
年末年始後の憂鬱感『ポストホリデーブルー』の真相とは?
要旨
年末年始の華やかな休暇を楽しんだ後、多くの人が感じる「ポストホリデーブルー」。なぜ連休が終わると突然気分が沈むのか、その背後に隠された心理や生活習慣の変化について深掘りします。また、仕事復帰時に生じるストレスや職場環境の影響についても考察。さらに、憂鬱な気分を和らげるための実践的なヒントや専門家のアドバイスを交え、誰もが直面するこの現象に対する理解を深めます。新年を前向きにスタートさせるために、ぜひ本編を読んで心の整理とリフレッシュ方法を見つけてください。
1. はじめに
年末年始の休暇は、多くの人にとって一年の中でも特別な時間です。家族や友人との集まりや、いつもより贅沢な食事、新年の目標設定など、日常とは異なる華やかなイベントが続きます。しかし、そのような楽しくにぎやかな期間もあっという間に過ぎ去り、三が日が終わりかける頃になると、不思議と寂しさや憂鬱感を覚える方も少なくありません。「休日がまだ残っているのに、なぜか気分が沈む」「お正月気分を引きずっているはずなのに、気が重い」といった感情を抱くこともあるでしょう。
こうした現象は、英語圏では「Post-Vacation Blues」や「Post-Holiday Depression」と呼ばれることがあります[1]。医学的に正式な診断名ではないものの、休暇明けや長期連休の終わりにしばしば感じる憂鬱症状として、多くの人が経験する一般的な状態だと考えられています。年末年始に限らず、ゴールデンウィークや夏休みなど長めの休暇を取った後にも同じような気分になることがあるでしょう。
本コラムでは、この年末年始の休暇後半に生じやすい憂鬱な気分の背景と、そこに潜む「仕事復帰」や「生活リズムの乱れ」といった要因を探るとともに、気持ちを少しでも楽にするためのヒントを探っていきます。また、「Post-Vacation Blues」に関する学術的な研究結果や、うつ症状が職場復帰に及ぼす影響、長時間労働との関連性など、多角的な知見も取り入れながら話を進めます。
2. どうしてこの時期に気持ちが沈みがちになるのか
2-1. 連休の疲れや生活リズムの乱れ
年末年始は、普段より夜更かしや朝寝坊をしやすい時期です。初詣で深夜に出歩いたり、親戚の集まりで夜遅くまで飲食を楽しんだりと、いつもとは違うライフスタイルになりがちです。一方で、多くの催し物や人付き合いが重なることで、休む暇なくスケジュールが詰まってしまう場合もあります。表面的には「休暇中でリフレッシュしているはず」と思いがちですが、こうした不規則な生活リズムは、体や心に負荷をかける要因となり、連休終盤に「どっと疲れが出る」状態になりやすいのです。
また、休暇という安心感から気を張っていなかった反動も大きいと考えられます。「明日から仕事だ」「そろそろ家事や育児を本格的に頑張らなくては」という意識がよみがえると、気分的に一気にストレスを感じてしまうこともあるでしょう。これが、年始の後半に気分が沈む一因となっています。
2-2. 気持ちの盛り上がりの反動
年末の忘年会やクリスマス、お正月の初詣など、12月から1月にかけては特別感を伴う行事が立て続けにやってきます。この時期、私たちは日常とは異なる高揚感を味わうことが多く、一種の非日常を楽しんでいます。しかし、イベントがひと段落すると、突然日常に引き戻されるような感覚に襲われ、それまでの盛り上がりが大きかったぶんだけ落差を大きく感じる可能性があります。いわば、「お祭りの後の虚しさ」のような感覚です。
特に、「今年はこうありたい」「正月休み中にこれを達成しよう」と高い目標を設定していた人ほど、その反動で自己嫌悪や燃え尽き感に陥りやすくなります。達成できた部分よりも「思ったほどできなかった」「本当はもっと頑張りたかったのに」と否定的に捉えてしまう傾向があり、それが憂鬱な気分を助長します。
2-3. 新年のスタートに対する不安やプレッシャー
年が明けると、多くの人は「新しいスタート」という意識を強く持ちます。新年の抱負を考え、目標を立て、それに向けて行動を起こそうと意気込みます。しかし、「本当にできるのだろうか」「また同じように挫折してしまうのではないか」という不安感や、周囲からの期待に対するプレッシャーが生じ、気持ちが重くなることも少なくありません。
心理学的には、新たなステップを踏み出すときには、期待だけでなく不安や恐怖も同時に生じやすいとされています。このプレッシャーに上手く対処できないと、モチベーションの低下や憂鬱感につながり、さらに長期的な休暇明けであればあるほど、そのギャップを強く感じてしまう場合があります。
3. 「Post-Vacation Blues」と仕事復帰の関係
3-1. 休暇明けの抑うつ症状が生産性に及ぼす影響
仕事に復帰しようとするタイミングに、不安や気分の落ち込みを抱えていると、生産性が低下しやすくなることが多くの研究で示唆されています[1][2][3]。たとえ一時的な憂鬱感であっても、集中力や意欲の低下を招くことで、職場でのパフォーマンスに直結する可能性があります。さらに、この落ち込みが長引けば、休職や再離職のリスクを高める要因となることもあるのです。
実際のところ、「ポストホリデー・ブルー」自体は病名として確立しているわけではないものの、連休明けや長期休暇後に気分が落ち込みやすいという傾向は広く知られています。そこに加えて、年始という「新しいスタート」のプレッシャーが掛かれば、なおさら症状が顕在化しやすくなると考えられます。
3-2. 職場環境の重要性
仕事復帰後の憂鬱感を深刻化させる要因として、職場環境そのものの問題があげられます。業務量や心理的負荷が高いにもかかわらず、上司や同僚からのサポートが得られにくい環境では、うつ症状の発症リスクが高まるとされます[6][7]。一方で、相談しやすい雰囲気や、業務負荷を調整できる体制が整っている職場では、仮に連休明けに気分が沈んだとしても、回復が早い可能性があります。
このように、職場環境は仕事復帰の際のメンタルヘルスに大きな影響を与えるため、会社や上司の配慮はもちろんのこと、同僚同士が互いの状況に目を配り、気軽に声をかけ合う文化を醸成することが重要です。特に、年末年始はさまざまな部署で業務計画が動き出す時期でもあるため、新しい目標やプロジェクトの始動に追われがちです。だからこそ、何か不調を感じたときには早めに相談できる体制づくりが求められます。
3-3. 長時間労働との関連
年始からの繁忙期が続く職場の場合、どうしても長時間労働になりがちという側面もあります。しかし、長時間労働は抑うつ症状や精神的不調のリスクを高めるとする研究は多数存在します[4]。あるメタ分析では、アジアやヨーロッパの特定地域で長時間労働と抑うつ症状の関連が中程度に認められるとされており、これが「ポストホリデー・ブルー」をさらに悪化させる要因になりうると考えられています。
連休明けの時期に業務量が急増するケースは多々ありますが、ここで無理をしてしまうと、体調面だけでなくメンタル面でも大きくバランスを崩す恐れがあります。自分のペースで業務に慣れていき、必要であれば周囲に助けを求めるなど、長時間労働への対策やセルフケアが非常に重要です。
3-4. 認知行動療法などの介入
もし休暇明けの憂鬱症状がひどくなり、仕事への復帰が難しくなった場合には、専門的な治療やサポートを利用することが推奨されます。認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)をベースにした介入プログラムが、うつ症状の緩和や仕事への適応に効果的であると示唆されています[2][5]。このアプローチは、思考パターンや行動パターンを柔軟に変化させることで、より健康的にストレスやプレッシャーと向き合えるようになる手法です。
また、職場復帰後にも支援策がある企業や、産業医や保健師が常駐する職場では、カウンセリングや短時間勤務制度などを活用して、段階的に通常業務へ復帰するケースも増えています。休暇後の憂鬱が長引いていると感じるときには、早めにこうしたサポートにアクセスすることが大切です。
4. 憂鬱な気分を軽くするためのポイント
4-1. 生活リズムを少しずつ整える
連休後半には、徐々に就寝・起床時間を元に戻す準備を始めましょう。朝に短い散歩を取り入れて日光を浴びると、体内時計がリセットされやすくなります。たとえ正月休みの気分を満喫したいと思っても、夜更かしと朝寝坊を繰り返すと仕事始めに大きな負担が生じやすいので注意が必要です。
また、飲みすぎ・食べすぎが続いている場合は、野菜中心の食事や軽めの食事に切り替えるなど、内臓に負担をかけない工夫も必要です。身体の調子を整えることで、心の疲れも少しずつ緩和されるでしょう。
4-2. 休暇後半の「新しい楽しみ」を見つける
三が日が過ぎると、お正月の特別感やイベントは一段落してしまいます。そこで、あえて小さな目標や楽しみを見つけてみましょう。たとえば、積んでおいた本を読む、見たかった映画を自宅で観る、部屋の模様替えをするなど、ハードルの低いものがおすすめです。時間と気力に余裕があれば、新年用のご当地料理に挑戦したり、普段は行かない近所のスポットを散策してみるのもいいでしょう。
ポイントは、「なんとなくダラダラ過ごしてしまい、気づいたら休みが終わっていた」と後悔しないようにすることです。小さな予定をいくつか作っておくことで、漠然とした憂鬱感を緩和する効果が期待できます。
4-3. 情報過多からのリフレッシュ
年始はテレビ番組やSNSが一段とにぎやかになりますが、情報を追いすぎると逆に疲れてしまうことがあります。特に、人々のきらびやかな新年の過ごし方や、目標達成に向けたアクティブな投稿を目にする機会が多いと、自分との比較が増えて憂鬱さを感じる場合があります。そこで、あえてスマホやSNSの使用時間を制限したり、テレビを見る時間を減らしてみるのも一つの手です。
頭をすっきりさせるための時間を確保し、自分が本当にやりたいことや、落ち着けることに目を向けてみてください。場合によってはSNSから一時的に離れ、紙の書籍やアナログな趣味に集中することで、気持ちの切り替えがスムーズにいく場合もあります。
4-4. 年末年始の慌ただしさを「儀式」で切り替える
長期休暇が終わるときには、「何かを終わらせる儀式」を自分なりに用意しておくと気持ちが整理しやすくなります。具体的には、さっと部屋の掃除や片付けをして、華やかだった正月飾りを片づける、あるいはお雑煮やおせち料理などを少し控えめにして、普段の食事に戻す準備を始めるなどです。これにより、「連休モードが終わり、次のステージへ移行する」という意識が生まれ、頭の中の混乱を緩和する効果があります。
5. もし落ち込みが続く場合は
一時的な憂鬱感は、連休中の疲れや年末年始の「お祭りモード」からくる反動と割り切ってしまうのも一つの方法です。しかし、どうしても気分の落ち込みが長引いたり、日常生活や仕事に支障が出るほどつらい場合は、一人で抱え込まず、専門家に相談することを検討してください。うつ病などの疾患が隠れている可能性も否定できませんし、早期対応することで軽減できる症状もあります[2][5]。
また、近年の職場ではメンタルヘルスに関する相談窓口を設けているところも増えています。上司や人事に相談しづらいと感じる場合でも、産業医や社外のカウンセラーなど、第三者的立場の専門家へアクセスする道は開けているかもしれません。遠慮せず、自分の心身の健康を優先し、適切な支援を得るようにしましょう。
6. おわりに
年末年始は、楽しさと忙しさが詰まった特別な期間です。しかし、その非日常感から一転し、「さあ仕事始めだ」「新しい年の抱負を実践しなければ」というプレッシャーが一気に押し寄せてくると、どうしても憂鬱な気分に陥りやすくなります。こうした「ポストホリデー・ブルー」や「ポストバケーション・ブルー」は、長期休暇明けによく見られる一般的な現象であり、医療現場でも広く認知されています[1][2][3]。
とりわけ、長時間労働が常態化しやすい職場環境においては、心身の負担が増し、うつ症状につながるリスクも高まります[4][6][7]。一方で、認知行動療法をはじめとする介入や、上司・同僚からのサポート、柔軟な働き方などが整備されている職場では、症状の悪化を防ぎ、生産性を維持しやすいとの報告もあります[2][5]。
「新しい一年が始まるからこそ、もっと頑張らなきゃ」と思う方も多いでしょうが、自分のペースで心身の調子を整え、無理なくスタートを切ることが大切です。休暇が終わる寂しさや憂鬱感は否定せず、どのように受け止めて行動するかが肝心です。小さな楽しみや生活習慣の見直しを取り入れながら、新たな一年を少しずつ築いていきましょう。
もし休暇明けの気分の落ち込みが続いて「このままでは仕事に行けない」「普段の生活を取り戻せない」と感じる場合には、早めに専門家へ相談し、自分に合った支援を受けることをおすすめします。無理をして症状が悪化すると回復に時間がかかるケースもありますから、まずは一歩踏み出してみてください。
引用文献
Amiri, S. Depression Symptoms Reducing Return to Work: A Meta-analysis of Prospective Studies. International Journal of Occupational Safety and Ergonomics, 2022. https://doi.org/10.1080/10803548.2022.2044640
Corbière, M. et al. Healthy Minds: Group Cognitive-Behavioral Intervention for Sustainable Return to Work After a Sick Leave Due to Depression. Journal of Occupational Rehabilitation, 2021. https://doi.org/10.1007/s10926-021-09991-6
Winter, L. et al. Integration of a Return-to-Work Module in Cognitive Behavioral Therapy in Patients With Major Depressive Disorder and Long-Term Sick Leave—A Feasibility Study. Frontiers in Psychiatry, 2020. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2020.00512
Virtanen, M. et al. Long Working Hours and Depressive Symptoms: Systematic Review and Meta-analysis of Published Studies and Unpublished Individual Participant Data. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 2018; 44(3). https://doi.org/10.5271/sjweh.3712
Wisenthal, A. Case Report: Cognitive Work Hardening for Return-to-Work Following Depression. Frontiers in Psychiatry, 2021. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2021.608496
Theorell, T. et al. A Systematic Review Including Meta-analysis of Work Environment and Depressive Symptoms. BMC Public Health, 2015; 15. https://doi.org/10.1186/s12889-015-1954-4
De Vries, G. et al. Perceived Impeding Factors for Return-to-Work after Long-Term Sickness Absence Due to Major Depressive Disorder: A Concept Mapping Approach. PLoS ONE, 2014; 9. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0085038
いいなと思ったら応援しよう!
