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【プチ研究】 組織のなかのシニア (4) 生理的変化

諸説の要約

  • 環境変化(おもにポストオフ)で自身の働き方に変革が求められる。

  • しかし、加齢によって変化適応力が低下し、頑なになる。でも、言語力や思考力は低下しない。だから頑固だが弁がたつ厄介者になる

  • そのうえ、意見してくれる先輩がいない。

  • 意見してくれる年下の上司がいたとしても、見下しているから言うことを聞かない(逆エイジズム)。その結果、フィードバックを受け付けない無敵の厄介者になる。

  • しかし労働意欲はあるので、行き場をなくした労働意欲がさまざまな問題行動を引き起こす。

 結局、序列の混乱・労働観の混乱・生理的変化という三重苦の中で、シニアは「フィードバックの欠乏」によって疎外され、ひとりで苦しみ続けることになる。職場はシニアの三重苦に配慮しつつ、フィードバックの質を改善する必要がある。

加齢による生理的変化

資料(11): シニアの「心の高齢化」をいかに防ぐか(竹内規彦、ハーバード・ビジネス・レビュー日本版、2019/4月号)

 シニアは、70代ころまで語彙力・説明力・思考力を維持するが、変化適応力や情報処理の俊敏性が20代に比較して1〜2割低下する。さらに、30才ころを境にモチベーションの質が変化する。若いうちは「新たな情報や知識を得ること」を優先するが、年をとるにつれ「自身の感情を安定させること」を優先するようになる。だから人的ネットワークや対話姿勢が若い頃より閉鎖的になる。

 シニアは「変化適応力が低下し、頑なになる」けれども言語力や思考力は低下しない。つまり頑固だけれど弁がたつ、厄介者になりがちだ。

シニアの労働意欲は若者より高い

 資料(11)によると、主観的な労働意欲は「活力」「熱心さ」「没頭」を指標化したユトレヒト・ワークエンゲージメントで測られる。2018年に、日本企業の18〜75才までの6800人を調査した結果によると、18〜30才に対して、61〜75才は1〜2割上昇している。加齢によって労働意欲が低下するというのは誤解だ。

 ただし、職業的未来展望がワークエンゲージメントを大きく左右することもわかっている。未来展望とは、人生の中でこれから先にどの程度「機会」と「時間」があるかに関する自己の主観的評価を指標化したものだ。

  • 未来展望の良し悪しは、ワークエンゲージメントに若年層で7割程度、高齢層で3割程度のバラツキをもたらす。高齢者のバラツキは小さい。

  • そのうえ、未来展望の下位20%同士の比較でも、高齢層のワークエンゲージメントは若年層より4割も高い。

 たしかに高齢者の未来展望は悪化しがちだが、それを考慮しても、年とともに労働意欲は高まる。にも関わらず、「働かないオジサン」が問題となるのはなぜか?

解釈1: 労働意欲の低い「働かないオジサン」は少数派だ

 ということは大多数は「働くオジサン」であり、労働意欲も高いことになる。しかし、(1)そのような高齢者の二極化が存在しているならば、既存の調査研究が見逃すはずがない。(2)統計調査が見逃すほど少数ならば、「働かないオジサン」がこれほどニュースやビジネス書で取り上げられるはずがない。

解釈2: 労働意欲が空回りしている

 であれば「働かないオジサン」も含めて、シニアの労働意欲は若年層より高いと考えるしかない。ならば、 労働意欲が空振りしてパフォーマンスにむすびつかないメカニズムがあるはずだ。

 ねんのためつけくわえておくと、資料(3)で労働意欲の低下が報告されているが、「ポストオフ前よりは低下している」と回答しているにすぎない。資料(11)によれば、それでも若い頃より労働意欲は高いはずだ。

無敵だから空回りする

 労働意欲が空回りしてパフォーマンスに結びつかないことは、年齢によらず起こるはずだ。ただし、若年層のパフォーマンスの悪さや問題行動は、上司や先輩からの頻繁なフィードバックで軌道修正される。ところが、高齢者に先輩はおらず、年下の上司からは遠慮がちなフィードバックしか来ない。つまり、労働意欲が空回りするのは、フィードバックの欠乏が原因だ。その結果、高齢者の低パフォーマンスと問題行動だけが目立つ。

どうやって労働意欲を維持しているのか?

 いくら無敵とはいえ「働かないオジサン」はどうやって労働意欲を維持しているのだろうか。可能性は2つある。単純に、自身のパフォーマンスの低さや問題行動に自覚がないという場合もあるだろう。しかし、うすうす自覚しているのだが、他責や自責に転嫁することで、主観的な労働意欲を維持している場合も多いのではないか。つまり「俺はやる気があるのだけれど、みんな俺の上手な使い方をわかっていないんだよな」と考える。それがかえって、職場でのわがままや無気力に現れる。
 とはいえ、シニアは序列の混乱・労働観の混乱・生理的変化という三重苦の中で苦闘しているのであり、わがままや無気力も身を守るための適応行動といえなくもない。

 組織人を組織に結びつける絆とは具体的にはフィードバックだ。ところがシニアの三重苦がシニアを孤立させるので、フィードバックによる軌道修正はますます困難になる。職場はシニアの苦しみに配慮しつつフィードバックを改善する必要がある。

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