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柿好き必見!過剰摂取で胃石に?知られざるリスクを解説
概要
秋の風物詩として親しまれるオレンジ色の柿。その甘みと豊富な栄養素から「健康に良い果物」として多くの人に愛されていますが、実は柿には知られざるリスクも潜んでいます。本コラムでは、柿の美味しさと共に潜む「柿胃石症」や「フィトベゾアール」といった健康への影響について探ります。ビタミンCや食物繊維が豊富な柿ですが、過剰な摂取が思わぬトラブルを引き起こす可能性があるのです。特に胃腸に不安を抱える方や、胃手術を経験した方は要注意。本記事では、柿がどのようにして胃に影を落とすのか、そのメカニズムやリスク要因を詳しく解説。また、日常生活で柿を安全に楽しむための予防策や、万が一胃の不調を感じた際の対処法についても触れます。美味しい柿を安心して味わうために知っておきたいポイントが満載です。秋の味覚を存分に楽しむために、ぜひ本編をお読みください。
1.柿の美味しさと潜むリスク:柿胃石症・フィトベゾアールとは
1-1.柿は本当に「体に良い」だけの果物なのか?
秋になるとスーパーや八百屋で目を引くオレンジ色の柿。ビタミンCや食物繊維などを豊富に含むため、「健康に良い」「美容にも効果的」といったイメージを持たれる方も多いでしょう。実際、柿は栄養価が高く、免疫力向上や美肌づくり、便秘対策などに有用とされる果物です[10]。ただし、過度の摂取は思わぬトラブルを引き起こすことがあります。その代表的な例が「柿胃石症(かきいせきしょう)」です。
柿胃石症は、柿を大量かつ短期間に食べ続けることで胃の中に大きな“石(塊)”が形成され、腹痛や嘔吐などを引き起こす病気です。胃石全般は「ベゾアール(bezoar)」とも呼ばれ、なかでも植物繊維が原因でできるものを「フィトベゾアール」と言います[1]。柿胃石は、このフィトベゾアールに分類され、柿に含まれるタンニン(渋み成分)や豊富な繊維質が胃酸と結合して固まりやすいことが主な原因とされます[1,4]。
1-2.英語論文が示す「フィトベゾアール」とは
英語文献でも、柿やその他の食物繊維が原因で形成されるベゾアールを総称して「フィトベゾアール」と呼ぶことが一般的です[1,4]。なかでも柿は、タンニンが高濃度に含まれており、胃内で凝集した際に強固な塊を作りやすい点が問題視されています。さらに、柿の繊維質が他の消化されにくい繊維や物質を巻き込み、どんどん巨大化していくリスクも無視できません。
英語論文によれば、こうしたフィトベゾアールは大量摂取のほかに、胃腸手術後の患者さんや胃酸分泌が低下している方、あるいは胃の運動機能が落ちている方などでリスクが上昇することが指摘されています[1]。胃内滞留時間が長くなることで、未消化の柿の繊維がさらに固まりやすくなるのです。
2.柿胃石の形成メカニズムとリスク要因
2-1.なぜ柿が石になるのか? タンニンと繊維質
柿はビタミンやミネラルだけでなく、豊富なタンニンを含むことで知られています。渋柿はもちろん、完熟した甘い柿にもタンニンがゼロになるわけではありません。このタンニンが胃酸と結合すると、粘着性の高い塊を形成しやすくなります。さらに柿の食物繊維がその塊を強固にし、胃や腸内で成長する“核”のような役割を果たすのです[1,2,4]。とくに短期間に3個、4個と立て続けに食べる習慣がある人は要注意といえます。
2-2.胃手術後や胃腸機能低下がある人のリスク
英語論文の報告では、減量手術(バリアトリックサージャリー)などの腹部手術を受けた人々、あるいは加齢や持病で胃酸分泌が低下している人は、とくにベゾアールのリスクが高いとされています[1]。これは、胃の運動機能が低下したり、ピロリック(幽門)機能がうまく働かないなどの理由で、胃の中に食物残渣が停滞しやすくなるためです。柿などの繊維質が多い食品を摂取した際、十分に消化・排出が行われず、結果として胃石に成長しやすくなる可能性が高まります。
また、高齢者やもともと胃腸が弱い方は、胃酸の酸度や胃粘膜の防御機能が落ちている場合があり、さらに水分摂取量が少ないことが要因となって、胃石形成を助長してしまうことが少なくありません[6]。
3.柿胃石症・フィトベゾアールによる症状
3-1.初期症状は曖昧:胸焼けや胃もたれなど
柿胃石(フィトベゾアール)がまだ小さい段階では、はっきりした症状が現れないことが多く、本人も自覚しにくい特徴があります。たとえ症状が出ても以下のような「胃の不調」にとどまることがしばしばです。
胃もたれ
胸焼け
お腹の張り
軽度の食欲不振
これらはいずれも一般的な胃腸トラブルと見分けがつきにくく、「まさか柿を食べすぎただけで石ができているとは思わない」と放置されがちです。
3-2.進行すると現れるはっきりとしたサイン
一方、胃石が大きく成長すると、石が胃や腸を圧迫して強い腹痛や持続的な胃もたれ、吐き気・嘔吐などが生じます。特に胃の出口(幽門)付近に石が詰まると、食べたものが先へ進みにくくなるため、食後すぐに嘔吐を繰り返すケースもあります[3]。こうなると日常生活に支障をきたすほど深刻化し、早期の医療介入が必要になります。
さらに石が腸にまで流れてしまった場合、狭い小腸で詰まりを起こして腸閉塞(イレウス)を招くリスクも否めません[9]。腸閉塞が起こると激しい腹痛や嘔吐、便・ガスが出ないといった症状を伴い、生命を脅かす可能性もあるため緊急手術となるケースがあります。
4.放置するとどうなる? 巨大化した胃石のリスク
4-1.胃や腸を塞ぐ:胃閉塞・腸閉塞
柿胃石をそのまま放置して石が巨大化すると、胃の中で大きな“異物”として機能障害を引き起こすことがあります。また、胃のぜん動運動によって石が腸へ押し出された場合、腸のどこかで詰まってしまい、腸閉塞を引き起こすリスクも決して低くありません[3,9]。腸閉塞は激しい痛みと嘔吐、便通の停止など、いずれも緊急対応を要する重篤な状態です。
4-2.胃粘膜の傷害や潰瘍、穿孔のリスク
大きく成長した胃石が胃粘膜を長時間にわたって圧迫・摩擦すると、胃内壁に炎症が起きたり潰瘍が形成される恐れがあります。柿胃石の表面が凹凸の場合、粘膜に強い刺激を与えて出血を伴うケースもあり、さらに潰瘍が深く進行すると胃穿孔(胃に穴が開くこと)を引き起こす可能性すらあります。胃穿孔は腹膜炎などを併発して重症化しやすく、長期入院や大がかりな手術が必要になる場合もあるため注意が必要です。
4-3.手術が必要となる可能性
通常、柿胃石は胃内視鏡を用いて砕いて除去することが多いのですが、あまりに石が大きく硬くなりすぎると内視鏡的除去では対応できなくなるケースがあります[7]。その際には開腹または腹腔鏡による手術で石を直接摘出する必要があり、患者さんの身体的負担は一気に上昇します。巨大化した石は胃や腸の壁を切開しないと取り出せないこともあるため、入院期間も長引きやすい傾向にあります[4]。
腸閉塞を引き起こしている場合には、より一層緊急性が増し、術後の回復にも時間を要することが多いです。このように、早い段階での発見と対処を怠った場合に待ち受けるリスクは深刻であり、病院受診を先送りにすると結果的に大きな代償を払うことになりかねません。
5.診断と治療法:フィトベゾアールへのアプローチ
5-1.診断方法
柿胃石症が疑われる場合や、長引く胃の不調がある場合には、消化器内科や胃腸科を受診しましょう。医療機関では、以下のステップで診断が進められることが多いです。
問診
いつ頃から症状があるのか。
どのような食習慣があるのか(柿をどの頻度でどれくらい食べるか)。
既往歴(胃手術や胃腸の病気など)があるか。
X線撮影・CT検査
胃や腸に異物(石)が映るかを確認する。
胃石が大きければ画像に映る可能性が高いが、必ずしも100%検出できるとは限らない[2]。
内視鏡検査(胃カメラ)
最も確実な診断方法。
石の大きさや位置、胃粘膜の状態などを直接観察できるため、合併症の有無も確認できる。
5-2.治療のアプローチ
内視鏡的除去
多くの場合は、内視鏡を用いて胃石を砕き、少しずつ摘出する方法が第一選択となります。専用の器具を使って石を物理的に分割し、回収します。石が比較的小さく、柔らかければ比較的スムーズに除去でき、患者さんへの負担も軽いです[7]。化学的溶解法(酵素・薬物療法)
英語論文によると、酵素を用いてベゾアールを化学的に溶かす「Chemical Enzyme Therapy」というアプローチも存在します[1]。ただし、柿胃石(ディオスピロベゾアール)はタンニンが強固に凝集しているため、薬物だけで完全に溶解できるとは限りません。あくまで補助的な手段として使われることが多いようです[5]。外科的手術
内視鏡での除去が困難な場合や、腸閉塞を合併している場合など、緊急性が高いケースでは開腹や腹腔鏡手術で石を直接取り出す必要があります[4,9]。胃や腸に切開を加える処置を行うため、身体への侵襲が大きく、術後のリハビリや入院期間も延びる傾向にあります。
6.なぜ柿は“要注意”食材? そのメカニズムと栄養バランス
6-1.タンニンの凝固作用
柿に含まれる「タンニン」は渋みや苦みの元であり、胃酸との結合により塊を作りやすい性質があります[6]。さらに柿の豊富な食物繊維が、このタンニン塊をしっかりと固めてしまうため、一度凝固が始まるとスピード感をもって大きくなってしまうのです[1,4]。
6-2.果物としては珍しい「一度に複数個食べがち」な点
リンゴやバナナ、みかんなどは1個、1本程度が一般的な摂取量であることが多いのに比べ、柿は「美味しいからつい2~3個続けて食べてしまう」という方が少なくありません。短期間の大量摂取が石形成のリスクを高める大きな要因といえるでしょう[6]。
6-3.柿は決して「悪者」ではない
誤解してはいけないのは、柿自体が健康に悪いわけではないという点です。むしろ柿は、ビタミンA(カロテン)やビタミンC、カリウムなどを豊富に含み、生活習慣病の予防や免疫力強化にも役立つ優良食材です[10]。ただし「適量」を守らないと、タンニンの凝固作用が過度に働いてしまうリスクがあるため注意が必要なのです。
7.日常でできる予防策:柿を美味しく安全に楽しむために
7-1.食べ過ぎない:1日1~2個が目安
最もシンプルかつ重要なポイントは「食べ過ぎないこと」です。一度に3個以上食べる習慣がある方は要注意。一般的には1日に1~2個程度が推奨されますが、個人差があるため、自身の胃腸の調子を考えながら量を調整してください[6,9]。とくに胃腸が弱い方や術後の方は、医師からの指示を仰ぐのが望ましいでしょう。
7-2.しっかり噛み、水分を十分にとる
柿に限らず、植物繊維が豊富な食品はよく噛んでから飲み込むことが大切です。噛むことで食材が細かく分解され、胃の負担が軽減されます。また、水やお茶をこまめに摂取することにより、繊維が胃内で凝固しにくくなります。英語論文の報告でも、水分摂取と十分な咀嚼(そしゃく)はベゾアール予防に有効とされています[1]。
7-3.バランスの良い食生活と適度な摂取
どんな栄養素にも言えることですが、「偏り」は体に様々な悪影響を及ぼします。柿が好きだからといって柿だけを大量に食べるのではなく、野菜や肉・魚、炭水化物などもバランス良く摂取することで、胃腸全体の機能を整え、胃石形成リスクを抑えることが可能です[10]。糖質も含むため、食べ過ぎれば血糖値や体重への影響も無視できません。
7-4.胃腸の状態を整える・定期的なチェックを
胃の手術歴がある方や慢性的な胃腸の不調がある方は、普段から胃腸の状態をケアしておくことが重要です。食後の胃もたれや胸焼けが続く場合は、早めに消化器内科を受診し、必要に応じて胃カメラなどの検査を受けることを検討してください[8]。巨大化したベゾアールを取り出すよりも、早期発見で内視鏡的に除去できる段階で対処するほうが、体への負担は格段に軽いからです。
8.もし柿胃石(フィトベゾアール)が疑われたら:早めの受診が肝心
8-1.自己判断は禁物:「胃石を疑う」選択肢を
秋になると柿をよく食べる習慣がある方、胃が弱い自覚がある方、あるいは胃手術の既往がある方が「最近胃もたれがひどい」「嘔吐が続く」と感じたら、柿胃石やフィトベゾアールの可能性を視野に入れましょう[1,4]。医師に「柿を頻繁に食べている」ことを伝えるだけでも、診断の手がかりになります。
8-2.検査技術の進歩と軽減される苦痛
胃カメラ検査(内視鏡)は苦手と感じる方が多いかもしれませんが、近年は鎮静方法や麻酔技術が進歩し、以前よりも負担の少ない手法が普及しています。自覚症状が軽いうちに検査を受ければ、内視鏡的除去だけで済むことが多く、入院期間や費用の面でもメリットが大きいです。
8-3.緊急手術が必要になる前に
最悪の場合、手術が必要になるほど石が大きく育ってしまうと、患者さんの日常生活だけでなく、社会活動や家族へのサポートにも大きな影響を及ぼします。胃や小腸を切開する手術ともなれば、術後の回復には長い時間を要する可能性が高くなるため、できる限り早期発見・早期対処に努めることが賢明です[4,7,9]。
9.まとめ:柿を「ほどよく」楽しみ、胃と上手に付き合う
柿は健康に悪い果物ではなく、栄養価が高い優良食材
ビタミンC、ビタミンA、カリウム、食物繊維など多彩な栄養素を含む。
風邪予防や美肌づくり、便通改善などさまざまなメリットが期待できる[10]。
一方で、「過度の摂取」は胃石リスクを高める
タンニンと繊維が強固な塊を形成しやすい。
胃腸の機能が弱い人や胃手術歴がある人は要注意[1,6]。
胃石(フィトベゾアール)の初期症状は曖昧だが、進行すると深刻化
胃閉塞や腸閉塞、胃潰瘍、穿孔など、重大な合併症を伴う可能性がある[3,9]。
大きくなると手術が必要になることもある[4,7]。
予防策:量と頻度を抑え、よく噛んで水分を摂る
1日1~2個の柿摂取を目安にし、複数個をまとめて食べる習慣は避ける。
十分な水分補給としっかりした咀嚼で胃負担を軽減する[1,6]。
長引く胃の不調があるなら早めに受診を
内視鏡検査や画像診断で柿胃石の有無を確認可能。
早期発見で内視鏡除去ができれば身体への負担も少なく済む[2,8]。
10.おわりに:秋の恵みを安全に楽しむ知恵
柿を食べ過ぎたことで「胃石」という意外なトラブルに見舞われる方は、思いのほか少なくありません[1,4]。英語文献でも、柿(ディオスピロベゾアール)の摂取過多によるフィトベゾアールは世界各国で報告されており、胃手術後などの高リスク患者への栄養指導では「柿の食べすぎに注意」がしばしば強調されています[1]。
しかし、何度も繰り返すように、柿は決して「悪者」ではありません。その甘さや食感、独特の渋みは多くの人に愛されており、栄養学的にも優れた果物です。大切なのは「適度な量と正しい食べ方」を守ること。1日に数個を立て続けに食べるのではなく、1~2個をゆっくり味わい、水分とともにしっかり噛んで摂取すれば、多くの場合は柿胃石を防ぎながら秋の風物詩を満喫できます。
万一、胃の不調が続き、「ひょっとして柿の食べ過ぎかも…」と思い当たる節がある方は、早めに受診するのが賢明です。医師に「柿を日常的に多く食べている」事実を伝えるだけで、柿胃石(フィトベゾアール)の存在を疑い、迅速な検査につながることが少なくありません。巨大化する前であれば内視鏡的に除去できる可能性が高く、身体への負担や治療費も最低限で済むでしょう。
季節の移り変わりを楽しみながら、私たちの体に必要な栄養を取り入れるのが理想的な食生活です。柿の甘い香りと味わいを堪能しつつ、ほどよい量と正しい食べ方を心がけることで、秋の味覚のメリットを最大限に生かし、柿胃石症やフィトベゾアールといったトラブルを未然に防いでいきましょう。
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