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40代から始める大腸がん予防:リスク別の内視鏡検査の間隔は?

要旨

大腸がんは日本で主要な死亡原因の一つですが、定期的な内視鏡検査によってリスクを大幅に減らすことが可能です。特に40代前後での検査が注目されており、ポリープの有無によって次回検査のタイミングが異なります。本コラムでは、ポリープが見つかった場合と見つからなかった場合の適切な検査間隔について詳しく解説。また、生活習慣や家族歴がリスクに与える影響、最新の研究結果を踏まえた検査の重要性についても紹介します。早期発見・早期対策の重要性を理解し、健康管理に役立てましょう。詳細はぜひ本編をご覧ください。

1. はじめに

大腸がんは日本人のがん死亡原因の上位を占める疾患のひとつであり、近年では生活習慣の変化や高齢化に伴って罹患率が増加しています。しかし、定期的に内視鏡検査を行い、ポリープなどの前がん病変を早期に発見・切除することで、大腸がんのリスクを大幅に下げられる可能性があります[1]。実際、大規模なランダム化比較試験によると、適切なスクリーニングの実施によって大腸がんの発症リスクや死亡リスクを有意に減らせることが報告されています。

では、どのタイミングで大腸内視鏡検査を受けるべきなのでしょうか。日本では50歳を過ぎたら検査を始めることが推奨されるケースが多いですが、生活習慣病の若年化などにより「40代前後で初めて大腸内視鏡を受ける」という方も増えています。そこで本コラムでは、40歳前後で大腸内視鏡検査を受けた結果、もしポリープが見つかった場合と見つからなかった場合、それぞれどのぐらいの間隔で次回検査を受けるべきかを解説します。

また、大腸ポリープのリスクを高める要因や、検査品質(ドクターのポリープ発見率など)がどのようにその後のリスクに影響するのかについても、最新の研究結果を交えながらお伝えします。大腸がんは早期であれば治療予後の良いがんのひとつですので、ぜひこの機会に知識を深めていただき、日々の健康管理に活かしていただければ幸いです。


2. 大腸ポリープとは?

2-1. ポリープの概要

大腸ポリープとは、大腸の粘膜にできる隆起性病変の総称です。一般に「大腸ポリープ」と呼ばれるものには、良性のものから将来的にがん化リスクのある腺腫(せんしゅ)まで、多様な種類があります。とくに「腺腫性ポリープ」と呼ばれるタイプのポリープは、大きさや組織型によっては大腸がんへと進展する可能性があるため注意が必要です[2]。

2-2. なぜポリープが見つかった人は要注意なのか

腺腫性ポリープ(adenoma)は、がん化リスクが高い前がん病変の代表例とされています。切除しても再発することがあり、複数個存在する場合や大きなものがある場合は、再発リスクや見落としリスクがさらに高まります。とくに3個以上のポリープが同時に見つかった場合や、内視鏡検査の準備不十分(腸内がきれいに洗浄されていない)・切除の不完全さなどが重なると、大腸がんへのリスクが増大する可能性が指摘されています[2][3]。
したがって、ポリープが見つかった人は一定期間ごとに内視鏡検査を行い、再発や新たなポリープの有無を確認することが推奨されています。


3. ポリープが見つかった場合:どんな間隔で検査を受ける?

3-1. ポリープ切除後の基本的な目安

一般的に、大腸ポリープが発見・切除された場合、次回の検査は3~5年後を目安とするように推奨されることが多いです[2]。これは、腺腫性ポリープが存在していたという事実自体が、大腸がん発症リスクを高める要因となるためです。さらに、ポリープのサイズが大きい場合(1cm以上など)や、病理検査で高級型の腺腫(高度異型性を伴う腺腫、絨毛状腺腫など)が確認された場合は、がん化のリスクが高まるため、より短い間隔(1年後など)で再検査を行うことがあります。

3-2. リスクを高める要因

  • 不完全切除
    ポリープを完全に切除できず、一部が残ってしまうと再発のリスクは上昇します[2]。

  • 複数ポリープの存在
    同時に3つ以上見つかった場合などは、その後も新たな病変が見つかる可能性が高いとされます[2][3]。

  • 内視鏡検査の品質
    担当医のポリープ発見率が低い場合(検査時間が短いなど)は、見落としポリープの存在により、検査後数年以内に大腸がんが発見されるリスク(PCCRC: Post-Colonoscopy Colorectal Cancer)が高まります[3]。

  • 家族歴や生活習慣
    親族に大腸がん患者がいる場合や、喫煙、飲酒、肥満などの生活習慣もリスク要因となります。

3-3. 実際の推奨される検査間隔と最新知見

  • ポリープが1~2個、小さくて病理的に軽度の場合:3~5年後の検査

  • ポリープが複数、大きいサイズ、病理所見で高度異型性がある場合:1~3年後の検査

  • 家族歴や遺伝的リスクが高い場合:より短期間(1~2年後など)での再検査も検討

これらはあくまで一例であり、担当医師が患者さんのリスク要因や検査結果を総合的に判断して決定します。

さらに、日本における大規模前向き研究(Japan Polyp Study Workgroup)では、二度にわたるベースラインの大腸内視鏡検査でポリープを徹底的に切除し、その後のフォローアップ検査を「1年目と3年目」および「3年目のみ」の2群に分けて比較した結果、3年目のみのフォローアップでも高度異型性などの進行病変(AN: advanced neoplasia)を十分に検出できたという報告があります[11]。この研究では、40〜69歳を対象に行われ、1年目のフォローアップ検査を省略しても3年目で見逃しの少ない結果が得られたことが示唆されました。ただし、これは「ベースライン検査をしっかり2回受けている」「ポリープが完全に切除されている」などの条件が整った場合の話であり、実臨床では患者ごとのリスクプロファイルを考慮した上で判断が必要です。


4. ポリープが見つからなかった場合:どんな間隔で検査を受ける?

4-1. 一般的な推奨は「5~10年」

大腸内視鏡検査を受けてポリープが一切見つからなかった場合、標準的には「5年から10年に一度の検査」が推奨されることが多いです[1]。たとえば、欧米のガイドラインでは50歳から10年おきに大腸内視鏡検査を受けるという方針が示されており、日本でも同様の考え方が広がっています。ただし、食習慣や喫煙・飲酒の有無、家族歴などにより発症リスクは大きく異なるため、医師と相談の上で検査間隔を決めることが大切です。

4-2. 40代前後の検査の意義

従来は50歳以降での定期検査が一般的とされてきましたが、近年では若年層における大腸がんリスクも無視できなくなっています。また40代でポリープがなかったからといって、その後ずっと安心というわけではありません。食習慣が欧米化している日本では、年齢が若くてもリスクが徐々に高まっていく傾向があると指摘されています[1][4]。便潜血検査など、他の検査で異常が出た場合には、5年を待たずに再度内視鏡検査を行うことが望ましいケースもあります。

4-3. 家族歴や遺伝的リスク要因

親や兄弟姉妹が大腸がんに罹患している場合、平均リスクの人よりも若い年齢から検査を開始するべきと考えられています。たとえば「家族が50歳で大腸がんと診断された場合、その10歳前から検査を始める」など、早期開始が推奨されることがあります[3]。


5. ライフスタイルと大腸内視鏡検査

5-1. 生活習慣が検査間隔を左右する

大腸がんは生活習慣との関連が深いがんの一つです。以下の要因が大腸がんリスクを高めるといわれています。

  1. 食生活:高脂肪・低食物繊維の食事、野菜や果物の摂取不足

  2. 肥満:BMIが高い人ほど大腸がんのリスクが上がる可能性

  3. 喫煙・飲酒:とくに多量飲酒・長期喫煙はリスク増

  4. 運動不足:適度な運動は腸内環境を整え、がんリスク低減に寄与

こうしたリスク要因を複数抱えている場合は、ポリープが見つからなかったとしても、より短いスパンでの定期検査が検討されることがあります[2][3]。

5-2. 他の検査との組み合わせ

大腸内視鏡検査以外に、便潜血検査や血液検査といったスクリーニング方法もあります。便潜血検査はコストや手間の面で優れており、ポリープやがんなどからの微小な出血を捉えられる可能性があります。ただし陰性であっても完全にリスクがゼロとは言えず、見落としにつながるケースも指摘されています[1][3]。よって、便潜血検査で陰性でも症状がある場合や家族歴がある場合などは、内視鏡検査を検討する意義が大きいと言えます。


6. 大切なのは「早期発見・早期対策」

大腸ポリープが見つかった場合でも、早期に切除して定期的にフォローアップ検査を受ければ、大腸がんへの進展を高い確率で防ぐことができます。逆に言えば、ポリープの存在に気づかないまま放置したり、検査の間隔が長すぎたりすると、リスクが高まってしまう点に注意が必要です[2][3]。

また、40代前後で内視鏡検査を受けてポリープがなかった方でも、その後の生活習慣次第では新たにポリープができることがあります。定期的な検査や、家族歴などのリスク要因を踏まえた適切なスクリーニングは、生涯を通じて「自分を守る投資」であると考えてください。

大腸がんは罹患数が多い一方、早期発見による治療効果が高いがんでもあります。痛みを伴う進行がんになる前に、あるいはポリープの段階で発見して切除することが最大の予防策です。検査そのものに対して不安や抵抗感を抱く方も少なくないですが、鎮静剤の使用や内視鏡技術の進歩により、以前に比べて格段に負担が軽減されています[6][7]。


7. おわりに

7-1. 結論とまとめ

  • ポリープが見つかった場合:基本は3~5年ごとの内視鏡検査。ただし、ポリープの数や大きさ、組織型、切除の完全性、家族歴などによっては1~3年での再検査が勧められることもある[2][3]。

    • 特に二度のベースライン検査で全てのポリープを徹底的に切除している場合などは、3年後のみのフォローアップでも進行病変を見逃さないという報告もある[11]。

  • ポリープが見つからなかった場合:概ね5~10年の間隔で検査。ただし、年齢やリスク要因次第で柔軟な対応が必要[1][2]。

  • ライフスタイルの見直し:食生活の改善、適度な運動、禁煙、節酒といった基本的な生活習慣の管理が、ポリープや大腸がんリスクの低減に寄与する。

特に40代前後で初めて内視鏡検査を受けた場合、「まだ若いから大丈夫」と油断せずに、医師の指示や自分自身のライフスタイルを考慮しながら、適切な検査間隔を維持していくことが重要です。

7-2. 今後の健康管理へのヒント

  1. ポリープの有無をしっかり把握:もし切除していないポリープがある場合や不完全切除の可能性が示唆されている場合、早めの再検査を忘れないこと。

  2. 家族歴や症状の変化に注意:家族の病歴や自分の体調変化(便通の異常、下血、腹痛など)を見逃さない。

  3. 信頼できる検査施設を選ぶ:できれば実績豊富な医療機関、AI支援システムの導入などでポリープ検出率の高いところを選択すると安心感が高まる[5][6][7][8]。

  4. 生活習慣を改善してリスクを下げる:検査間隔を延ばせる可能性が高まるだけでなく、他の生活習慣病やがん予防にもつながる。

大腸がんは、がんの中でも比較的“予防しやすい”部類といわれています。ポリープという前がん病変を早期で切除するチャンスがあるからです。ぜひ定期的な検査と日頃の健康的なライフスタイルを心がけて、ご自身の体を守っていきましょう。


引用文献

[1] Bretthauer, M. et al. “Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death.” The New England Journal of Medicine, 2022.
[2] Brenner, H. et al. “Role of Colonoscopy and Polyp Characteristics in Colorectal Cancer After Colonoscopic Polyp Detection.” Annals of Internal Medicine, 2012.
[3] Schwarz, S. et al. “Polyp Detection Rate and Cumulative Incidence of Post‐colonoscopy Colorectal Cancer in Germany.” International Journal of Cancer, 2022.
[4] Le Roy, F. et al. “Frequency of and Risk Factors for the Surgical Resection of Nonmalignant Colorectal Polyps: A Population-based Study.” Endoscopy, 2015.
[5] Barua, I. et al. “Artificial Intelligence for Polyp Detection During Colonoscopy: A Systematic Review and Meta-analysis.” Endoscopy, 2020.
[6] Wallace, M. et al. “Impact of Artificial Intelligence on Miss Rate of Colorectal Neoplasia.” Gastroenterology, 2022.
[7] Leufkens, A. M. et al. “Factors Influencing the Miss Rate of Polyps in a Back-to-back Colonoscopy Study.” Endoscopy, 2012.
[8] Wang, P. et al. “Real-time Automatic Detection System Increases Colonoscopic Polyp and Adenoma Detection Rates: A Prospective Randomised Controlled Study.” Gut, 2019.
[9] Fajardo, I. et al. “P136 Risk of Polyps and Colorectal Cancer in Patients with Microscopic Colitis: Case-control Study with Long-term Follow-up.” Journal of Crohn’s and Colitis, 2022.
[10] Guo, F. et al. “Colorectal Cancer Risk by Genetic Variants in Populations with and without Colonoscopy History.” JNCI Cancer Spectrum, 2021.
[11] Matsuda, T. et al. “Randomised Comparison of Postpolypectomy Surveillance Intervals Following a Two-Round Baseline Colonoscopy: The Japan Polyp Study Workgroup.” Gut, 2020.

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