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知っておきたい!ステージ別胃がん生存率と日本の最新治療事情

要旨

胃がんは日本で依然として重要な健康課題となっており、その予後は病期によって大きく異なります。本コラムでは、胃がんの各ステージにおける5年生存率に焦点を当て、なぜ病期が生存に影響を与えるのかを詳しく解説しています。さらに、日本が誇る先進的な内視鏡治療や外科手術の進歩、充実したがん検診制度がどのように生存率向上に寄与しているのかを紹介。また、今後期待される個別化医療や新しい治療法の開発についても触れ、患者支援体制の重要性についても述べています。早期発見のメリットや定期検診のタイミングについても具体的なアドバイスを提供し、読者が自身の健康管理に役立てられる情報を満載。胃がんに関心のあるすべての方にとって、見逃せない内容となっています。詳細なデータと最新の医療情報を通じて、胃がん対策の現状と未来を一緒に学びましょう。

1. はじめに
 日本において「胃がん」は、比較的発症頻度の高いがんの一つとされています。食生活の欧米化や、高齢化の進行にともない、胃がんの患者数は長期的には減少傾向にあるものの、依然として大きな健康上の課題であることは変わりありません。また、近年は早期発見のための胃内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)やバリウム検査の普及により、初期段階での発見率が高まってきました。早期発見・治療の進歩によって胃がんの死亡率も緩やかに減少している一方、進行した状態で見つかるケースも少なくありません。

 本コラムでは、日本における胃がんのステージ(病期)別の5年生存率に焦点を当て、なぜステージによって予後が変わるのか、また早期診断と治療がいかに重要かを解説します。さらに、胃がん治療における最新の動向や、実際に取り組むべき定期検診の意義などについてもご紹介します。一般の読者の方がイメージしやすいよう、できるだけ専門用語はやさしく解説しますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

2. 胃がんとステージ(病期)の基本

2-1. 胃がんとは

 胃がんは、その名の通り「胃」に発生する悪性腫瘍です。主に胃の粘膜上皮から発生する腺がんがほとんどを占めています。胃がんは他の消化器がんと比べても歴史的に早期診断の技術が確立してきたがん種であり、内視鏡を使った検査や治療が長足の進歩を遂げています。近年は、ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)の感染予防や除菌治療が進んでいることもあって、発症リスクを下げる取り組みが徐々に浸透してきました。しかしながら、食習慣や飲酒・喫煙、加齢などさまざまなリスクファクターにより、誰にでも罹患の可能性がある病気です。

2-2. ステージ(病期)とは

 一般にがんの進行度合いは「ステージ(病期)」という区分で示されます。胃がんの場合は「Stage I(ステージI)」から「Stage IV(ステージIV)」までの4段階に分類され、数字が大きくなるほど病変が進んでいることを意味します。これは、以下の要素を総合して判断されます。
• T(Tumor):胃壁のどこまでがんが浸潤しているか
• N(Node):リンパ節への転移の有無・範囲
• M(Metastasis):遠隔臓器(肝臓・肺・脳など)への転移の有無

 上記要素を組み合わせたTNM分類に基づいて、ステージI、II、III、IVのいずれかが割り振られます。ステージI〜IIあたりは「早期から比較的進行した段階」、ステージIIIは「局所的にも進行している段階」、ステージIVは「遠隔転移が認められる段階」というイメージを持っていただくとわかりやすいでしょう。

3. 日本における胃がん治療の特徴と進歩

3-1. 内視鏡治療の進化

 日本は胃がんの早期発見や内視鏡治療が非常に進んでいることで知られています。特に、病変が粘膜内にとどまる「早期胃がん(ステージIの一部)」に対しては、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が広く行われるようになりました。これらは、体への負担を極力小さくしながらがん部位を切除できる方法です。結果として、早期ステージであれば外科手術を行わずとも、内視鏡のみで根治が期待できる場合があり、高い治療効果を生み出しています。

3-2. 外科手術・周術期治療の充実

 進行した胃がんに対しては、従来の開腹手術に加え、腹腔鏡手術やロボット支援手術などの低侵襲な手術も行われるようになりました。さらに、再発予防のための補助化学療法(術後化学療法)も確立され、患者さんの生活の質(QOL)を維持しながら生存率を高める取り組みが進んでいます。とくにステージIIやIIIでの手術後には化学療法を行うことで、再発リスクを低減し、生存率向上に寄与していると報告されています[1-3]。

3-3. がん検診制度の充実

 日本では、自治体や職場が中心となって実施する「がん検診」の制度が比較的整っており、希望すれば比較的安価または無料で胃のバリウム検査や内視鏡検査を受けられるケースが多くあります。こうした背景から、早期段階で胃がんが発見される例が増え、高い5年生存率につながっていると考えられます。

4. ステージ別の5年生存率と解説

 本題である日本における胃がんのステージ別5年生存率について、論文データ[1-3]をもとに詳しく見ていきましょう。ただし、以下に示す数値はあくまで大規模な統計結果や研究を踏まえた目安であり、個々の患者さんの状態や治療方針、合併症の有無などにより変動があります。その点を念頭においてご覧ください。

4-1. ステージI
• Stage IA
• 5年生存率:91.5% [1], 92.2% [2], 91.8% [3]
• 特徴・解説:胃の粘膜にごく局所的にがんが存在するため、内視鏡治療や外科手術のみで完治が見込まれるケースが多く、非常に高い生存率を示します。日本の内視鏡技術と検診制度が生み出す大きな成果と言えるでしょう。また、早期であれば術後の負担も軽減されるため、体力面・生活面での回復も早い傾向があります。
• Stage IB
• 5年生存率:83.6% [1], 84.7% [2], 85.1% [3]
• 特徴・解説:Stage IAよりは進行していますが、まだリンパ節への転移が少なく、治療の選択肢も広い段階です。外科手術や内視鏡治療に加え、必要に応じて術後の補助化学療法が考慮される場合もあります。依然として高い生存率を保っており、早期発見の重要性を改めて示すステージといえます。

4-2. ステージII
• 5年生存率:70.6% [1], 70.0% [2], 73.1% [3]
• 特徴・解説:ステージIIになると、がんが胃壁の深い部分やリンパ節に一定程度広がっていることが多くなります。治療としては、外科手術がメインとなり、術後の補助化学療法を行うケースが増えます。Stage Iよりも生存率は下がるものの、それでも約70%前後の5年生存率を示し、適切な治療を受けることで多くの患者さんが長期生存を期待できる段階です。

4-3. ステージIII

 ステージIIIは、さらに細かくIIIA、IIIBに分かれます。総じてがんの局所進行度が大きく、リンパ節転移も広範にみられる場合が多いです。術後に化学療法を実施しても再発リスクが高い点が課題となります。
• Stage IIIA
• 5年生存率:53.6% [1], 46.8% [2], 51.0% [3]
• 特徴・解説:胃壁やリンパ節への浸潤が深く、周辺臓器との癒着などが見られるケースもあります。手術は大がかりになる場合が多く、患者さんの体力や合併症リスクに応じた慎重な治療計画が求められます。
• Stage IIIB
• 5年生存率:34.8% [1], 28.8% [2], 33.4% [3]
• 特徴・解説:より進行した局所浸潤、リンパ節転移が顕著となるため、治療のハードルがさらに上がります。集学的治療(手術+化学療法+放射線療法など)を組み合わせて行いますが、それでも再発率は高く、生存率が下がるステージです。

4-4. ステージIV
• 5年生存率:16.4% [1], 15.3% [2], 15.8% [3]
• 特徴・解説:ステージIVは、遠隔臓器(肝臓や肺など)への転移が確認されている状態です。根治的な手術が難しいケースが多く、化学療法や免疫療法、緩和ケアなどが中心となります。ステージIとの生存率の差が非常に大きく、早期発見の重要性が最も強調されるステージです。しかしながら、近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新薬が登場しており、適切な患者さんにこれらを使用することで生存期間延長が期待できる場合もあります。

5. 早期発見・定期検診の大切さ

5-1. 症状が出る前に発見するメリット

 胃がんは初期段階では自覚症状に乏しく、無症状のまま進行するケースも少なくありません。典型的には「胃もたれ」「胸やけ」「食欲不振」などの症状が挙げられますが、風邪や胃炎などでも起こりうるものであり、はっきりとしたサインとは言えません。したがって、症状がはっきり出てから病院を受診すると、すでにステージが進んでいる可能性が高くなります。
 定期的に内視鏡検査(もしくはバリウム検査)を受けることで、症状がない段階での早期発見につながり、結果としてステージIやIIでの診断率が高まるのです。これは先述したように、5年生存率を大きく向上させる鍵となります。

5-2. 胃がん検診を受けるタイミング

 一般的には40歳以上になると、がん検診の受診機会が増えます。市区町村や職場健診でも胃がん検診が行われることが多いため、積極的に受けましょう。また、家族に胃がんの既往がある場合や、ピロリ菌感染を指摘されている場合は、年齢に関わらず医師と相談のうえ検査を受けるタイミングを早めることも検討すべきです。自費検診も選択肢の一つですが、費用補助や健康保険組合の補助など、利用できる制度があるか確認してみるのもよいでしょう。

6. 胃がん治療・医療のこれから

6-1. 個別化医療の進展

 がん医療の世界では、遺伝子レベルで患者さんのがん細胞の特徴を調べ、最適な治療を選択する「個別化医療(プレシジョン・メディシン)」が注目を集めています。胃がんにおいても、遺伝子異常やバイオマーカーを用いた治療選択が少しずつ広がってきており、これまで効かなかった薬が特定の患者さんには有効であるといった事例が報告されています。

6-2. 新しい治療法の開発

 進行・再発胃がんに対しては、従来からの化学療法に加え、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などが導入されるようになりました。これらの新薬は、「がん細胞が増殖する仕組み」や「免疫細胞との相互作用」を標的とするため、副作用のプロファイルや効果が従来薬とは異なります。治療の選択肢が増える一方で、副作用のマネジメントや薬剤費の問題など、新たな課題も生じています。

6-3. 患者支援体制の充実

 治療技術の進歩だけでなく、患者さんを総合的に支援する体制づくりも進んでいます。栄養管理や口腔ケア、リハビリテーションなど、チーム医療として多職種が連携することで、患者さんの生活の質を高めながら治療を継続できる環境が整えられつつあります。また、がん患者を対象とした相談支援センターや患者会なども充実してきており、情報交換やメンタル面のサポートを受けやすくなっています。

7. まとめ
 本コラムでは、日本における胃がんのステージ別5年生存率と、その背景にある治療の進歩や検診制度の意義について解説しました。ステージI(特にIA)では90%以上という非常に高い5年生存率が示される一方で、ステージIVになると約15%程度にまで低下します[1-3]。このように、病期の進行にともなって生存率は大きく変わるため、いかに早期発見・早期治療が大切かが明確にわかります。

 日本独自の強みとしては、内視鏡治療の充実や公的な検診制度の普及が挙げられ、これが世界的に見ても高水準の胃がん治療成績につながってきました。また、手術方法や化学療法の進歩により、進行した胃がんでも治療の可能性が広がっているのは大きな希望といえます。一方で、ステージIII後半やIVとなると再発率が高く、根治治療が難しい症例も多くなるのが現状です。

 今後は、より一人ひとりの患者さんに合わせた個別化医療の推進や、新しい治療薬の開発・普及が期待されています。こうした進歩を最大限に活かすためにも、定期検診をはじめとする予防・早期発見の取り組みは欠かせません。特に「自覚症状がないから大丈夫」と先延ばしにしてしまうと、手遅れになるリスクが高まります。会社や自治体が提供する機会を逃さず、積極的に検診を受けるよう心がけましょう。

 最後に、本コラムを通じて胃がんのステージ別5年生存率の重要性や、現代の胃がん医療の全体像をご理解いただけたら幸いです。仮に、不安な症状があったり、リスク要因をお持ちだったりする場合は、ぜひ専門の医療機関で相談してみてください。みなさん一人ひとりが早期発見・適切な治療を受けられるよう、情報収集を続けながら行動に移していただければと思います。


引用文献
1. Katai, H. et al. “Five-year survival analysis of surgically resected gastric cancer cases in Japan: a retrospective analysis of more than 100,000 patients from the nationwide registry of the Japanese Gastric Cancer Association (2001–2007).” Gastric Cancer, 2017. https://doi.org/10.1007/s10120-017-0716-7
2. Nashimoto, A. et al. “Gastric cancer treated in 2002 in Japan: 2009 annual report of the JGCA nationwide registry.” Gastric Cancer, 2012. https://doi.org/10.1007/s10120-012-0163-4
3. Isobe, Y. et al. “Gastric cancer treatment in Japan: 2008 annual report of the JGCA nationwide registry.” Gastric Cancer, 2011. https://doi.org/10.1007/s10120-011-0085-6

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