ごまとうふ

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ちょうど合わさればひとつの生活が完成するように、冷蔵庫やコーヒーメーカーやらの諸々の品は今や各々の家に存在している。 片割れの物たちに囲まれた家で、私は淡々と、ひとりで暮らしている。 ひとりで暮らす間に、私の隣を通り過ぎていった男は何人かいる。いずれもあっけないものだった。彼らとの別れは心が痛むものであったが、だからといって私の生活に影響を及ぼすものではなかった。誰かとお付き合いをするということは、もっと重たくて、心が引き裂かれるようで、生活の全てを捧げたくなるものだと思

    • 11月25日

      朝晩しっかりと冷え込むようになってきた。 お気に入りの黒いニットカーディガンに袖を通し、スニーカーに足をつっこむ。 ゴミ出し担当は彼なのだが、今日は仕事が忙しいらしい。あまりに余裕がなさそうなので、帰りの時間をきちんと連絡することを条件に、代わりを請け合ってあげた。 ゴミの曜日は未だに覚えられない。スマートフォンで撮影した収集所の画像を見て、ゴミをまとめている。 ただ、町の空気には慣れてきた。 年寄りと子供が多く、そこそこ活気のある町。大通りから少し離れているおかげで、かな

      • 11月6日

        冷めたパンの最後の一口を押し込むと、どこからかサイレンの音が聞こえてきた。またかと眉をひそめる。朝早くから大変だな。田舎から越してきて2年経つが、あの時都会っぽさを思わせた国道沿いマンションのメリットは、スーパーを3軒はしごできることだけだった。夢に見た高層階の夜景はほぼ見ることなく窓を閉めきり、それでも響くバイクのモーター音や緊急車両のサイレンに耳を塞ぐ毎日を送ることになろうとは思っていなかった。田舎の静かな夕方が恋しい。すきなことはぼーっとすること。そんな私は都会暮らしに

        • 10月31日

          電気ケトルを取り上げて蓋を開け、シンクの蛇口を数秒ひねる。これでちょうどマグカップ1杯分になっているはずだ。一人暮らしがこう長いと、大体の分量は手が覚えている。ケトルの蓋を閉めてカチ、とスイッチを入れる。 冷凍庫には食パンが3種類。バター、メープル、レーズン。今日はレーズンの気分かな。1Kに似つかわしくない多機能オーブンレンジにガコガコ鉄トレイを差し込むと、食パンを置いて、オートメニューの13番。この間にマグカップを用意してドリップコーヒーをセットする。封を切ると、ふわんと

          10月25日

          おぼろげに少しずつ、かたちのない音が意識へ滑り込んでくる。ホワイトノイズのようなそれは徐々に輪郭を有し、冷蔵庫の稼働音だったり歩行者用信号機の音だったり一斉に進み出す車の音だったりに形を変える。 まだふわんとした頭に手をやりながら、考えるふりをする。そうすると、ぽつぽつと単語が浮かぶ。眩しい。朝。布団。ざらついた麻のシーツに湿気が含まれ、体との間にたおやかな空気ができている。 「……今何時。」 どこまでも包んでくれそうな空気に甘えたい気持ちを見ないふりして、寝っ転がったまま