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【生産性のモノサシ】 普段使いのPLANとDO (3)

「全体最適のプロジェクトマネジメント」 岸良裕司、2011

 PDCAのPLANとDOはプロジェクトマネジメント(以下PM)そのものだと思うのですが、一般的なPMの教科書は大げさすぎて、日常のPDCAでは使いこなせません。岸良さんの本を参考にして「普段使いできるPLANとDOのマイ・マニュアル」をつくってみました。いわばPMのアレンジレシピです。


ツール2: 工程表
ガントチャートよりフローチャート

素人PMに向かないガントチャート

 工程表というとガントチャートを思い浮かべる人が多いと思います。しかしガントチャートは日程を横軸にするので、タスクの開始日、完了日が揺らぐたびにガントチャートの横棒を書き直す必要がでてきます。ところがタスクの開始日と完了日はPMでもっとも不安定なパラメータです。横棒一本がずれるたびに他の横棒に影響するので、かなり広い範囲にわたって書き直す必要がでます。
 さらに怖いのは、マネジャーが、現場で生じている想定外の事態を無視して、タスク日程死守を現場に強要することです。現場を無視しているのでPJの成功率は低下します。そのうえ「タスク日程死守」の恐怖がトラウマになって、現場のメンタルにも悪影響が出やすくなります。

フローチャートとガントチャート

 このガントチャート問題が示唆するのは「PMでもっとも変動するパラメータは日程なのだから、日程変更をメンテナンスしやすい工程表書式を使うべきだ」ということです。仕事の流れはフローチャートで表現することが普通なのですから、PMの工程表もフローチャートで表現すればよいと思います。タスクボックスの余白に所定日数、開始実績、終了実績など必要事項を書き込めば、工程表として十分に機能します。

 プロPMの世界ではフローチャートのことをプレシデンス・ダイアグラム(Precedence Diagram)やアロー・ダイアグラム(Arrow Diagram)と呼んで、プロジェクト工程の設計と最適化のためのツールと位置付けているようです。しかし、素人PMの世界であれば、工程設計から進捗管理までフローチャート1枚で済ませるほうが簡単だし、全体の俯瞰も容易だと思います。

バックキャスト工程表の書き方

 日常生活でも「10時の電車に乗るためには、9時50分には駅に着いて、そのためには9時30分には家を出よう」という具合に逆算(バックキャスト)します。工程表も同じように最終成果物から逆算してタスクを書き出すと、漏れや無駄がなくなります。

  1. まず、Deliverables(手段)でリストアップした項目を参考に最終タスクを紙の右端に書き出します。

  2. 次に、最終タスクに先立って完了しておくべきタスクを書き出します。さらにそのタスクに先立つべきタスクは、・・という具合に時間を遡りながらタスクを書き出していきます。

  3. 逆算式にタスクを書き出し終わると、今度はスタートから時間順に「AとBが完了したら確かにCに着手できる」ことを確認します。

  4. 各タスクごとの担当者を決めて、所要日程の見積もりを記入します。このとき各タスクではバッファを取らずにベストエフォートの所要日程を記入します。

  5. 最後に工程表の右端にバッファを入れます。何も経験値がない時は正味工程期間の半分を共有バッファとして置いておきます。つまり約束工程=正味工程×1.5となります。

バッファ付き工程表

 「想定外のことが必ず起きる」環境ではバッファは必須です。普通は、プロジェクト・メンバー各人が自分のタスク日程を見積もるときに、密かに自分用のバッファを隠し持っています。つまり「ベストエフォート+マイ・バッファ」を所要日程として申告することが習慣になっています。このマイ・バッファを全部かき集めて全体工程の後ろに持っていくだけですから、原理的にはバッファを設定しても納期は遅くなりません。 

工程表を作るときの質問

  • その前にやることは何ですか?

  • ほんとうにそれだけですか?

  • 〇〇したら、✕✕できるんですね?

  • 工程表が完成したら、もう一度、左端から順番に「〇〇したら、✕✕できるんですね?」を繰り返して漏れがないか確認する。

工程表をレビューする時の質問

皆で工程表を眺めながら

  • 気がかりなことは何ですか?

  • なぜそう思いますか?

  • この(気がかりの)原因を解消するうまい方法はありませんか?

  • その解消策をやるメリットは何ですか?

  • これら(解消策)はやろうと思えばやれますか?

  • これら(メリット)が全部できるなら、先程の解消策をやる価値があると思いますか?

進捗のマネジメント

 プロジェクト開始後はタスクごとに「あと何日でそのタスクが終わるか?」聞けば、ベストエフォートにたいして何日遅れているかわかります。タスク日程はベストエフォートで見積もっているのですから遅れるのが普通です。けれども、その遅れが右端に置いた共有バッファから溢れ出ない限りプロジェクトは約束より早く完了します。共有バッファの消費具合をつねに全員で共有することで「共有バッファを大切にしよう」というチームワークが生まれます。

 タスクが遅れるおもな原因は二つあります。

  1. タスク担当に別の仕事が割り込んでいて着手できない、あるいは、複数の仕事を同時にやろうとしている。関係者が話し合って、担当がひとつずつ順番に片付けられるよう、着手順位を調整する必要があります。

  2. 想定外のトラブルが起きた。自力解決に執着しないで、どんな支援を求めるべきかという選択肢を創出することが早期解決につながります。非常時ですから、上司による政治的な解決や妥協も重要な選択肢です。

先読みのための質問

  • (タスク完了まで)あと何日ですか?

  • 問題があるとしたら何ですか?

  • 何か助けられることはないですか?

「問題はないか?」と聞くと、その質問の仕方そのものが「問題は無いと言え」というプレッシャーになってしまう。先手管理のためには「問題歓迎」の心意気で、積極的に問題を探す姿勢が大切になる。

 「助けられることはないか?」という質問をするのは勇気がいります。できない相談をされても困る。しかし、何に困っているかを知らずに解決はできません。
 また、問題を全部解決する必要もありません。それは私たちの日常をふりかえれば明らかです。問題とは「あって欲しい姿」と「現実の姿」の差異です。私たちを取り巻く全てが、理想の姿になっているわけではない。むしろ問題だらけです。けれども、それで日々の暮らしに困るわけではない。
 ただし、全部眺めてみないと大切な問題がどれかわからない。だから、できるだけ問題を広く眺める必要はあります。

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