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お餅がCTスキャンに!? 意外な医療現象を探る
要旨
お正月の定番「お餅」は日本文化に深く根付いていますが、近年、医療現場でお餅がCTスキャンに映り込むケースが報道され、注目を集めています。本コラムでは、まずCT検査の基本原理を解説し、食べ物がどのように体内で映し出されるのかを探ります。特にお餅が高密度なためにCT画像上で白く映る特徴について、実際の研究データを交えて紹介します。
さらに、お餅の消化過程や、噛まずに大量に摂取した際に小腸閉塞や胃潰瘍を引き起こすリスクについても詳述。高齢者や嚥下機能に問題がある方々にとっての注意点や、日常生活での安全な食べ方のアドバイスも提供します。また、医療現場での対応策や、CT画像に映る他の食物との違いについても触れ、専門家の視点から総合的に解説します。
最後に、普段何気なく食べているお餅が医学的にどのように捉えられているのかを知ることで、食生活や健康管理への新たな視点を提供。お餅好きはもちろん、医療に興味がある方にも興味深い内容となっています。ぜひ本編を読んで、お餅の意外な一面を探求してみてください。
1. はじめに:お餅がCTに写るって本当?
お正月には欠かせない存在として、日本人の日常や文化に深く根付いている「お餅」。雑煮やお汁粉など、さまざまな料理で楽しまれるほか、近年はアレンジスイーツなどで通年食べられる機会も増えてきました。一方で、高齢者を中心に喉に詰まらせるリスクが話題になったりと、「お餅」には栄養面や食感以外にも多彩なエピソードがあります。
そんなお餅について、医学の世界では「CTスキャン(コンピューター断層撮影)でお餅が映し出される」「しかも、小腸の中にお餅が残っていたケースが報告されている」といった少々ユニークな話題が存在しています[1-5]。私たちの身体の中を断面画像で捉えるCT検査において、果たしてお餅はどのように映るのでしょうか。これは一般の方にとっても興味深いトピックではないでしょうか。
そこで本コラムでは、CT検査の基礎的なおさらいや、食べ物がCT画像にどのように反映されるか、そしてお餅が具体的にどう映るのか、といった点を軸に解説を進めていきます。あわせて、実際に報告されている研究データを交えながら、「お餅がCTに映る理由」や「臨床現場での注意点・面白さ」をお伝えいたします。
2. そもそもCT検査ってどんなもの?
2-1. X線を使って身体を断面画像化する技術
CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)は、X線を利用して身体の断面を可視化する画像診断技術の一つです。X線は、物質を透過する際に、その物質の密度によって減衰や吸収の度合いが変化します。身体の中には、骨のように密度が高い組織、肺のように空気を含む領域、脂肪や筋肉などの軟部組織など、多種多様な密度を持った組織が詰まっています。CT装置は患者さんの周囲を回転しながらX線を照射・検出し、その情報をコンピューターで解析して断面画像として再構成します。
この手法により、従来の単純なX線写真(レントゲン写真)よりも格段に精密な三次元的情報を得ることができます。たとえば、胸部のCTでは肺や心臓、大血管の状態を詳細に把握でき、腹部のCTでは肝臓や膵臓、腎臓、消化管などの形態を観察できます。診断領域は非常に広く、がんの有無や病変の進展状況、外傷による内臓損傷の評価など、多岐にわたって利用されています。
2-2. 食べ物がどのように映るのか
CTは骨など高密度のものほど白く(高吸収)映り、空気のように非常に低密度のものは黒く(低吸収)映ります。軟部組織はその中間的な濃淡で描出されるため、脂肪や筋肉、血管などをある程度見分けることができます。ところが、「食物」はその水分や成分のバランスにより、消化管内にある時点では組織に近い密度を示すことが多く、必ずしも鮮明に区別されるわけではありません。
ただし食物によっては、金属成分やミネラル分が含まれていたり、極端に密度が高かったり、大きな塊状を保っていたりする場合に比較的はっきり映ることがあります。お餅も、特有の粘り気と高い密度を持つため、条件次第ではCT画像に捉えられることがあるのです[1-5]。
3. 食べ物はCTにどう映るのか?
3-1. 一般的な食べ物の描出
胃や腸にある食べ物は、噛む・飲み込む・消化酵素による分解などのプロセスを経て、液状や泥状に近い形に変化しながら体内を移動します。とりわけ水分の多い食品は、CT画像上で軟部組織とのコントラストがあまりつかないことが多く、明確に「これは食べ物です」と判別するのは難しいケースが多いです。
しかし、たとえば「キクラゲ」や「海苔」のように黒っぽい、あるいは比較的繊維質・硬質の成分が残りやすい食品は、胃や腸の内容物の中で特徴的なコントラストを示すことがあります。さらに、骨や軟骨を含む魚や肉の一部が固形物として残っていれば、その部分だけがCT画像でやや高密度に描出されることもあるでしょう。
3-2. お餅が映る特性
お餅の主成分はデンプンです。もち米を蒸してつきあげることで独特の粘り気と弾力が生まれ、非常に高い密度と粘度を併せ持った食品になります。また、水分含有量が比較的少なく、食べるときに十分に噛まずに飲み込んでしまうと、塊のまま消化管を移動する可能性があります。このため、お餅の塊が大きい状態で小腸などに留まった場合、CT検査で白っぽい高吸収域として描出されることがあるのです[1-5]。
4. お餅をCTで捉えたという報告
ここからは実際に報告されている研究データをいくつか紹介いたします。いずれの報告も、CT撮影時に小腸や胃に「お餅」と推定される高密度の塊が検出されたケースです。レントゲン写真では捉えづらい異物も、CTスキャンでは形状や密度の特徴から特定しやすい例があります。
4-1. 小腸閉塞との関連
お餅のような消化されにくい塊が小腸に詰まると、腸閉塞(イレウス)を引き起こすことがあります。実際に、「餅による小腸閉塞の臨床所見とCT所見について、ベゾアール石によるものと比較して」という研究[1]では、お餅が小腸内で閉塞を起こした症例について、CT所見と臨床経過を検討しています。その結果、お餅は高いX線吸収を示すため、ベゾアール(毛髪や食物繊維が塊となるもの)とは異なる特徴的な所見が認められ、診断および保守的管理(保存的治療)に役立ったということが報告されています。
4-2. 典型的な画像所見と患者背景
さらに、「もちによる小腸閉塞」[2]や、「餅の食べ過ぎによる小腸閉塞」[3]でも、CTで均質性の高い高密度の塊として描出され、患者の食事歴(直前にお餅を食べたという背景)と照らし合わせることで診断が確定したケースが報告されています。お餅のCT値(Hounsfield Unit)は約160HU前後と記載されており、他の食物よりもやや高めに描出される傾向があるそうです[3]。
4-3. 胃内残留・胃潰瘍の例
また、小腸だけでなく胃にお餅が残留し、複数の胃潰瘍を引き起こした症例も報告されています。「餅による胃内異物で多発性胃潰瘍」[4]では、胃の出口近くでお餅が大きな塊のまま停滞し、胃酸などの影響で粘膜障害を生じたと考えられています。このケースではCTで高密度の異物として描出され、内視鏡検査により実際にお餅の塊が確認されました。
4-4. 上部消化管の異物としてのリスク
上部消化管(胃・十二指腸など)にお餅が残留するケースも稀ではありますが、「残留した餅:上部消化管に生じた異物の一例」[5]のように、消化管異物として報告されている文献もあります。これらの症例では、高齢者や義歯をつけている方、あるいは早食いをする方など、十分に咀嚼できていない背景が指摘されています。CT所見が診断の決め手となり、内視鏡的に除去されたケースも多いようです。
5. 画像診断の可能性と注意点
5-1. CT画像の読み方は専門家にお任せ
このように、お餅は消化管内で固形物として留まりやすく、CT画像でも特徴的な高密度として描出される可能性があります。しかし、それを「食べたもの」なのか、「腫瘍やポリープなどの病変」なのか区別するのは、必ずしも容易ではありません。画像所見に加えて患者さんの症状や食事歴、血液検査や診察所見など、総合的な情報を組み合わせてはじめて確定診断に至ります。したがって「CTで白っぽく映っているからといって、直ちに危険なものとは限らない」のですが、素人判断は禁物であり、最終的な評価は専門の医師に任せることが大切です。
5-2. お餅が映る=必ず悪いわけではない
「CTでお餅が映るのは珍しくない。だからといって、食べるのをやめなくちゃいけないわけではない」と多くの専門家は指摘します。実際に、少量のお餅を普通に食べている程度であれば、消化管を問題なく通過し、自然に排泄されます。特に腸閉塞を発症するのは、大きい塊を噛まずに飲み込み、それが詰まってしまった場合や、胃腸の機能が低下している患者さんの場合がほとんどです。
もしも「お餅を食べた後に腹痛がひどい」「嘔吐を繰り返す」「便やガスが全く出ない」といった症状があれば、小腸閉塞などを疑う必要があり、早急に医療機関で診察・画像検査を受けるべきでしょう[1-5]。逆に、単にCT画像でお餅らしき影が確認されたからといって、それだけで特に治療が必要になるわけではありません。
5-3. 食事制限や検査前の注意
CT検査の前には、通常「○時間以上絶食してください」といった注意事項が伝えられます。これは、胃や腸に内容物が残っていると検査結果に影響が出る可能性があるためです。特に緊急性の低い腹部CTなどでは、ある程度の時間を空けたほうが精度が高まることが多いからです。したがって、「検査直前にお餅を大量に食べた」「絶食指示があったのに食べてしまった」という場合は、検査が延期になるか、あるいは検査時に思わぬ影が映って診断が紛らわしくなるかもしれません。
6. まとめ:お餅が映るのは珍しくないかも?
ここまでの内容を整理すると、「お餅は消化管内に大きな塊で残りやすく、CT画像で高密度に描出されることがある」という点が分かります[1-5]。高密度かつ粘りのある食べ物なので、きちんと噛まずに飲み込んでしまうと、腸閉塞や胃内停滞を引き起こしやすいという特徴があります。
もっとも、CTに写る=すぐに危険、というわけではありません。むしろ通常は自然に消化・排出されるため、CT撮影を偶然受けた際に「これはもしやお餅?」と分かるレベルで残っていたとしても、本人に自覚症状がなければ問題がないケースも多々あります。重要なのは、明らかな腹痛や嘔吐、便秘などがある場合には、早期に受診し画像検査を含む適切な診断と治療を受けることです。
7. コラムを読んだ方へのメッセージ
7-1. 日常でできる予防策と心がけ
お餅をはじめ、粘り気の強い食べ物を召し上がる際には「よく噛む」「無理な早食いをしない」「少量ずつ食べる」などが大切です。また、食後に胸やけや胃もたれを感じやすい方は、横になる前に時間を空けるといった工夫もよいでしょう。高齢者や義歯を使用している方と同席する場合は、食べ方に気を配る、あるいは水分を多めにとりながら食べるなど、周囲のサポートも大切です。
7-2. 医学的視点を知る面白さ
一方で、「普段何気なく食べているものが体内でどう描出されるのか」という視点は、医学的に見るととても興味深いトピックでもあります。お餅を含め、さまざまな食品がCT画像で白や灰色の塊として写り込むことがあるのです。身体の中でどのように移動し、どの段階でどのような状態になるのかを想像すると、医療者にとってだけでなく、一般の方にとっても好奇心をくすぐられる話題といえるでしょう。
7-3. さらなる話題への興味喚起
本コラムをきっかけに、「食べ物と画像検査の関係」に興味を持った方もいらっしゃるかもしれません。実際、医療の現場では食品だけでなく、他にもさまざまな異物がCTや内視鏡で確認されることがあります。誤嚥や、子どもの誤飲事故、消化しきれない硬い食品など、「物が体の中でどのように扱われるか」は奥深いテーマです。ぜひ今後も、健康情報や医療知識を深める機会を持っていただければ幸いです。
おわりに
本コラムでは、CT検査の基本からお餅がどのようにCT画像に描出されるのか、その臨床的報告と注意点、そして日常生活へのアドバイスまでを総合的にご紹介しました。お餅がCTに映る背景には、その独特な粘度と密度が深く関係していること、そして実際に小腸閉塞や胃内停滞を引き起こすケースが報告されていることなどがお分かりいただけたかと思います。
もちろん、普通に食べている分には特別に怖がる必要はありませんが、もし異常症状を感じたら早めに受診する、検査前には食事制限を守る、といった基本的なことが重要です。何よりも、「よく噛んで食べる」ことや、「無理のないペースで食べる」ことこそが、健やかな食生活を続ける上での鉄則といえるでしょう。
引用文献
[1] Sugimoto, S., et al. “Clinical and CT Findings of Small Bowel Obstruction Caused by Rice Cakes in Comparison with Bezoars.” Japanese Journal of Radiology, 37, 2019, doi:10.1007/s11604-019-00811-9.
[2] Baba, A., et al. “Small Bowel Obstruction due to Rice Cake (Mochi).” Internal Medicine, 55, 2016, doi:10.2169/internalmedicine.55.6531.
[3] Kimura, N., et al. “Small Bowel Obstruction Due to Rice Cake Consumption.” An Official Journal of the Japan Primary Care Association, 44, 2021, doi:10.14442/generalist.44.141.
[4] Fujii, M., et al. “Multiple Gastric Ulcers Caused by a Rice Cake as an Intragastric Foreign Body.” Journal of Gastroenterology, 41, 2006, doi:10.1007/s00535-005-1755-0.
[5] Oka, A., et al. “Retained Rice Cake: A Unique Upper Gastrointestinal Foreign Body: Case Report and a Literature Review.” Internal Medicine, 58, 2019, doi:10.2169/internalmedicine.2760-19.
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