タダや安売りは働く労働者の生活を破壊する

記事からは誰に配ってるのか判然としませんが、購買力のない子ども食堂に配るなら応援したいですけど、普通に購買力のある市民に配ってるのなら止めてください。農家の作った農作物がその分売れなくなり、農家の子どもたちが学校に行けなくなってしまうかもしれません。
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当然のことを言うようですが、農家は農作物を作って売り、その収入によって老父母の病院代、子どもの学資を得ています。もし購買力のある市民にタダで配られたら、その人たちのお腹はそれで満たされますから、売り物の農作物はその分売れなくなります。すると、農家は自分の家族を支えられません。

農家は市民から「捨てるなら、傷物でよいからタダで頂戴」とよく声をかけられるそうです。しかしそんなことをしたら、農家は家族を病院に通えるようにしたり、子どもを進学させることができなくなります。肥料を買うお金もなくなり、農業自体継続できません。お金を出して買うことはとても大切です。

餓死者が出るのは食べ物がないからだ、と考えるのは、一見、素直なものの見方です。だから捨てられてる農作物があるならそれを配った方がよい、と私たちはつい考えてしまいます。しかし、タダで配る・安く配るから起きる飢餓という、とても皮肉な現象があります。

アメリカの小麦は世界一安いです。アフリカの極貧の農家さえ価格で太刀打ちできないほど。みんなアメリカの小麦を食べるようになり、アフリカの農家は穀物を作って家族を支えることができなくなりました。やむなく、コーヒーのプランテーションなどで賃仕事するように。

しかしコーヒーなどの商品作物は相場が崩れ、安くなります。すると賃金が低くなったりクビになったり。すると、世界一安かったはずのアメリカの小麦さえ買えなくなり、飢餓が発生しやすくなりました。アフリカは食料を作れないから飢えるのではなく、食料が安すぎるから飢える、という皮肉な状態です。

安く販売したり、タダで配る行為は、一見、善意の行為です。しかし、それは誰かの家族が経済的に苦しむ原因になりかねません。
インドの経済学者、アマルティア・セン氏は、世界中で起きた飢饉(飢餓で多数の餓死者が出た)を調査し、意外な発見をしました。食べ物は現地にも十分あったのです。

飢饉が起きたのは、食料を買うだけのお金がなかったからでした。お店にはたくさんの食料が所狭しと並んでる。なのにそれに手を出すお金を持たない人が大勢いるとき、飢饉は起き、餓死者が出ます。そして、お金を持たない人が出るのは、その人たちの売り物が売れない時です。

東北では昔、豊作貧乏というのが起きました。食べ物はふんだんにあるのに生活できなくなるのは、作ったものがあまりにも安くなりすぎ、翌年の肥料や種子を買えなくなる程だったからです。そのため、娘の身売りが起きるなど、大変悲しいことがたくさん起きました。

モノを安く売る、あるいはタダで配るのは、一見、消費者に優しい行為です。しかし消費者も、どこかで働いてる労働者です。もし働いて作った製品と同じものがタダで配られたり不当に安く売る人がいたら、商品を買う人がいなくなり、生活できなくなってしまいました。タダで配ると労働者を苦しめます。

昔、イギリスは産業革命で作りすぎた綿製品をインドに輸出しました。はるばる海を越えて運ばれたイギリス製の綿製品は、なんと当時のインド人が手作りしていた製品よりうんと安いものでした。そのためインドは綿工業が崩壊、たくさんの失業者が出て、国全体の経済が破壊されました。

そうして弱体化したインドを、イギリスは植民地にしました。そうした現状に腹を立て、インド人の兵隊が反乱を起こしましたが(セポイの反乱)、鎮圧されました。インド人はイギリス向けに木綿を安く作らされ、余計に国が貧しくなりました。

農作物や商品を正当な価格で購入することはとても大切なことです。それによりきちんとした収入を得ることができ、家族を支えられます。人を雇うこともでき、その人も生活を送ることができます。

どこよりも安く売ることを「経営努力」だと私たちは聞かされてきました。しかし安く売れば、働く人の給料が少なくなったり、下請け企業が泣かされたりしてる可能性があります。
本来、不当な安売りは「ダンピング」と呼ばれ、みなが生きていけなくなるからやめましょう、と、規制対象でした。

ところが、日本は長らく「経営努力」により、消費者にお得になるよう、商品をできるだけ安く売ろうとしてきました。しかし消費者はどこかの労働者。安く売るということは給料が減るということ。
そう、安く売る行為は私たち働く者を生きていけなくする行為であり、「ダンピング」です。

私は、不当に安く売る行為を「ダンピング」として規制することが必要かもしれない、と考えています。働く私たちが生きていけるように。
企業間の競争は、「より安く」から「よりよい品を」に切り替えてもらい、値段は同じでもお値打ちなものを作る方向で頑張って頂きたいです。

私は実は、食品ロスを問題視し過ぎることに危うさを感じています。調べてみると、日本だけでなくヨーロッパなども同程度の食品ロスが出ています。日本だけ飛び抜けて食品ロスが多い訳ではありません。しかし食品ロスゼロを目指すがあまり、タダか安く配ることをしたら、農業は崩壊し、飢えかねません。

安いことは必ずしも善ではない。このことはぜひ頭に入れていただきたいことです。
これから世界は大きく変容します。経済の仕組みももしかしたら抜本的に見直さなければならない時代に突入するかもしれません。
とりあえず、今の経済システムでは、タダや安売りは誰かの生活を破壊します。

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