スパイクマンの地政学観

イントロダクション

こんにちは、こんばんは、おはようございます!
Renta@マレーシアから国際関係について考える人です!今回のテーマはスパイクマンという第二次世界大戦の時期に活躍したアメリカの地政学者の、その地政学観に迫ります。彼の地政学理論及びそれに対する分析は次回のnoteのテーマです。

スパイクマンの地政学理論は、現代の国際関係論のリアリズムという学派の1つの源流になっており、国際情勢を見る際に重要な視点を提供してくれます。それは、「すべての国家は潜在的に包囲されている」ということと、「その包囲が実質的なものとなるかどうかは、地理とパワーによって決まる」というものです。

それでは、その中身を見て行きましょう。


スパイクマンの地政学観

スパイクマンの地政学の定義

スパイクマンは、地政学と地理学を区別して以下のように考えています。

純粋な地理の分析とは区別される「地政学的分析」の最も顕著な特徴とは、静的な状況よりもパワーの中心における動的(ダイナミック)な状況を考慮する点にある。

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.40

つまり、純粋な地理学は基本的には変化しない自然を相手に、地理的分析を施すものです。確かに、地理の変化をもたらすプレートテクトニクスや森林の成長は、人間の視点からすればかなり長い時間をかけて起こります。

それでは、地政学は何が動的だと捉えるのか?それは国家の持っているパワーであり、パワーはテクノロジーによって影響を受けます。

テクノロジー面での変化は、とくにパワーが実践される「場」の状況を変えることになる。なぜなら、通信・交通のスピードや産業界の技術の増加は、必然的に特定の国々のパワーポジションを変動させることになるからだ。

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.40

つまり、地理的な事実は変化しないが、テクノロジーやパワーの変化は、地理が持っている意味を変えてしまうのです。
河川について考えてみましょう。

飛行機の登場前は、河川は防御壁として一定の役割を果たしていたでしょう。水の中を渡るのは時間がかかるので、遠距離武器で狙い撃ち出来たからです。しかし、飛行機があれば河川はそのような防御壁として機能しません。

逆に、蒸気船が登場すれば川の流れに逆らって船を動かすことが容易になるので、河川は領域内の運搬効率を上げることに貢献します。

このように地理という不変の要素を軸に、国際情勢を考えるのがスパイクマンにとっての地政学です。
また、地政学的分析を補助するパラメーターとして、人口密度・国家の経済構造・国民の民族構成・政府の体制・外務大臣の偏見や好み・国民の持つ理想や価値観を挙げています。

リアリズム的な世界観

スパイクマンは、国際情勢について非常に厳しい見方をしています。というのも、結局は国際情勢は国家のパワーによって決まってしまうと考えているからです。

この考え方は、国際関係論のリアリズムという学派に似通っています。リアリズムとは、2つの世界大戦を経て「どうしてこのような大戦争が起こってしまったのか?」という問いを出発点とする学派です。
その特徴として以下のものが挙げられます。
・国際政治を一種の権力政治と捉え、軍事力によってその結果が決まると考えている
・このような権力政治は、世界政府の不在が原因となっている

このようなリアリズムの理論の最先端として、ミアシャイマー教授の理論があります。その理論については以下のnoteに詳しく書きましたので、ぜひ読んでみてください!

では、スパイクマンの国際情勢に対する考えも見てみましょう。

これ(1941年時点でナチスドイツの侵攻を止められるのは米英ソの軍事力による他ないという状況。筆者による付け足し)によって、国際社会の中における国家の安全は世界の中のパワーの配分状態と密接な関係を持っていることがハッキリした。今日の国際社会の主な特徴というのは、「他者との関係において自分たちよりも上位に位置する権威を認めない、主権国家という単位(ユニット)が、独立して存在している状態」と言い表せる。

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.33

国際情勢がパワーによって決定されること、世界政府という国家の上位にあたる存在がいないことが指摘されていますね。

さて、スパイクマンのリアリズム的な見方は、諸国家の価値観の多様性を反映したものです。上で指摘された通り、国際社会には警察に相当する治安維持装置が存在しません。その割には、様々な宗教・歴史観・イデオロギー・文化などを持った国家がいます。その中には、互いに脅威となる考え方を持っている国家たちもいるでしょう。そんな中で、国家はどのように行動するのか?スパイクマンは以下のように考えます。

国家というものは、もし必要に迫られれば自分たちにとって絶対的に重要だと思う価値観を「軍事力を使ってでも守らなければならない」と感じるものである

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳 p.34

ここでは、理想主義的な平和論が批判されています。理想主義的な平和論とは、経済的相互依存が高まっている状況では、戦争は互いにとって損だから戦争は起きず、パワー争いではなく話し合いによって紛争は解決できるという主張のことを指します。現在の国際関係論には、経済的相互依存による国際情勢の安定や対話の場所としての制度に関する理論としては、リベラリズムという学派があります。スパイクマンはこのリベラリズムの源流にあたる考えを排斥したのでした。

また、スパイクマンは集団安全保障システムも、理想主義よりマシだが、「制裁に本当に協力するのか」という疑念が絶えないし、超国家プロジェクトもそもそも超国家に軍事力を譲ることを上記のような国家が選択できるのか疑問が残るとしました。

集団安全保障システムとは、安全保障条約の参加国がどこかの国に侵攻された場合、安全保障条約のすべての参加国共同で、侵攻した国に制裁を行うというものです。また、超国家とは世界政府のような国家を上から管理する機構を指します。

まとめ

スパイクマンの地政学観は不変の地理をベースに、国家のパワー争いを冷徹に分析するものです。この国際情勢への姿勢は、現在の国際関係論のリアリズムという学派に似通っています。それでは、スパイクマンはどのような地政学理論を構築したのか?現在の視点から見て、それは妥当なのか?ということを、次回のnoteで見ていきます。

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考文献

ニコラス・スパイクマン著、『平和の地政学』、芙蓉書房出版(2008)、奥山真司訳

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?