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TRIP TRAPの著作物性が否定された!知財高裁令和6年9月25日判決

応用美術の著作物性が認められたトリップトラップ事件で有名なトリップトラップの著作物性が否定される高裁判決が出ました!

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/391/093391_hanrei.pdf

令和5(ネ)10111  不正競争行為差止等請求控訴事件  著作権  民事訴訟
令和6年9月25日  知的財産高等裁判所  東京地方裁判所

例のTRIP TRAPという子供椅子について、真似た製品が不競法2条1項1号と著作権侵害にあたるかという事件でした。

原告製品 判決文より


被告製品 判決文より

不正競争防止法2条1項1号について、

周知性は

したがって、原告製品の本件顕著な特徴は、被告各製品が販売されるようになった遅くとも平成27年8月10日時点で、原告らの業務に係る商品を表示するものとして「周知」となっていたと認めるのが相当である。

として認めたうえで、
類似性については

したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製品の形態が類似すると認めることはできない。

と否定され、不競法2条1項1号は否定されました。

次に著作権についての判断です。

工業製品のデザインを保護する制度として意匠法がある中で、著作権の考え方について、

・・・原告製品のような実用品の形状等に係る創作を我が国内においてどのように保護すべきかは、我が国の著作権法と意匠法のそれぞれの目的、性質、各権利内容等に照らし、著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図るという見地から検討する必要がある。

しかるところ、原告らが主張するように、作成者の何らかの個性が発揮されていれば、量産される実用品の形状等についても、著作物性を認めるべきであるとの考え方を採用したときは、これらの実用品の形状等について、審査及び登録等の手続を経ることなく著作物の創作と同時に著作権が成立する5 10 15 20 25 こととなり、著作権に含まれる各種の権利や著作者人格権に配慮する必要から、著作権者の許諾が必要となる場面等が増加し、権利関係が複雑になって混乱が生じることとなり、著作権の存続期間が長期であることとも相まって「公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法の目的から外れることになるおそれがある。立法措置を経ることなく、現行の著作権法上の著作権の制限規定の解釈によって、問題の解決を図ることは困難といわざるを得ない。他方、著作権法2条1項1号によれば、「著作物」ということができるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があるところ、実用品は、それが美的な要素を含む場合であっても、その主たる目的は、専ら実用に供することであって、鑑賞ではない。実用品については、その機能を実現するための形状等の表現につき様々な創作・工夫をする余地があるとしても、それが視覚を通じて美感を起こさせるものである限り、その創作的表現は、著作権法により保護しなくても、意匠法によって保護することが可能であり、かつ、通常はそれで足りるはずである。これらの点を考慮すると、原告製品のような実用品の形状等の創作的表現について著作物性が認められるのは、それが実用的な機能を離れて独立の美的鑑賞の対象となるような部分を含む場合又は当該実用品が専ら美的鑑賞目的のために制作されたものと認められるような場合に限られると解するのが相当である。著作権法2条2項は、「美術の著作物」には「美術工芸品」を含むものとする旨規定しており、同項の美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものが想定されていると考えられるのであって、同項の規定は、それが例示29 規定であると解した場合でも、いわゆる応用美術に著作物性を認める場合の要件について前記のように解する一つの根拠となるというべきである。

として、著作権で保護される美術工芸品は実用的な機能と切り離して独立の美的鑑賞の対象とすることができるようなものに限定されると判断し、そのうえで本件については

したがって、本件顕著 な特徴は、原告製品の椅子としての機能から分離することが困難なものである。すなわち、本件顕著な特徴を備えた原告製品は、椅子の創作的表現として美感を起こさせるものではあっても、椅子としての実用的な機能を離れて 独立の美的鑑賞の対象とすることができるような部分を有するということはできない。また、原告製品は、その製造・販売状況に照らすと、専ら美的鑑 賞目的で制作されたものと認めることもできない。

 として著作物性を否定しました。
さらに仮に著作物性があったとして被告製品が侵害を成立させるのかについて、

それのみならず、仮に、原告製品の本件顕著な特徴について、独立の美的鑑賞の対象となり得るような創作性があると考えたとしても、前記のとおり、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、原告製品の形態が表現する、直線的な形態が際立ち、洗練されたシンプルでシャープな印象とは異なるものとなっているのであって、被告各製品から原告製品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。 そうすると、結局、本件において、著作権侵害は成立しないといわざるを得ない。

として侵害の余地を認めませんでした。

 以下の前回の事件と逆の判断がされちゃったということです。
https://www.ip-bengoshi.com/archives/3459

TRIPP TRAPPⅡ事件
【平成26年(ネ)第10063号(知財高裁H27・4・14)】

 まあ、この程度で著作物性を認めていたら意匠権の出る幕が無くなってしまう気がしますし、妥当な判断ではないでしょうか。
著作物性については厳しめに判断された方が自由な利用が進んで皆様やりやすくなると思うので、個人的には肯定的に受け止めています。

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