むらさきのスカートの女
今村夏子さんの作品です。
怖い小説ですね。
自分が誰の視界にも入っていないという悲しみってないですよね。
歩道を歩いていると、前からもこっちへ歩いてくる人がいる。それに気づいた私は、かなり距離のある時点で右か左のどちらかに体を、もう本当にガードレールや壁にこすらせるぐらい体を寄せて自分の意思を表明しながら歩いてるのに、すれ違う寸前に私の歩いてる側に方向転換してくる人と出くわすと、「この人には俺はいないことになってるんだ」という悲しみに暮れます。
あるいは、自動ドアが開かないとか、手をかざせば水が自然に出るタイプの蛇口に手をかざしても水が出ないとか、公衆トイレに入って用を足してたら途中で電気が消えてしまうとか。
存在をなきものにされるって、「切ない」なんて言葉じゃ足りないですよね。生きてる価値がないと言われてるみたいで、どうにもやりきれない。
そんな、「黄色いカーディガンの女」みたいな人たちに、「大丈夫だよ」「死ななくていいよ」とエールを送ってくれてるラストが痛快でした。