スパイクマンのリムランド理論

イントロダクション

こんにちは、こんばんは、おはようございます!
Renta@マレーシアから国際関係について考える人です!今回のテーマはスパイクマンの地政学理論及びそれに対する分析です。


アメリカから見た地政学とリムランド理論

それでは、スパイクマンの地政学理論とはどのようなものなのでしょうか?
スパイクマンは、マッキンダーやマハンと同じように、自国にとってどんな戦略が最適なのか?ということを念頭に置いて、地政学理論を構築しています。

アメリカは世界から地理的に包囲されており、日独同盟によってそれは実際の脅威となった

まずは、スパイクマンの当時のアメリカに対する分析を見てみましょう。

スパイクマンは、そもそもすべての国家は他国に包囲されていると考えています。これは、正距方位図法で自国を中心にすればすごく分かりやすいと思います。


ニューヨークを中心とした正距方位図法

アメリカの地政学的なポジションを総合的に考えてみると、「我々はユーラシア大陸だけでなく、アフリカ大陸とオーストラリアにも地理的に囲まれている」という事実に気が付く

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.83

といっても、正距方位図法はそもそも包囲されているように見えてしまう図法なのでは?という疑問も湧きます。

これに対するスパイクマンの回答は
・正距方位図法で見える包囲は潜在的なものである
・周りの国が自国を脅かすパワーを持った時、その包囲は本物となる

ということです。現代の状況に引き寄せて考えてみます。日本もフランスと周辺国に「包囲」されている状況は同じです。

しかし、日本の周辺国は中国・アメリカ・韓国・北朝鮮・ロシアです。
Global firepowerという各国の軍事力の評価サイトによると、米中露は軍事力出世界トップ3を占めます。韓国は日本と同程度で、北朝鮮は若干劣りますが、いつ核ミサイルを放り込んでくるか分かりません。

これに対して、フランスは比較的安全な状況です。核保有国ですし長年の宿敵だったドイツの軍事力は、第二次世界大戦以降抑制に成功しています。

アメリカの地政学的ポジション(世界に包囲されている)


それでは、スパイクマンは当時(1940年代)のアメリカの包囲状況をどのように捉えていたのでしょうか?

85 ここで最も重要なのは、1942年のはじめにドイツと日本が目標の大部分を達成したときに、この二国間には政治的な同盟関係が存在していた、という事実だ。つまり我々はユーラシア大陸の全体が統合されたパワーと直接対峙するような、完全な包囲に直面する可能性もあったのだ。そうなると東半球のパワーの中心があまりにも強力になってしまい、我々は自分たちの独立と安全を守ることは不可能になったはずだ。

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.85

つまり、アメリカは日本とドイツに挟み撃ちにされてしまうかもしれない、とスパイクマンは考えていました。ここで注意しておかないといけないのは、第二次世界大戦において、日独は1942年頃までは優位を保っていたということです。敗戦国であることから、最初から防戦一方のイメージがありますが、実際はそうではなかったということです。ドイツはフランスを降伏させソ連も倒そうとする勢いでした。日本は中国大陸で戦闘を続け、東南アジアをほぼ支配下に置いています。

このような状況を受けて、スパイクマンは、「もし将来このような包囲状態に直面することを避けたいと願うのなら、我々はまず旧世界の二つの地域から安全を脅かすような国家や同盟などの圧倒的なパワーを出現させないように、平時から常に気を配っておくべきだ」と考えたに違いありません。

そして、スパイクマンはアメリカが日本とドイツに挟み撃ちにされたという事態からリムランド理論を作ります。

リムランドとは、ハートランド(ユーラシア大陸の中心部)を取り囲んでいる「内側の三日月地帯」にある水陸両用国家で、ヨーロッパの沿岸地帯・アラビア中東砂漠地帯・アジアのモンスーン地帯の国家を指します。


リムランド

リムランドの国家は、海とユーラシア大陸の中心部であるハートランドの両方に接しています。だから、ハートランド国家(主にロシア)と、シーパワー国家(主にイギリスやアメリカ)の両方から影響を受けます。

影響を受けるどころか、ハートランド国家、シーパワー国家にとってリムランドを抑えることは互いの覇権にとって最重要です。シーパワー国家は支配している海洋を広げることを重視します。その方が、貿易の効率や艦隊の派遣を行いやすくなるからです。反対に、ハートランド国家はリムランドを何処か1箇所でも抑えれば、シーレーンが途切れるので、自分を包囲してくるシーパワー国家の力を抑制することができます。

つまり、リムランドはハートランド国家とシーパワー国家が共に介入するので、紛争が多発します。
加えて、スパイクマンが重視するパワーをリムランド国家は多く持っていることが多いです。現代の典型的な例が中国です。そもそも地理的に紛争が多いことに加えて、パワーを多く持ってしまうリムランド国家は紛争の中心となります。

そこで、スパイクマンはマッキンダーを留意しつつ、「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制す」というスローガンをかかげます。

もし旧世界のパワー・ポリティクスのスローガンがあるとすれば、それは「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制す」である。

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.101

ここでは、マッキンダーのシーパワーvsランドパワーという歴史観の批判や、二つの世界大戦がドイツを中心として起こされたことが念頭に置かれています。マッキンダーは世界史を、ランドパワーとシーパワーの対決の歴史だと捉えました。しかし、この歴史観は大雑把すぎます。スパイクマンの時代でも、シーパワーであるイギリス・アメリカがランドパワーであるソ連と同盟しているからです。

その一方で、リムランドであるヨーロッパ大陸の中心地であるドイツが、2つの世界大戦の中心にいたことは注目に値します。

スパイクマンがリムランドを重視した原因として、2つの世界大戦におけるアメリカに参戦はリムランド関係だったことが考えられます。

第一次世界大戦なら、1918年のブレスト・リトフスク条約がきっかけで参戦しました。また、第二世界大戦では、1941〜1942年あたりのドイツのモスクワ遠征前のドイツやミッドウェー・ガダルカナル海戦前の大日本帝国がアメリカにとっての(軍事的な)参戦理由でした。

アメリカは過去30年間のうちに二度も戦争をしており、その際の安全保障への脅威は、「ユーラシア大陸のリムランドがたった一国によって支配される」という形で現れたのだ。

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.101

まとめ

以上が、スパイクマンのリムランド理論になります。
いくつか指摘をしておくと、スパイクマンのリムランド理論は、かなりアメリカ中心的な見方です。これはある意味当然で、マハンやマッキンダーも、自分が生きた時代のアメリカやイギリスの安全保障問題を念頭に置いて理論を構築しているからです。
スパイクマンにとってそれは、第二次世界大戦中に日本とドイツにアメリカが挟み撃ちにされたということです。

最後に批判的な意味で指摘しておきたいのは、情報戦に対する言及がないことです。というのも、以下のnote記事によると、純粋にパワーで見ればスパイクマンの時代に脅威だったのは、ドイツと日本ではなく、ドイツとソ連だからです。

恐らくは、スパイクマンはリムランドを重視したためか、ソ連への警戒感はあまりなく、冷戦構造の予測はも外しています。スパイクマンは、第二次世界大戦後の国際情勢は米英ソの三極構造になるとと考えていたからです。
つまりここで言いたいのは、スパイクマンの地政学理論が、ソ連の情報戦の成果次第で変わっていた可能性があるということです。地政学理論は立論者の世界観に左右されがちなところがあるというのは、知っておくべきです。立論者の歪んだ主観によって、生まれた地政学理論が悲劇をもたらした例として、次回はハアスホーファーの地政学理論を取り上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳

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