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【短編】ミスルトゥのリースの下で
並ぶのは目を見張るであろう豪華な食事。
此処はある島。
この国の経済界や政界を牛耳る者たち、または裏で従順な国民を操る『調整者』と呼ばれる者達が集う謂わば定例会だ。
さしずめ今回は
〝夏を迎えるにあたっての電力の確保〟
〝原発への反発のずらし方〟
〝税率の上昇で安心感を演出するいくつかの方法〟
〝宗主国への送金と戦争のバランス〟
って事らしい。
いつもの狭苦しい秘密会議でなくて些か気が紛れる。
思えば私も昔は憐れな一般人だった。
教育やメディアで洗脳され続けたんだから気づくはずもないのだ。
社会は欲望を煽りより資産を得た者こそが人として尊敬される。
そういう様に出来ている。
しかし、我等総ての調整者が人徳者で使命を全うする為に全精力を賭けている訳ではない、残念ながら人道を外れたヤツもいる。
私はと言えばまだ理想への道半ば、周りが見え始めこの世の仕組みを変えようと考える唯の男だ。
少し高い場所にいるから彼等が哀しく見えるのだ。
我等は『調整者』他の人々は『二脚羊』と呼ばれている。
気づかないなら不幸でも何でもない。
その中で我等が与えた幸せを目指し、掴み、または絶望してその生を終えるだろう。
何の不満があろうか?
コントロールする側が必要なのは今までの人類史を紐解けば子供でも理解する。
優秀な人間が努力に努力を重ね、運を味方につけてやっとこの場所に居るのだ。
しかし私は何も優秀だから、そして優秀でないから、コントロールする立場が偉いとかそういう事を言っているのではなく、
〝幸せはそれぞれ〟であると考えているし、苦しかった今までは適材適所という選別とも思っている。
決して他者を貶める思想は持っていない。
総ての人類に安全な食料を供給するには?
あらゆる宗教の争いをどうするか?
人類が疾患、疾病から解き放たれるには?
今日集まった人選は比較的このような〝良い〟思考の方々が多い様だ。何人かと親しく言葉を交わすと私は予約されている部屋に向かった。
ホールと廊下の間には鉄の防火戸が装備されており、その上には鉄柵に守られた通気ファンが静かに回っていた。
どうりで風の動きを感じる。
流れる音楽は短い北欧の夏を感じさせた。
ホテルの通路は穴倉の様に狭かったが新しく高級なオーク材があしらわれており、何故か冬によく見るオブジェが飾られていた。
夏至の日だっていうのに…何かのイベントが用意されているのだろうか?
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生命の力の証とされている。
何せ資金力はうなるほどある。
紙の価値を創り出すので意味は変わるだろうが。
そんな事は些細な事だ。
実際、この特殊な隠しホテルも我等の為に建てられたと聞いている。当然、敵も多くいるし我等の思想を理解しない者もいる。
その為、核攻撃にも耐えうるシェルターにもなるとの説明を受けた。
突き当りのホールに工事中とあるのは何か理由があるのだろうが…部屋へは大きく左にヘアピンの如くカーブしていた。
真夜中、休んでいると大勢の人々がパニックになりながら部屋になだれ込んで来たのだ。
「何事だ!」私は向かい来る人々を押しのけて何とかヘアピンカーブまで来たが、動きが取れなくなってしまった。
暗闇の中ぎゅうぎゅうに押しあう我々は口々に罵り合うしか無かった。
何が起こったのかもわからないし場内にアナウンスは無かった。
その途端、急に天地がひっくり返り私達は壁か天井かに押し付けられた!
怒号と苦悶の嗚咽はこの世の地獄を思わせる、
何かに襲撃を受けたのか?どちらが上か下かわからないがこのままでは圧死者が出る!無論、私かも知れない…
ウィーン
何処かでモーター音がする。
それはさっき廊下で聞いた様な静音で無く秒毎に強まり、唸り、そして大叫喚と耐えれない臭気を巻き上げ辺りを包んだ。
(…火事だ!)と気付いたが動きの取れない今、何もできる事は無い。
心の何処かでまだ思っていた。
(核シェルターでもあるのに火事などすぐ収まるだろう…)と。
しかし考えは甘かった…目の前を赤い炎が昇竜さながら上がり私の顔面を撫でたのだ!
瞬間理解した。酸素の通路で優先的に炎の道が出来ていると。
阿鼻叫喚の中次はこちらに炎が来る事は容易に予想出来た。
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夏至の日、宿り木やオークで気づくべきだった…
初めから丸ごと全員を焼き殺すつもりだったのだ!
しかも空気が十分通っており、気を失うことすら許されない…。
下の方から通気ファンが回り出す音がした。
ある場所…
「どうだ、儀式は問題なく済んだか?」恰幅の良いスーツに身を包んだ老人が配下らしい中年に聞いた。
「滞りなく…しかし…」言葉を詰まらせたが続きは出なかった。
「だから儀式に役に立てた。あの程度の仲間など人類愛をそそのかせば簡単に操れる。」
「奴らは奴らの使命を果たしたのだ、此処に迄上がらないと見えないものがあるのだ!」老人は持っている杖の先をを配下に突きつけ言った。
「それが適材適所ではないか?」