漱石と「小日向」その2

さて、小日向に養源寺はないが「本法寺(ほんぽうじ)」がある。真宗大谷派(しんしゅうおおたには)に属する高源山随自意院と云う浄土真宗の寺だ。

『当寺は、夏目漱石ゆかりの寺としても知られています。夏目家累代の菩提寺であるとともに、漱石の作品には、当寺がモデルであるかと思われる「養源寺」が登場します。』と本法寺のホームページに紹介がある。

また、件の養源寺のホームページには「坊っちゃん」の手書き原稿写真が掲載されていいる。
そこには「小石川」の養源寺と書かれていて、「小石川」に二重線をしてその右隣りに「小日向」と書き直してあった。

小石川である。

英文学者の武田勝彦は著書『漱石の東京』の中で『本法寺の名をさけ駒込千駄木林町の養源寺の名を借りたのはフィクションに仕立てるための操作に他ならない』と記している。
小説「坊っちゃん」はフィクションだ。わかりきっている。フィクションだから登場する地名、団体が必ずしも実在するものである必要はない。
小日向に夏目家の菩提寺があるからといって、養源寺とこれを徒に結び付けたり、「小日向」の前は「小石川」だとか、いちいち詮索するのは野暮なこと。皮相浅薄牽強附会と云わざるを得ない、無粋である。

そうはいっても、野暮だろうが何だろうが気になるものは気になる。フィクションなのは重々承知の上、野暮で無粋な私などは、一体漱石は何を思い「千駄木」の養源寺を「小石川」とし、何を考え「小日向」と変えたのか思いを馳せるのだ。

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