「ドルでしか石油を売らない」システムの終焉
ついにドル以外でも石油を売るのかあ。アメリカも了承したということなんだろうなあ。
アメリカは「石油兌換紙幣」以外の方法でドルを維持する算段をつけた、ということなんだろうか。
https://twitter.com/nuribaon/status/1621444902625349633?t=0-Y03ECGI3CPAXtakwnhAA&s=19
昔々、お金というのは「金」と呼ばれているように、ゴールド(金)で価値が裏打ちされていた。銀行に1ドル札を持っていったらゴールドと交換してもらえる。それにより、ただの紙切れでしかないドル札がお金として信頼されていた。ところが。
1971年8月15日、ニクソン大統領がとんでもないことを宣言した。「今日からドル札を銀行に持って行ってもゴールドと交換しません」と宣言した、ニクソン・ショック。これでドル札はただの紙切れになり、お金として通用しなくなる恐れがあった。しかしこのとき、驚くべき手を打っていた。
世界のどこに行っても、石油はドル札でしか売ってもらえない。そんな驚くべき仕組みができあがっていた。円を持っていってもマルクなどの他の国の通貨を持っていっても、石油を売ってもらえない。ドルでしか石油を売ってもらえない世界になっていた。
この仕掛けを作ったのは、ニクソンの腹心、キッシンジャーだろう。
こうなると日本は、石油を買うためになんとしてもドル札を手に入れなければならない。ドル札を手に入れるにはアメリカ人に何か日本の製品を買ってもらわなければならない。で、日本はアメリカに様々な商品を輸出。
アメリカは輪転機を回してドル札を印刷すれば、日本だけでなく、石油を買いたい世界中の国から商品を買い取ることができた。日本などはそのドル札で石油を買う。ドル札を手に入れた産油国はそのお金でアメリカから何かを買い、あるいはアメリカ国債を買って資産運用した。
この仕組みでは、アメリカの一人勝ち。なにせ、ドル札さえ印刷すれば世界中の商品を買え、石油も手に入るのだから。ドル札でしか石油を買えない、という仕組みは、アメリカに超有利なシステムだった。ではなぜ中東の産油国はドルでしか石油を売らないことに合意したのか。
中東に強大なアメリカ軍を配置したから。これにより、中東の産油国で支配層にいる人たちは、アメリカ軍の力を背景に支配層として君臨し続けられる。ドルでしか石油を売らない、という仕組みは、中東にもアメリカにも日本にもウィンウィンなメカニズムだった。
日本はアメリカに商品を買ってもらえる。アメリカはドル札を印刷するだけで世界中から商品を買える。中東はドル札でしか石油を売らないことで、支配層がずっと支配層でいられる。こうした相互依存関係が続いたのが、ニクソンショック以来の世界のシステムだった。
しかしイラクのフセイン大統領が「石油をドル以外でも売る」と言い出してから世界の仕組みに変調が起き始めた。様々な産油国がドル以外でも石油を売る。「トルでしか石油を買えない」仕組みは崩れつつある。それでも比較的最近まで、この仕組みはそれなりに続いてきた。
いわば「石油兌換紙幣」として機能してきたドルが、サウジアラビアの(ドルでしか石油を売らない仕組みからの)離脱がおきれば、いよいよこのシステムが終焉する。ドルの圧倒的パワーが崩れる。
果たして、アメリカはドルの価値をどうやって保つつもりなのか?
怖いのは「モンロー主義」に戻ること。アメリカは第二次大戦に参戦するまで、海外のことになるべく関与しないようにしていた。何しろアメリカには何もかもがあった。豊かな食料、豊かな資源、豊かな石油エネルギー、優れた技術。アメリカ一国だけですべてが手に入った。変に世界に関与する必要なし。
第二次大戦に参加したときにガラリと方針を変えた。それまで世界の方向性を決めていたイギリスが弱体化し、世界を舵取りする力を失っていた。一体どういう話し合いが行われたのか不明だが、第二次大戦をきっかけにアメリカは単独で豊かさを守る「モンロー主義」から、国際調和を指揮する立場に。
「石油兌換紙幣としてのドル」が機能するには、どうやらイギリスの協力が欠かせないらしい。石油の精製技術はどうしたわけか、アメリカやイギリス石油メジャーの力が欠かせない。大油田サハリン2は、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、石油メジャーが撤退したという。このため。
石油精製がそのうちできなくなるという。これではロシアは石油を売りたくても売れなくなる。ベネズエラもアメリカに楯突いていたら、石油メジャーが撤退、石油を思うように販売することができなくなった。石油(原油)はガソリンや軽油に精製できないと使えない。米英は技術的なキモを押さえている。
こうして石油精製技術というキモを押さえることが、「石油はドルでしか売らない」という仕組みの裏打ちもしていたらしい。
しかしいよいよ米英らアングロサクソン国は、「世界の警察」であり続ける戦略を改めようとしているようだ。
石油をドル以外でも売ると言ってる国のために軍隊を置いておく義理はない、そうアメリカが考えても不思議ではない。しかも世界的に脱炭素の方向に進んでいる。石油の首根っこを押さえていても、脱炭素が本格化すれば、いずれ世界を支配する力とはなりにくくなる。
もし、世界をリードし続ける原動力を他に見出だせないようなら、アメリカは再びモンロー主義に戻りかねない。すでにその気配はオバマ大統領のときに見えていた。中東から徐々に軍を減らしていく絵を描いていた。トランプ大統領はいったん中東の関与を増やしたが、その一方でアメリカ第一主義を強めた。
バイデン大統領になって国際主義が揺り戻しているが、いつアメリカ第一主義というモンロー主義に戻るかしれやしない。アメリカ国民の少なからずが「もう世界の警察を続けるのは疲れた、自分たちの資源は自分たちのために使いたい」という思いを強くしている。
アメリカ第一主義がもし強まったら、日本はキツくなる恐れがある。いくら商品を持っていっても「アメリカにもあるから」と買ってくれなくなるかもしれない。そうなるとドルが手に入らない。いや、ドルを手に入れたとしても、将来、中東が「ドルで石油を売りたくない」なんて言うようになるかも。
何より、食料の多くをアメリカに依存している日本は、アメリカから食料を輸入できないと危機的。アメリカが「別に海外に食料を売る必要ないじゃないか」なんて考え出すと、日本は食料調達がかなり困難になりかねない。世界で食料輸出の余力がある国は限られているから。
世界の秩序にアメリカがどう関わろうとしているのか。それによっては、日本は食料を手に入れたくても、エネルギーを手に入れたくても、手に入れようがない世界情勢になるということがありうる。
ただ、バイデン政権は、アメリカが国際社会から引っ込んで自分のことだけ考え始めると、世界中がどえらいことになり、結局アメリカも困ったことになる、ということがトランプ大統領の振る舞いで痛感したらしい。だから国際調和主義が揺り戻してる。けれどアメリカ国民は。
世界の警察を続けることで損をしている、と感じている。世論の後押しがなければアメリカもいつモンロー主義に戻るか分からない。どうやら岸田首相が防衛費を倍にしようとしているのも、そうした文脈にあるらしい。アメリカの古い兵器をバンバン買ってアメリカを喜ばせようという魂胆。
しかしアメリカの軍需産業が潤うことで、どれだけアメリカ国民が潤うか。アメリカ国民にその余沢が行き渡らなければ、日本が必死になってアメリカの古い兵器をたくさん買っても、恩に着てくれない可能性がある。恩に思ってくれるのはアメリカの主導層(エスタブリッシュメント)のみ。
しかしアメリカの主導層自体が、アメリカ国民から突き上げられがち。「アイツラは移民と結託して自分たちだけ大儲けしてる」と思われており、その怨念がトランプ氏を大統領に押し上げたという経緯がある。もし主導層がアメリカ国民全員に豊かさを配分することを怠ると、主導層は実権を失いかねない。
日本の防衛費増額で恩に着てくれるのはアメリカの主導層だけであり、もし主導層がその利益を独り占めしてアメリカ国民に渡さないような事態になると、アメリカ国民が主導層を覆し、「アメリカ主導層に恩を売ることでアメリカをつなぎとめる」という狙い自体が崩壊しかねない。
幸か不幸か、アメリカも労働者に利益を分配せねば国が持たないことを主導層がわきまえているらしい。岸田首相の狙いは成功するかもしれない。しかし防衛費を倍にという負担に、日本は耐えられるか。中古の兵器は食べられないから。
国際秩序がどう変化するかで、日本の食料安全保障は大きく揺らぐ、アメリカ一強の時代が終わり、多極化すると、日本は様々な国に気を遣いながら「食料を手に入れる」ことを達成しなければならない。これから日本は、難しい舵取りが求められる。
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