岸田政権 考

総裁選のさなかだけど、あえて岸田首相について考えてみる。
短く論評すると、「とてもよい政策を実行したのに人気とりが本当にヘタな人だなあ」。
私の中では、岸田政権の間に賃金を上昇させねばならないという社会的機運を高め、ともかくも賃金を押し上げるのに成功したのは大きな成果だと思う。

しかし、人気とりが致命的にヘタだった。総理大臣になる前は「所得倍増」と言っていたはずなのに、首相になったとたん「資産所得倍増」と言い換えた。イギリスまで行って「資産所得倍増をしますので日本に投資して」と発言。国民に対する背信行為だと私は当時、大変怒った。

「所得倍増」に「資産」の二文字を加えるように入れ知恵したのは、竹中平蔵氏ではないかと私は思っている。竹中氏はほんのちょっとした言葉遣いで全然違うものに化かす能力に卓抜している。こうした悪知恵で竹中氏の右に出る者はなかなかいない。ではなぜ岸田首相は「資産」の二文字を加えたのか?

恐らく、新自由主義の人達に突き上げられたのだろう。「所得倍増などと言って、賃金を押し上げたら我々株主への配当が減るではないか!許せん!資本を日本から引き上げるぞ!」とでも脅されたのではないか。そこで急遽「資産」の2文字を加え、労働者ではなく株主を儲けさせる政策に化かした。

「資産所得倍増」という言葉が出てきた時のことをよく覚えている。ツイッターで新自由主義の人達、株主資本主義(株主至上主義、株主原理主義)の人達が、労働者を搾取するのを当然視する発言が大変目立った。マジメに働く人をバカにし、「悔しかったら株を買えばいいのに」と。そんなカネあるか!
※金融資産ゼロが全世帯の25.8%。
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yoron/sosetai/2021/21bunruis001.html

貧困に苦しむ人を見下し、株で儲ける人間は賢くてリスクをとる勇気があって、だから報われて当然、労働者は賢い人間に搾取されて当然、という発言を繰り返していた。明らかに岸田首相が掲げた「資産所得倍増」が世論をおかしな方向に誘導していた。

そこで私は、「拝啓 岸田首相」という一文を書き、歯止めをかけようとした。この文章は官僚や政治家も読むメーリングリストにぶち込んだ。しかし新自由主義、株主資本主義の人達の跋扈は止まらなかった。
https://note.com/shinshinohara/n/nac5a4e419e85?sub_rt=share_b

そこで私はさらに「『誰もとりこぼさない覚悟』はなぜ必要なのか」という一文を上梓し、これも官僚や政治家が読むメーリングリストにぶち込んだ。すると、空気が一変した。ツイッターから労働者を見下す発言が急に消え、岸田首相が「賃金上げなければ」を連呼するように。
https://note.com/shinshinohara/n/n53d98d4625f5?sub_rt=share_b

さらに驚いたことに、経済同友会会長に就任することが決まっていた新浪氏まで「賃金上げなければ」と言い出した(※新浪氏はそれまで、新自由主義的な発言を繰り返してきた代表的な経済人)。そして、物価高に追いつかないとはいえ、賃金上昇にどの企業も前向きに取り組み始めた。これまでとは全く逆の流れ。あれだけ安倍政権の時に賃金上げろと言っても上がらなかったのに。

もしかしたら、
・これ以上貧富の格差が拡大したら、貧困層の生活は刑務所の生活と大差なくなり、法律を守る動機を失う
・アメリカの乳幼児死亡率は富裕層でも高い、それは貧困層出身のベビーシッターから受ける虐待が一因かも?
・日本でも女中が富裕層の赤ちゃんを地面に叩きつけた例が
などの指摘を私が紹介したことで、

政府も、そして株主資本主義を礼賛していた人達にも身にしみ、本気で賃金を上げなければ危険だ、という意識に変わったからかもしれない。
いずれにしろ、岸田首相の政権の間に賃金が上昇した、という功績は大きい。本来なら、岸田首相はこの点だけでも高く評価されてよいはずなのたが。

一旦は「所得倍増」から「資産所得倍増」へと方針を変えてしまった変節ぶりがあったために、私も批判せざるを得なかったし、世間も腰が定まらない人だ、という受けとめ方になってしまった可能性がある。ただ、もしかしたら、これは岸田首相なりの高等テクニックだった可能性はある。

「資産所得倍増」と口にすることで、新自由主義や株主資本主義の人達を満足させ、その人達の矛先を鈍らせた上で、実際には労働者の賃金上昇にかじを切る、という、心理戦を演じた可能性はある。もしそうだとしたら、私もまんまと騙されたクチ。でも、そんな高等テクニックはなかったかも。

私の記事が効いたかどうかわからないが、ともかく世間が「賃金上げないとヤバい」という空気に急変するということがなければ、岸田首相もどれだけ本気で賃金上昇に腰を入れていたかわからない。その意味では、岸田首相は賃金上昇に貢献したとはいえ、人気が出なかったのも仕方ないかも。

しかし、賃金が上がり始めたとはいえ、物価高に追いついていない。特に中小企業は上昇幅は大きくなく、生活はむしろ苦しさを増している。次の政権も引き続き賃金上昇に力をそそいで頂きたい。せめて岸田首相は、退任前にそのことをしっかり次の首相に引き継ぎして頂きたい。

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