。辺りは静かで、月明かりが駐屯地を淡く照らしている。尊は慎重に歩きながらも、どこか引っかかる違和感を覚えていた。

「なぜあの方がここにいるのか…」

尊は目の端に、見覚えのある人物の姿を捉えた。しかしその時、隊員2が彼に声をかけた。

「おい。早くいくぞ!!」

「わ、わかりました。」

尊は素早くその場を離れ、見回りを続けたが、その不審な人物の姿が脳裏から離れなかった。

翌朝、八番隊の駐屯地内で突然の悲鳴が響き渡った。

「ぎゃーーーーーーーーーー!!!!!!」

八番隊隊員3が門の前で叫び声をあげ、駆けつけた隊員たちはその光景に愕然とした。そこには、八番隊長の平 誠範の首が無惨にも刺さっていたのだ。血が地面に染み込み、隊員たちは混乱と恐怖でざわめき始める。

「どうした!? なにがあった!?」
「誰がこんなことを……」

尊もその場に駆けつけ、その惨状を目の当たりにした瞬間、言葉を失った。

「なぜ……なぜだ。誰がこんなことを……」

尊の心は混乱し、胸が締め付けられるような感覚に苛まれていた。その時、ふと背後に気配を感じた。振り返ると、そこには牛若が立っていた。

「なぜここにいるんですか……」

尊が震えながら問いかけると、牛若は静かに前を見つめたまま、無表情で答えた。

「……間に合わなかったか……」

牛若の言葉が風に流れ、尊の心にさらなる疑念と不安を植え付けた。平 誠範を殺したのは誰なのか。牛若の狙いは何なのか。混迷を深める中、物語は次なる展開へと進んでいく――。

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