【読了】町田康『バイ貝』
働いて金を稼ぐ時に溜まる鬱。そしてそれを散じるために金を使う。また働いて鬱が溜まり、また使って発散し……
人間の尽きない欲望の愚かさに向き合う男の奮闘。
それにしても、人間の思考というのは必ずしも一方向にだけ進むものではない。結論に辿り着くまでにあちこち寄り道し、どうでもいいことに思い至ったりしつつ、何度も軌道修正しながら終着点を目指すもの(もちろん、ゴールに辿り着かずに終わる場合も多い)。
フィクションの作品ではその過程が省略されて、より単純なルートで結論に至る場合が多いが、その複雑な過程を逐一再現しようと試みていることが、町田作品の滑稽な文体を作り出す要因の一つなのかも。